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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
93/112

5-28 センパイが悪いよセンパイが

「いっ……たあー!?」


 土煙が晴れると、当然のように陽花は変わりないままそこにいた。

 いや、厳密には、変わりないわけじゃない。

 背中からは薄く透き通った羽が生え、髪はエメラルドのような深い色に、スポーティな服装はドレスかと思うひらひらとした服に変わった。

 まるでお伽話の妖精のような可憐さだ。いつもの陽花なら絶対にあり得ない服装である。

 もちろん早着替えしたわけじゃない。

 俺のネプテューヌ、真琴のマーメルスと同じ、自分に宿るダンジョン生命体の力の解放。

 その名も、ユピテールという姿らしい。ちなみに発動条件は、極端に感情が昂った時、だそうだ。

 俺のネプテューヌなんて発動すれば死へのカウントダウンが始まるってのに、つくづく条件の違いが嫌になる。

 とにかくこれで、陽花の元から高いパワーが数倍に跳ね上がる。

 しかも飛行もできるから、あの体勢からでも致命打を与える事が可能だ!

 うん、これはあんま言っちゃ駄目かもしれないけど……最初からやれよ、それ! ほぼノーリスクなんだから!

 俺が知恵絞った意味ないじゃんね!


「うりゃああ――――っ!!」


 ――ガンッ!


「おおりゃああ――――――っ!!」


 ――ガンッ! ガッ! ゴッ!


「こんにゃろおお――――――っ!! ボクの気もぉ! 知らないでぇ! ノーム、ノームってえ! 浮気者ぉ!」


 ――ガッ! ゴッ! ドゴッ!

 引っ掛かっている右腕はそのままに、左腕や脚、頭突きまで使った連打をバリアに食らわせる陽花。

 ていうかなんか、気のせいかあいつ、ガーゴイル以外への恨み節も吐いてない?

 しかも俺宛てっぽくね? いや、気のせいだよな、たぶん。


「センパイの……アホ――――――――――――!!!!」


 ――ガシャァァァンッ!!

 ガラスが破砕したような音を立て、バリアが砕け散った。不可視のそれはキラキラと光りを反射しながら散っていく。

 魔法ガーゴイルも、まさか腕力で割られると思ってなかったのか、あんぐりと口を開けてめちゃくちゃドン引きしているようだ。

 ていうか、今俺への文句叫んだよね。じゃあもう、完全に俺への怒りらしきもので解放できたんだね。

 あれか、なんか機嫌悪かったっぽいの、俺がノーム様とベタベタしてるからか。


「曽良」


 とか言ってると、ノーム様がすり寄ってきた。


「対価、ずっと、未払い」

「お、おお」


 ちらっと上空を見ると、この距離からでもわかるくらい、陽花が目をかっ開いてこちらを睨めつけていた。

 視線で人が殺せそうなレベルで、怖い。

 魔法ガーゴイルは、哀れにも左手で顔面を掴まれもがいていた。

 何発か打撃を加えているが、陽花の体幹は揺らぎもしない。そいつ、運動神経だけならインハイ並みな上に超強化されてるんだ。ご愁傷様。


「あ、あー、ノーム、ちょっと今は……後でじゃ駄目?」

「駄目ー」


 ノーム様はシルクの髪をこすりつけてくる。

 あーこれは駄目だ。駄目ですよ。新手の拷問じゃないのかこれ? こんなん食らったら俺が訓練受けたエージェントだろうと雇い主の昨日の晩飯まで全部事細かに喋っちまうよ。

 ――ゴッ!


「おわあっ!?」

「ひ、陽花!?」


 俺の足元が弾け飛んだ。

 不可視の弾丸に抉られたように、深い穴が空いている。

 ちょっとずれてたら間違いなく、脳天から尻まで内臓が一直線にされていただろう。


「あ……あっぶねえだろてめぇ!?」

「あー、すんませーん。ミスったっすー」

「それガーゴイルに撃とうとしたんだよな? そうだよな? 俺に当てるのミスって床に当たったとかじゃないよな」

「……ふっ」

「何でそこで笑うの!? 怖いよ! ていうかいい加減、ガーゴイルをその生き地獄から解放してやれって! めちゃくちゃ可哀想!」


 俺がそう叫ぶと、メキメキという聞きたくない音と共に、ガーゴイルは頭を砕かれ落下した。

 空中で霧散していくガーゴイルに、俺はまるで未来の自分を見ているかのようで、非常に居たたまれなくなった。


「はー、スッキリした」


 下りてきた陽花はユピテールを解除し、開口一番そう言った。

 ここに入って来た時以上に晴れ晴れとした顔をしていらっしゃる。俺は陽花さんが楽しそうで、何よりだよ。


「センパイも、気を付けないとグシャッ、すよ、グシャッ」

「その擬音と拳をニギニギするのやめてくれ。何をグシャる気なんだ……。あー、陽花。その、なんだ……すまんっ!」


 そう断って、ノーム様の頭をぐりぐりと撫で回す。

 ああ~気持ちええんじゃあ~!

 これこれこれ! これだよやっぱり!

 後輩にケツを痛めつけられたとしても、これだけはやめられん!

 しかもこれで力が使い放題なんだぜ? そりゃテンションも上がるってもんよ!

 ……しこたま撫で回して満足した俺が振り返ると、陽花がものっそい感情の死んだ目になっていた。


「ひ、陽花?」

「はい」

「その……私の気のせいなら申し訳ないんだけど、目がすごく、闇を湛えているというか、均したように起伏がないというか……」

「そんな事ないです」

「その口調も……し、シルフ! 陽花はどうしたんだ?」


 絶句して何も言えない俺の代わりに、真琴がシルフに向かって叫んだ。


『前にも言ったけど、僕の契約は陽花の感情が生む力なんだよね。ユピテールはその感情の火を一気に煽って燃え上がらせるわけ。だからまあ、全部出し尽くしたらこうなるよね』

「この、生まれたての軍事AIみたいな淡白極まりない性格にか!?」

『何焦ってんのさ。そんなに嫌ならキミがキスでも何でもしてやればいいだろ。人間ってそういう安いロマンス好きだろ~』

「シルフ。縊りますよ」

『…………』


 ヒカリヤダンジョン攻略、道半ばにして、まさかの感情の死を迎えた陽花。

 果たして、俺達のパーティはどうなるのやら。

 ……これ、戻らないとか、ないよね?


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