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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
1章
9/112

1-9 尻は基本だ。覚えておけ

 まず最も右にある鎖、『終わり』と刻まれたものを引く。これは引いても何も起こらないハズレの鎖だ。

 そして『水』、『大地』、『風』、『光』、『火』を順番に引っ張る。その間、何故かモンスターは降って来なかった。

 全て引き終えると、ゴリゴリゴリという重い音が響いた。


「隠し扉か!?」


 だが、壁はどこも変わっていない。

 思わず天井を見上げるのと同時に、縄梯子が落ちてきた。


「うおおおおおおっ!! お、おい! 見たか? 解いちゃったよ、俺!」

「すっげーっす! ぱっねぇーっす!」

『う、そ……。あの物語が、迷宮の仕掛けに……?』


 やべえよ、天才じゃないのか俺。

 訳の分からない情報から見事答えを導き出す頭脳、フリーターにしておくには惜しいと思いませんかね、日本の企業の皆さん!

 ヘッドハンティング、期待しとります。


「よ、よし、上るぞ」

「えー、最初はボクに行かせてほしいっす!」

「いやいや駄目だよ。ほら、パンツ見られたくないだろ? じゃ、お先」

「パンツじゃないっすもん! ちぇー」


 駄々をこねる陽花を置き去りにどんどん縄梯子を上って行く。

 この先に待っているのはなんだ? めちゃくちゃデカい肉まんとかか?

 なんにせよ、俺のまだ開花していない戦闘能力を発揮する時だ。というかなにも活躍できなかったらレベルも上がらないし、この先困る。

 ここは後輩には、先輩を立てるという事も覚えてもらうべきだろう。


「おーっし上り切った! さあ、出てこい肉……ま……」

『あわわわ…………』


 ちょっと縄梯子を戻る。

 上りかけていた陽花を押し戻し、呼吸を整えて訊いてみた。


「陽花、お前、ななチキと揚げ鶏だったらどっちが好き?」

「へ? うーん……ななチキっすかねえ。ちょっと高い分、なんか勝ったぞ! って感じしません?」

「あー分かる分かる。んじゃ、ここはお前に譲ろう」


 笑顔で陽花の肩をぽんぽんと叩いてやると、ぱっと顔を輝かせた陽花は猛烈な勢いで縄梯子を上り始めた。


『あなた本当に下衆よ』

「いいんだ、これで。だって……」


 陽花の姿が天井の暗闇に消える。


「さーて、ボスはどこっすかー!? ボス……ボ……んぎゃああああっ!? な、なんすかこいつ!! なんっ……センパーイ! センパイ! センパイセンパイ、センパ――――――イッッ!!!!」

『すっごい呼んでるわよ』

「うん。助けに行きたいんだけどね……。あれはマジでヤバいし……」

「センパ――――――――――――――――――――――――――――――――イ!!!!!!!!」


 あーもう、悪かったって。

 だって予想できないだろ、こんなふざけたモンスター達の親玉があんな化け物だなんて。

 ウンディーネに促され、俺も渋々、縄梯子を上り始めた。


◆◇◆◇


 天井裏は明らかに元になったコンビニよりも高く、広い空間になっている。

 そもそも三階層も下に下りて、また上がってと空間はぐちゃぐちゃにねじれているのだが。

 そんな空間に鎮座していたのはとんでもないモンスターだった。


「あっ、センパイ!? ぼ、ボクを囮にしたんすか!?」

「だってお前先に行きたがってたし、ななチキ好きって言ったじゃん」

「チキンは好きっすけど、あれチキンじゃないじゃないっすか!」


 既にボスと一戦交えたのか、陽花の格好はボロボロだ。体に傷は付いていないようなので一安心。

 まあ、俺だけどね、行けって言ったの。

 さっきからウンディーネがものすごいジト目で睨んでる気がする。腹の中から睨まれてる。ははっ、この錦曽良、その程度では良心の呵責もないよ。

 さて、ボスは超巨大な肉まん……ではなく、一言で言えば、鶏だった。

 ただし柴ベロスやデカ肉まんのように、多少の可愛げすらない完全な化け物。

 ゲームだと、コカトリスとか言われてるようなアレだ。

 ギョロッとした目でこちらを睨んでおり、威嚇するように羽を広げている。

 しかも尻尾も蛇だし、その全てがこちらを油断なく見ているもんだから、死角に回り込めそうにもない。


『間違いない……あれが主よ』

「肉まんの例を考えると、あいつ多分、チキンから生まれた奴だろ」


 出自は馬鹿臭いのになんでこんなえげつない外見なんだ。

 じりじりとにじり寄ってくるコカトリス。えっと、睨まれたら石にされるんだっけか。それはバジリスクの方だったか?

 違いもよく分からないし、分かった所でなにかできるとも思えない。


「よし、陽花。作戦を立てた」

「マジっすか」

「お前が突っ込んで、あいつの鶏頭をボコボコにするんだ。俺はその間、石とか投げとく」

「よーし……。えっ、それ、ボク死にません?」

「大丈夫だ。お前は強い」


 ぐっと親指を立てて鼓舞してやると、その気になったのか陽花はしかとバットを握って先端をコカトリスに向けた。

 単純で良かった。


『あなた本当に下衆ね』

「褒め言葉だよ」


 気合の咆哮と共に陽花がコカトリスへ駆け出す。

 さっきはああ言ったが、もちろん石投げてるだけで援護になる訳もないので、俺は俺で後ろへ回り込む。


「りゃああっ!」


 跳び上がった陽花のバットがコカトリスの頭を捉える。ぐしゃっとトサカが潰れ、頭部が揺れる。

 だが、肉まんほど簡単には砕けない。ぐらついた頭をすぐに立て直し、鋭利なカミソリのような羽を振るった。


「ひゃあっ!?」


 空中で器用に身を捻ってそれを躱す。地面に落ちた陽花は、転がって追撃の踏みつけを回避した。

 映画みたいなアクションに思わず息を呑む。どうしよう、ここまで陽花がやれるとは思ってなかった。

 俺がやらせてるんだけどね!

 取り落としたバットを前転しながら回収した陽花だったが、バットは持ち手のすぐ上ですっぱりと切断されていた。

 コカトリスの羽の攻撃か。躱せてなかったら、陽花が両断されてただろう。

 苦々しい顔でバットを捨てる陽花。

 どうするのかと思いきや、右手を前に、半身に構えた。

 いやいやいや、さすがにモンスター相手に素手は無理だって!


「陽花っ!」


 俺の持っているバットを投げて寄越す。

 大丈夫、俺にはウンディーネの『アクア・ネビュラ』を使う能力がある。

 強く念じると、重さのない槍が手の中に現れた。


『ちょっと、丁寧に扱ってよ』


 ウンディーネの抗議は無視!

 バットを受け取った陽花は低く構え、矢のように跳んだ。

 真正面からコカトリスの顔面めがけてバットを突き入れる。

 だが、それは嘴でガッチリと噛まれてしまい、有効打にはならなかった。


「くそ、俺が後ろから……!」

『あなたまたお尻狙ってる!?』


 食らえチキン野郎、奥義・千年殺し――!


「ふっ!」


 ガンッ!

 バットを手放した陽花だったが、コカトリスが攻撃に転じる前に右足でバットを蹴り込んだ。

 さらに右の掌打、左足の前蹴り、左の掌打……と連続でバットに攻撃を加える。

 10発ほど打ち込んだ時、コカトリスに異変が起こった。


『グエエエッ……!』


 尻尾の蛇も含めて苦しげな叫びを上げる。

 俺を見ていた蛇達が身をよじり、一斉に陽花に襲い掛かった。

 さすがにこれはヤバい、今度こそ、奥義――!


「はあああぁぁ……!」


 シュッ、と腕を振るうと、陽花の手前で蛇の一匹が落ちた。

 その首は鋭利なもので切断されている。

 え、何したのこの子!?

 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……と腕を振る度に蛇が落ち、最後の一匹が落ちた時、俺は完全に引いていた。

 コカトリスも後退っている。

 どうやら、嘴も砕けているらしい。バットがひしゃげ、口の中に詰められていた。

 待て待て待て待て、待てって!

 人間の限界とかそういうものをカジュアルに超えるな!!


「センパイ!」


 陽花の声。呆気にとられていた俺が視線を向けると、彼女はぐっと親指を立てた。

 は、ははは、意趣返しか?

 だが、その顔は妙に晴れやかで、俺を信頼しきった目をしている。


「……使うか、奥義」

『待って!? またお尻なの!? ね、ねえ、お尻じゃなくてもいいんじゃないの? そ、そうよ、首! 首を狙いましょう!? 大体の生物は首が弱点……ちょっと! 首! 首だってば!! そこは違っ……あああああああああ嫌ああああああああああ……!』


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