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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
89/112

5-24 ラティナ

 その少女――ラティナの生は、最初から決定づけられていた。

 それこそ、胚の頃から……。


「…………」


 試験管に浮かぶそれらを、ラティナがぼんやり眺めていると、大きな手が肩に置かれた。

 見上げると、そこには育ての親、大神官が立っていた。


「ラティナ。また、ここへ来ていたのかい? 妹や、弟を……心配する気持ちはわかるけれど、危ないから、入ってはいけないよ」


 大神官の声は優しい。けれどもそこには、有無を言わさぬ圧力があった。

 ラティナは素直に頷き、促されるまま部屋を出る。

 城を歩く彼女には、出会う者全てが傅いた。

 皆異口同音に「聖女様」と述べる。ラティナ自身は、自分の名を呼ばれない事が不思議で仕方なかった。

 自分は何のために生まれたのか。

 その意味自体は何度も聞かされてきた。

 かつて存在したという四元と呼ばれる精霊達。その一柱、最も大きな力を持った水の母精・ウンディーネ。

 その存在を降ろすための器なのだと、ラティナは聞いていた。

 四元達は、過去に世界を終わらせ、再び創造した後、どこかへ消えてしまったのだという。

 自分達には無関係の、遠い遠い昔話ではあるが、しかしどうやらお伽噺というわけでもないらしい。

 いまいち現実感のないまま、ラティナは教団の言うがままの生を送っていた。

 何故、自分が聖女と呼ばれるのか。どうにも、自分の姿がウンディーネにそっくりである事だけが理由ではないらしい。

 幼いラティナには、教団の教育係の言う事の全ては理解しきれていない。理解できずとも、いずれウンディーネと契約さえすれば解決するのだと言われている。

 ラティナは疑いも抱かず、言われるがまま従っていた。


 そんな日々が数年続き、ラティナの周囲に変化が起きた。

 新たに生まれた、3人の器。1人の少女と2人の少年。

 皆、ラティナと同じく、四元を降ろす事を期待された者達だ。

 感情の薄いラティナと違い、3人は実に豊かな心を持っていた。

 火の少年は、乱暴で教育係にも反抗する跳ねっ返りだが、仲間思いな一面があった。

 風の少年は、悪戯好きで意地悪だが、寂しがり屋で、他の3人にはずっと付いて回っていた。

 大地の少女は、不思議な魅力を持っていた。皆、立場や使命を超越して、彼女の思惑に従わされる……。そんな空気を纏っているのだ。

 ラティナは、彼らより先に生まれた者として、便宜上彼らの先導を担っていた。

 ところが彼らはラティナより高い能力を持ち、完成した人格を与えられていた。ラティナは、教団に与えられた先導者という立場上、彼らを導くだけであり、実際は彼ら3人の発言の方が尊重され始めた。


 やがてラティナは、時が来るまで不要と断じられた。

 それが3人の意思であったのかはわからないが、誰かが不満を持っていたとしてもおかしくはないだろう。

 ラティナは牢へ入れられ、自由に出歩けなくなった。彼女が出歩けば、立場と能力の差で信者が混乱してしまいかねない、というのが伝えられた理由だ。

 そんな生活すら、彼女にとってはどうでもよかった。

 元より与えられた生を浪費していただけの人生なのだ。

 粗末な木組みの上に藁と襤褸布を敷いただけのベッドの上で、暗い天井を眺め、ひたすら無心でいた。

 だがある日、唐突な変化が起きた。


 コツコツ、と音がする。

 石に何か打ち付けるような音だ。

 鉄格子に近付いて廊下を眺めても、近くには誰もいなかった。

 なのに響いてくる、という事は、音の主は目に見えない近場にいる事になる。

 不思議に思い周囲を見回している時、頭にコツンと硬い物が当たった。

 思わず上を見ると、そこに小さな穴が開き、光が漏れていた。


「ラティナ、見つけた」


 穴の向こうから響いたのは、フラネル……大地の少女の声であった。


「今行くから、一緒に遊ぼう」


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