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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
88/112

5-23 作られた聖女

 袋小路で窮するウンディーネは、なんとか脱する方法を探した。

 一気に通路から飛び出し、駆けるのはどうだろうか。

 無駄だろう。シュラとの体格差、力の差を考えれば、潰されるのは目に見えている。

 使えそうな武器を探すも、花瓶一つ、近くにはなかった。

 まさしく絶体絶命。

 どうせ殺されはしないのだから、いっそ捕まっても構わないが、次に捕まればおあつらえ向きに天井に穴の開いた、あの牢へ入れてもらえるとは限らない。

 今度は逃げ出さないよう、多少粗っぽい処置をされる可能性だってある。

 相手は、ウンディーネの力さえあれば良いのだろうから。

 もうあと数歩のところまでシュラが迫った時、一つの解決策を思い付いた。

 確か、テレビで観ていた護身術特集にあったはずだ。

 か弱い女性が暴漢に襲われた際、どうやって逃げればいいのかという点に主眼が当てられていたと思う。

 危険なのでやめるように言っていた気もするが、防犯グッズも、手にバッグもない状況では、これしか頼るものがなかった。


「ウンディーネ様、そちらにおられますな」


 シュラが角に差し掛かる。

 ウンディーネは呼吸を整え、相手の『的』を意識した。

 あまり見たくないそれを、的確に狙えるようイメージする。

 やがて、シュラが角を曲がって姿を現した。相変わらずの裸だ。

 『的』も、ちょうどよくむき出しになっている。


「おおっ、ウンディーネ様。どうかお手を煩わせぬよう――」

「てえいっ!!」


 どすっ。

 ウンディーネが勢いよく蹴り上げた脚が、鈍い音を立てた。

 真正面を向いたシュラの股ぐらに脛がめり込んでいる。

 やったか、と恐る恐る顔を確認すると、シュラは白目を剥いた壮絶な表情をしていた。


「かはっ……」


 脚に触れている嫌な感触から急いで離れ、ふらつくシュラに道を譲るように避ける。

 そのまま、シュラは数歩進んだ後、股間を押さえてゆっくりと倒れ込んだ。

 痙攣し、動かなくなったシュラの様子を確かめ、ウンディーネは一目散に駆け出した。


「まさかこんなに効くなんて……」


 走りながらポツリと呟く。

 何かあれば曽良にお見舞いしてやろうと思っていた技だったが、鍛え上げた体を持つシュラですらこれなので、曽良ではおそらく死んでしまうだろう。

 本当に最悪の時を除き、使わない事を決意した。

 一心不乱に逃げたウンディーネは、やがて大きな扉の前に着いた。

 少々躊躇った後、扉に手を掛ける。

 中は、先ほど聖女がいた部屋であった。

 カーテンの向こうには人影。おそらく、聖女だろう。

 聞きたい事は山とあるので、中へ入って近寄る。


「ねえ、ちょっといいかしら」

「っ! ウンディーネ様、どうして」

「牢なら、天井に穴が開いてたわ。あんなザルな作り、やめておいた方がいいと思うわよ」

「……そうですか、シュラはあそこにあなたを連れて行ったのですね……」


 どうやら聖女は、ウンディーネが入れられた牢について心当たりがあったようだ。

 なおさら塞いでおけばいいのに、とウンディーネは呆れていた。


「あなた、どういうつもり? 私と契約して、私に力と記憶を取り戻す、とかあの男は言ってたけど。そんな事、できるの?」

「それは……わかりません」


 思わずずっこけそうになる。

 それができるから、わざわざ曽良と引き離し、攫ってきたのではないのか。

 できないのならここまで手荒な真似もしなくて良かったはずだ。


「あなたねえ……。こっちはいい迷惑だったのだけど。裸の男に無遠慮に担がれて運ばれるのって、すごく屈辱なのよ!?」

「それについては、謝罪いたします。あと、シュラにはあの恰好はやめるよう、申し付けておきますので」

「なんなら私の周囲に近づかせないでほしい……。で、結局のところ、あなた達の狙いって何? 私の力が欲しいの? なら、お生憎様ね。私にはもう、おそらくあなた達の知っている力なんて残ってないの」

「……それは、知っています」


 聖女は口ごもった。

 ため息をひとつ吐き、カーテンへ近付いたウンディーネは、勢いよくそれを引いた。


「あ……」


 カーテンの向こうにあったのは玉座だ。そしてそこには、年端もいかない少女が座っていた。

 この世界の人間にはあり得なさそうな、真っ青な髪をしている。

 それはともかくとして、その顔、雰囲気を見てウンディーネは驚いた。


「ウンディーネ、様……。本当に、わたくしと似ておられるのですね。いえ、逆でしょう。わたくしが、ウンディーネ様と似ている……」


 そう考えていると、聖女もまた同じ事を述べた。

 自分には兄弟姉妹など存在していないだろうが、目の前の彼女は、妹と呼んでも信じられてしまうほどに似ていた。

 もしも自分が人間になって、10歳程度になったならこんな感じだろうか、とウンディーネは考える。


「生を受けてから、ずっと。わたくしはウンディーネ様の器となるよう、言い聞かされてまいりましたが、これほどまでに似ているのなら、それも仕方のない事だったのでしょうか」

「……あなた、何なの? ただのそっくりさん、じゃないわよね、たぶん」

「ええ、おそらく。わたくしも、生まれる前の事はわかりませんが……そうなるよう、作られた存在なのでしょう」


 作られた存在。

 その言葉に、ウンディーネははっとした。

 そしてある予測を立てる。この少女は、人間ではないのでは、という予測を。


「どうせ、あの男はしばらく来ないわ。だから、知っている事があるなら、話して。あなた達の存在について」

「…………わかりました」


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