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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
86/112

5-21 明日のために寝るぞ

 ヒカリヤダンジョンも三階層まで来て、敵の攻撃はより一層の激しさを増した。

 二回りくらいサイズアップした敵に加えて、ガーゴイルが遠距離からデカい弓を撃ってきたり、魔法らしき光弾を放ってきたりとやりたい放題してきやがる。

 だが、俺達も負けちゃいない。

 陽花がシルフの弓で牽制し、近付いた俺がガイア・ノーツで動きを止め、真琴が強力な剣の一撃で仕留める。

 3人のコンビネーションで、初見の敵でも対応できていた。

 ……ってのは、三階層に着いた当初の話だ。

 元からスタミナのない俺はともかくとして、体力馬鹿の陽花も、完璧超人の真琴も、疲労の色が濃くなっていた。

 さっきから、上の階層に来ているはずなのに一向に景色が変わらない。

 ノーム様に聞いてみても、「ちゃんと進んでる」との事だが、まったく実感できなかった。

 このままだと早晩、体力切れでモンスターに殺されるのがオチだ。ただでさえ攻撃は激化しているし、1体1体が強力になってるってのに。

 どのくらい先が長いかもわからない。

 ぐったりして座り込む陽花と、だんだん無口になりつつある真琴。

 俺が下すべき決断は……。


「よし、今日はここで休むか。攻略は明日にしようぜ」

「!? い、いえ、大丈夫です……」

「無理すんなって。幸いこの部屋、モンスターも出ないし、持ってきた寝袋だけでも十分に夜を越せるだろ」


 今が夜なのかも疑わしいけどな。

 スマホを見ると、時刻は既に夜の10時を回っていた。ダンジョンに入ったのが朝の9時だから、13時間も攻略を続けてた事になる。

 これ以上はさすがに無理だ。

 バックパックから寝袋を取り出して敷く。


「焦っても良い事ねえよ。大丈夫だって、さすがに老人になる前には攻略できるよ」

「……私の事は、どうでもいいです。でも、曽良さんの契約が……」

「それも、大丈夫だ。あいつならどっかにぶち込まれても、なんか上手い事やって逃げ出すだろ」


 たとえば牢屋の天井に穴開けて、とかな。

 だからあんまり心配はしてない。そもそも契約切られたところで、何かデメリットがあるのかもわかってないし。

 それに……別に、切れた契約なら、結び直せばいいだろ。

 どーせ頼れる人間もいないぼっちダンジョン生命体なんだ、ここを攻略したら行くところもないだろうからうちに転がり込むだろうし、まあ、そのついでに契約してやってもいい。

 契約が切れた時は切れた時って事で、その時考えりゃいいかな。


「つーわけで、寝よう。あ、今のは誘ってるとかセクハラとかじゃないからな。俺は離れたとこで寝るから、なんかあったら呼んでくれ」


 既に寝息を立てている陽花を起こさないよう、声を潜めてそう言う。

 自分の分の寝袋を持って、真琴達からは離れた場所へ行く。

 硬い石床の上に薄い寝袋を敷いて寝転がると、寝心地なんて気にする間もなく俺の意識は転がり落ちていった。


◆◇◆◇


「きゃあああああああっ!!」

「はっはっは、どこへ行こうと言うのですかなウンディーネ様――!!」


 前を隠す事もなく堂々と胸を張った早歩きで追ってくるシュラから、ウンディーネは泣きながら逃げ回っていた。

 まるでどこかの城を思わせる内装の建物内を、階段を上ったり下りたり、時に部屋を開けて中に飛び込んでみたりと縦横無尽に駆けずり回る。

 だが、シュラはまるでこちらの位置がわかっているかのように的確に追ってくるのだ。

 何度引き離しても、必ずどこからかひょっこりと現れる。


「な、何なのよあいつは……! ていうかまず、服をちゃんと着なさいよ……」


 物陰に隠れて息を潜めながら、ウンディーネは悪態をついた。

 何故自分がこんな目に遭っているのかと世を呪うしかない。

 記憶もなく、生まれたところとは違う世界へたった1人で放り出され、ろくでなしの人間に尿を掛けられて力を失った。

 踏んだり蹴ったりな今の自分の生活は、しかし不思議と、うんざりとはしていなかった。

 本来ならたった1人、あの泉で自分が何者かもわからず過ごす事になっていたのだと考えれば、曽良と共にダンジョンを攻略する日々も、悪くはないかと思えるのだ。

 だからさっさと助けに来て欲しい。ウンディーネは心からそう願った。


「ウンディーネ様ー! どちらへおられますかー!?」

「答えるわけないでしょ……」

「もうすぐ『契りの刻』でございます! さあ、本来あるべき姿とお力を、我らが聖女様と契約して取り戻すのです!」

「……え?」


 聖女との契約。本来の力を取り戻す。

 シュラは確かにそう言った。

 自分さえ知らない、自分の本当の姿。

 漠然とした記憶にある強大な力。

 それらを取り戻せば、この喪失感も消えるだろうか。

 だが、そうすると曽良との契約はどうなる?

 解除されれば、自分はともかく、曽良の命が危ういかもしれない。

 そう考えると、おいそれとシュラの話に出て行く気になれなかった。


「ふむ……」


 シュラは呟くと、しゃがみこんで地に手を付けた。


「そこにおられますな」

「えっ!?」


 ぐりん、とシュラの顔がこちらを向いて、ウンディーネはぎょっとした。

 完全にシュラからは見えない位置であったはずだ。それが何故、わかったのか。

 シュラが気色の悪い笑みを浮かべながらゆっくりと近寄ってくる。逃げようにも、ここは袋小路だ。

 絶体絶命のウンディーネは、1人の人間の顔を思い浮かべていた。


「曽良……!」


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