5-20 トレジャーハント(空き巣とも言う)
「うん、しょ……」
小さく粗末なベッドは、今のウンディーネでも頑張れば持ち上げられた。
部屋の片隅に立て掛けて、壁を利用してベッドによじ登る。
アンバランスな足場を壁に手を付いて支えながら、天井に手を伸ばす。
「これで中が物置とかだったら笑っちゃうけど……ん……あ、開いた!」
手を掛け、体を持ち上げるも、一息で上がれず、ウンディーネは脚をばたつかせた。
「ふんっ、ぎぎぎ……!」
顔を真っ赤にして歯を食いしばりながらも、なんとか這い上がったウンディーネは、周囲を見回した。
暗く埃っぽい部屋に顔をしかめつつ、外に出られる扉がないかを手探りで探す。
すると、硬い物に脛をぶつけ、ウンディーネは床にしたたかに顔を打ちつけた。
「いっ……たあ~……!? な、何よ、コレ……」
つまずいた物を触って形を確かめる。
手触りからすると木製の箱のようだ。天面は曲線になっており、枠の部分が金属でできている。
ペタペタと触っていると、小さな穴が空いている事がわかった。
「こ、これってもしかして……ベタな宝箱、かしら? 明かり、明かりは……」
無意識で蛍光灯のスイッチを探してしまい、迷宮にそんな物があるはずもない事に気づき、ウンディーネは苦笑した。
ずいぶんと、人の生活に染まってしまったと思う。それもこれも曽良のような男と知り合ったせいだ。
そう自分を棚上げしてから、ウンディーネは慎重に立ち上がり、壁沿いに歩こうとして……またつまずいて転んだ。
「ふぎっ!? な、何!? ここ、どんだけ障害物多いのよ……!」
全盛の力があれば、自分で生み出した水に光を与える事もできるのだが、今のウンディーネには若い人間の女と同程度の力しかない。
何度もつまずいて顔を打つのが嫌で、這って移動する事にした。
手で前を探りながら這うと、思った以上に周囲に箱が積まれている事がわかった。
わかった所で明かりもなく、当然ながら鍵も解錠の手段もない今、どれだけ財宝が貯め込まれていようと持ち腐れというものだ。
持ち腐れも何も、そもそも自分の持ち物ではないのだが。
「あ、ここ、扉かしら。風が漏れてる……」
立ち上がり、触ってみると、輪状の取っ手の付いた扉だった。
取っ手を掴んで押すと、軋む音を鳴らしながら扉が開いた。
廊下の松明の明かりが部屋に差し込んできて、ウンディーネは思わず目を瞑った。
「良かった、出られる! って、見張りとかいない、わよね?」
仮に見張りがいれば既にアウトなのだが、そんな事は気にせず、廊下に頭だけ出して左右を見回してみる。
幸いにして、廊下には生物の気配はなかった。
ほっと胸を撫で下ろし、扉を開けて中に光を取り入れてみる。
予想した通り、この部屋は宝物庫であったらしい。
蓋の開いていない宝箱がいくつも並んでおり、自然と胸を高鳴らせた。
「ほ、本来ならこういうの、スルーしちゃうけど……。まあ、いいわよね。うん。迷惑料って事で……欲しい水槽もあるし……」
身勝手に言い訳しつつ、明かりを頼りに鍵を開ける方法を探すと、壁に鍵束が掛かっているのを見つけた。
早速手近な宝箱に、鍵束に付いている鍵をひとつ差してみる。
合わないので次、また次……と試していると、カシャン、と解錠される音が聞こえた。
「本当に開いた……。普通、宝箱と鍵って一緒に置かないでしょ。うっかりってレベルじゃないわね」
自分が盗人である事実はどこかへ投げ捨て、宝箱を開けようと手を掛ける。
だがその瞬間だった。
「ウンディーネ様!!」
シュラの声が響き、ウンディーネは身を強張らせる。
そういえば、足場に使ったベッドはそのままであった。
しかも天井の板が外れており、部屋に差し込む明かりがそのまま落ちている。
床の穴からぬっと顔を出したシュラが部屋の中を見回し、ウンディーネと目が合った。
「おられましたな」
「あ……ああ……!」
唇をわななかせ、ウンディーネは急いで立ち上がって逃げ出した。




