5-19 プリズン・ブレイク
おっさんの危機が去り、安堵した二人が合流してからしばし、俺達はノーム様の導きで先へ進んでいた。
が、歩みはここに来るまでよりもはるかに遅い。
その原因は、討伐なんて当然されていないモンスター達の襲撃によるものだ。
1階層とは違う武器を持ったガーゴイルに、色が金にグレードアップした金属狼、3メートル級の鎧兵士まで襲ってくる。
それに加えて新顔も出てきた。
ラッパを持った天使の石像が、群れで襲ってきたのだ。
「センパイ! あれ、あれもちん……」
「皆まで言わんでいい! あんなもん、ナマのに比べたら可愛いもんだろが! 嫌ならその弓矢でぶっ壊してやれ!」
「わあーっ!! わああーっ!!!!」
「あっぶね!? お前、馬鹿、おい! 狙いは付けろ! せめて!」
天使で、しかも石像なんだから付いているのが当然とはいえ、どうやらおっさんの剣は陽花にとってのトラウマになってしまったらしい。
ちょっとでも備えていようものなら、問答無用で撃ち抜いていっている。
アグレッシブなのはいい事なんだが、馬鹿の移動砲台ってめちゃくちゃ怖いからもっと離れてほしいんだよな。
視線を移すと、真琴が3体の鎧兵士の間を跳び回り、叩き斬っているところだった。
本当にステータス補正だけでやってるのか疑わしい動きだ。
俺だって少なくとも、コンビニダンジョンの時の陽花よりは強い自負があるんだけど、とても素手で金属バットをひん曲げたりはできそうにない。
俺達3人を囲んでいた鎧兵士、天使の石像、そして金属狼は全て倒され、塵になって消えていった。
後には宝石のような物が残る。これはこの階層に来て初めて見た物だ。
手に取るとほんのり温かい不思議な石。ノーム様の話によれば、モンスターの力の源であるらしい。
ゲーム風に言えば、ドロップアイテムってところか。今まで攻略してきたダンジョンでは見なかったけど、どうしてここに来て急に手に入るようになったんだろうか。
それをノーム様に伝えると、しばし考えた後、可憐な口から答えを出してくれた。
「活性化……」
「活性化?」
「あたし、曽良、出会った。全ての、迷宮、活性化、してる、かも」
「俺とノームが……え!? じゃあ、運命の出会いってこあ゛い゛っで!? 陽花てめぇ、ケツ蹴っただろ今!」
尻に爆撃みたいな衝撃が走り、一瞬意識が吹っ飛びそうになった。
陽花の奴、俺の扱いがすげー雑になってきやがったな。
にしても、活性化してるってどういう事なんだろうか。俺とノーム様が出会った……事が理由だとは思えない。
俺は別に選ばれた特殊な存在とかじゃないし、ノーム様と仮契約はしたとはいえ、あくまでその辺の人間Aくらいの存在感しかないんだ。
そんな俺が、ダンジョン生命体と会ったくらいでダンジョンが元気になってたら、今頃日本中がモンスターで溢れ返ってるに違いない。
「って、こんなところでまったりしてられねえ! 契約が切られない内にウンディーネ助けないと!」
「そうですね。厳しい戦いにはなりますが、一気に攻略してしまいましょう」
「うー……お腹空いた……」
陽花の胃が抗議の音を立てた。
まあ、腹ペコでこの先に挑んで、下手打って死んでも嫌だしな。
「ひとまず飯にするか」
「やたっ!」
陽花は喜びの声を上げ、その場に座り込んだ。
さすがにモンスターと戦った場所で飯にするのは嫌だ。ゆっくりしてる間にリスポーンしてきたモンスターに襲われたら洒落にならない。
ぶーたれる陽花を説得し、安全そうな部屋を探して歩き出した。
◆◇◆◇
「……遅い……」
シュラに担がれて運ばれたのは、粗末なベッドのある牢のような部屋だった。
鉄格子はもちろん、石造りの壁も到底壊せそうにない。
能力を行使しようにも曽良と離れた時から力が上手く出せず、脱出は絶望的だった。
暗い牢の中で、ウンディーネは先ほどから定期的に「遅い」と呟いては、苛立ちを解消すべく足元の小石を弾いて遊んでいた。
「あいつ、きっと私の事忘れてるのよ。そうに決まってる。ここで私がいなくなったらラッキーくらいに思ってるに違いないわ。きっとそう。だってあいつ、私の事とか邪魔者くらいに考えてそうだし、たまに不埒な目でお尻とか見てるし、これ見よがしにトイレ行ってくるとか宣言してくるし……そう、助けにくるはずないもの」
いじけたようなウンディーネに答える声はない。
シュラも、そして先ほどカーテンの向こうへいた人物も、その他の誰も牢を訪れず、周囲は不気味な静寂に包まれていた。
不貞寝すべくベッドに倒れ込み、ウンディーネは天井を眺めた。
「……ん?」
なにかうっすらと光が見えた気がして、ウンディーネは起き上がり、目を細めた。
「んー…………あっ!?」
天井にわずかに隙間が見える。
何か、板で塞いだような跡だ。
アクア・ネビュラがあれば突いて確かめられるのだが、それも今はできない。
仕方なく、ウンディーネはベッドを引きずり、部屋の片隅まで持っていってその上に立った。
背伸びして指先で触れると、ほんの少し持ち上がるのがわかった。
「んん……っ。ここから、出られないかしら……」
ベッドを使ってもギリギリ届かないもどかしい位置。
ジャンプしたり、壁を蹴ってみたりと試してみるが、上に上がれそうにはなかった。
どうにかならないかと部屋を見回したウンディーネは、何もない事を再確認し、落胆した。
再びベッドに寝転がろうとして、壁に頭を打ち悶絶する。
何をやっているのかと自問しながらズキズキする頭を押さえ……そして、気が付いた事があった。
唯一足場にできそうな物が、自分の尻の下にある事に。




