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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
81/112

5-16 ステアウェイトゥヘブン

 何故か非難轟々のノーム様と手を繋ぎながら、案内されるまま先へ進んで行く。

 程なくして、俺達は下へ降りるエレベーターのある部屋へ来た。

 どうするのか聞くと、エレベーターに乗れと指示された。

 ノーム様がエレベーターの床に乗った瞬間、床の色が琥珀色に光った。

 下から照らされているノーム様、マジ尊さMAX。

 思わず拝んでいると、陽花がじとっとした目で見てきた。


「センパイ、そういうのやってるとほんっとーに、キモいっすよ」

「は? お前みたいにな、体と態度ばっかデカくなった奴にはわかんねーんだよ、この可憐さが。見ろよこの絹糸のような髪の手触り。まるでシルクだぜ」

「シルクは絹っすよ」

「うっせ! 知っとるし!」

「喧嘩、駄目」

「わあかってるよぉ~ノームぅ~」


 まったくノーム様は可愛い上に知的で最高だな!

 見習ってくれ後輩&青。

 俺がノーム様の頭を撫でていると、陽花はあからさまにドン引きした顔で若干距離を取った。

 まあいいさ。こいつにもいつか、この可愛さがわかる時が来るはずだ。

 閑話休題。

 床が光ったエレベーターを動かそうとレバーを下げると、びくともしなかった。

 あれ? 前は確か、こうやって下へ行けたはずなんだけど……。


「曽良、逆」

「ん? おっ、上に動くようになってるのか、これ!」


 ノーム様に指摘されてレバーを上げてみると、エレベーターはゆっくり上昇を始めた。

 周囲には小さな手すりしかないもんで、かなり足場が心もとない。

 天井は高いし、落ちたら確実に死ねるな。


「この先は地図には記されていません。つまり、ここが次の階層への入口だったんだ」

「うお、マジか。て事は俺ら、一番乗りだな」

「一番乗りって言っても素直に喜べないんじゃないっすかー。どんなモンスターがいるかもわかんないんだし」

「何だよ、妙に突っかかるじゃん」

「別に……」


 あれ、なんかこう、シルフに煽られて襲ってくる前みたいな態度になってない?

 これまさかまた襲われたりしないよね? さすがにここで、それはないよね?


「あー、陽花。俺の事捜してくれて、ありがとな」

「センパイなんて捜してないっす」

『それは苦しいよ陽花……。一番先頭で捜してたじゃん』

「シルるんはうっさいっす! もー、ボクもう降りる!」

「うお! ば、馬鹿! 急に飛び降りたら、どんだけステータスが高くても死ぬわ!」

「はーなーしーてー!」

「わかった、わかったって! もうお前に謝るの何度目かわかんないけど、本当にごめん! 俺が悪い! な! 頼むから短気起こさないで!」


 手すりにしがみついて飛び降りようとする陽花を必死で止めていると、ちょいちょいと真琴が肩を叩いてきた。

 見ると、少しばかりシリアスな表情をした真琴が、耳元に顔を寄せてくる。

 すっげえいい匂い。


「陽花は、急に現れたノームに、曽良さんを盗られてショックなんです。意図を汲んであげてください」

「ええ……。ま、またこういうパターンか……」

「私から見て、曽良さんは少々、陽花への当たりが強すぎるかと。親しき仲にも、ではないですが、きちんと好意には報いてあげないと、女性は意外とあっさり心変わりしますよ?」

「好意って、なあ……」


 何故かコアラのような体勢で手すりに収まってしまった陽花を見る。

 別に無視してたわけじゃないし、曖昧にごまかそうとしてたわけでもない。

 あの日、確かにその言葉を聞いた。それはもう認めざるを得ないわけで。

 で、俺はその返事を一切していない。それどころか言及もしていない。

 こいつの気持ちをどう扱っていいものか、俺にはわかりかねていたからだ。

 だって童貞だし。

 だって彼女いない歴=年齢だし。

 だって……陽花はもう、妹みたいなもんだし。今更関係を変えろなんて言われたって、困ってしまう。


◆◇◆◇


 ゆっくり、ゆっくりエレベーターは上昇していく。

 無言のまま、天井に到達した俺達は、ぶつかる事なく天井をすり抜けて上へ出た。

 上階も小部屋から外に出られるようになっていた。エレベーターを下りて、部屋の出口から外へ出る。

 そこで、大きな異変が目に付いた。

 さっきまで真っ赤だった空が、群青色に染まっている。

 まるで夜のようだが、月らしき物は2つあり、片方は白く、片方は真っ赤だった。

 やたら不気味な雰囲気に、ガイア・ノーツを握る手に力が入る。


「陽花、勝手にはぐれるなよ」

「センパイより強いんでご心配なく」

「いーや、駄目だ。とにかく俺達は固まって動くぞ」

「…………」


 ノーム様の手を握ってる場合じゃない気がする。

 何かがこちらを見ているような、そんな気配。

 その答えはすぐに出た。

 巨大なテラスのようになった通路のど真ん中、人が立っている。

 やけに体格がいい上に、群青の空に映える赤いマントを羽織っていた。

 あいつは知っている。ウンディーネを連れて行ったおっさんだ。

 俺達を、待ち構えてたってのか。


「お前、ニシキソラか」


 おっさんが叫ぶ。


「ああそうだよ。何で知ってる?」

「ウンディーネ様より、殺すな、と命じられている。だがウンディーネ様は今、記憶に混乱がある。全ての記憶を取り戻せば、その命も撤回されるだろう。あの御方は、美しく、聡明で、そして冷徹で残酷な命の管理者なのだから」


 美しく? 聡明? 冷徹? 残酷?

 こいつ、一体どの次元のウンディーネの話をしてやがるんだ。

 少なくともこいつが連れて行った、俺と運命共同体になっちまったあいつは、そんな特徴一個も当てはまってない。

 ……いや、美しく、って部分はまあ、当てはまるけれど。

 とにかく、聡明でもなけりゃ、まして冷徹だったり残酷であるはずもない。

 あいつはダンジョン生命体なりに、命の価値観が違う者なりに、俺達と楽しく暮らしていたと、そう断言できる。


「変態親父、ウンディーネを返せよ」

「ならん。お前は、ここで殺す」

「……ああ、そうかい。だったら俺も、大暴れ待ったなしだ」


 ガイア・ノーツを構えて、一歩進み出る。


「曽良さん!」

「せ、センパイ……」

「お前らは絶対に前に出るなよ。危ないから」

「なっ……ぼ、ボクだって! ボクだって戦えるっす! てゆーかボクの方が強いって、何回も言ってるじゃないっすか!? センパイこそボクの後ろで……」

「陽花!!」


 思わず荒げてしまった俺の声に、陽花はビクッと身を震わせた。


「わかってくれ。これは、俺とあいつの戦いだ。他の誰も付け入らせねえし、なんなら見るのも禁止だ」

「センパイ……」

「できれば後ろを向いてろ。こんな物は、お前達には見せたくない」

「……ううん。センパイがそう言うなら、戦うのはお任せするっす。けど……ボクは、絶対に目を逸らさないっす」

「私も。それにもし危なくなれば、勝手に加勢しますよ。私の方が強いのだから、文句は言わせません。でしょう?」

「…………へっ、馬鹿ヤローどもめ。後悔すんなよ」


 そう、後悔すんなよ。いや、マジで。

 だってあのおっさん、今はこの暗さで隠れてるからいいけどさあ……。

 おっさんが前へ進み出る。月明かりがおっさんを照らす。

 ビュウと風が吹いて、おっさんのマントが捲れ上がった。


「……えっ」

「……へ?」


 ほら、言わんこっちゃない。

 おっさんの隠し剣鬼の爪が、威風堂々とした様を、俺達へ見せつけていた。


「「ひっ……」」


 無論、女子ズの悲鳴が響き渡ったのは、言うまでもない。


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