5-15 ノーム様はそのような下賤な目で見ていい存在ではないがゆえ(早口)
「ノーム、飴食べるか? 美味いぞ」
「うん。ありがとう」
「歩きっぱなしだと疲れるだろ。ほら、俺が抱っこして運んでやるよ」
「うん」
ノームタソ……いや失敬、ノーム様が俺の腕の中に収まり、俺は片腕でノーム様を抱き上げて運ぶ事にした。
重さは一切感じない。どこかの青肌女とは違うようだ。
あの青いのとは可憐さもダンチだからな、ノーム様は。
サラッサラのロングの金髪に大きくくりっとした琥珀色の瞳。白磁のような肌、桜色の唇、小さな手にはこれまた小さく光る爪。トドメに天使の如き白ワンピだ。なんならもう、俺には背中に羽が見える。この子は間違いなく、後光を背負ってる。
どこかの青も、このくらい可憐なら俺だってやる気を出して今頃100年分くらいの寿命を貯め込んでいただろう。
青、見習え、お前は。家に寝転がってワイドショー観てる場合じゃねえぞ。
で、だ。今はノーム様とラブい距離感になりながら、青を取り戻すためにこうして道を進んで脱出を図っている。
ノーム様の力は、本当に全盛期より落ちているのか疑わしいレベルで凄まじかった。
アクア・ネビュラに代わる武器はハンマーだ。柄が俺の胸ほどの高さのある馬鹿でかいナリをしているのに、これまた重さを一切感じない。
だがそれは俺が持った時の話。振り下ろされた相手は……。
「ノーム、下がってろ。俺が片付ける」
「うん」
「どおおおおりゃあああああああ!!!!」
普段の8倍増しくらいの気迫で振り下ろされたハンマーは、金属をまとった、眼のない狼のような像を一撃で粉々にした。
さらに地面に打ちつけられたハンマーから衝撃波が起こり、離れた場所にいる2体の金属狼も砕いてしまう。
チートレベルに強すぎる武器、来てしまった。
思えば何で俺は、アクアなんちゃらとかいう槍でちまちま突いてたんだろうか。マジでノーム様が最初にうちに現れて契約してりゃ、1000年分の寿命は獲得できてたと思う。
そうだ、寿命と言えば、ノーム様は本当に対価として寿命は要求しなかった。
代わりに要求してきたものは、俺のダンジョン生命体への不信を覆すものだった。
「曽良、力、使った」
「ああ、対価だよな。わかってるよ。ほーら、なでなで~」
「ふふっ」
対価はまさかのなでなでと来たもんだ!!
こうして武器を出したり、力を使う度になでなでするだけでいいんだとさ!
可愛すぎませんかねこの天使。もう、青には戻れない。
すまん、青。全裸マントマンと、末永く幸せにな……。
……って、さすがにそれは外道すぎるので、ちゃんと助けに行くよ?
いやほんと、捨て置いて帰っちゃおっかなーなんて、微塵も考えてないって。
「曽良、その壁、壊して」
「ん、こうか?」
右手に持ったハンマー――ガイア・ノーツというらしい――を軽く振り、ノーム様が指さした壁を打つ。
すると、簡単に壁が砕けて階段が現れた。
「おお!」
「曽良、力、使った」
「おおー? なんだこいつぅ~、それはちょっとずるいだろ~」
「ふふふっ」
くしゃくしゃとノーム様の頭を撫でながら、階段を上って行く。
対価とか関係なくずっとこうしていてえ……。世界が続く限り、この頭をわしゃりてえ……。
こんな天使と、ダンジョン攻略したらお別れだってんだから惜しい話だよなまったく。
いや、待てよ? ウンディーネ助けなきゃ、契約も切れないのかな……。
上手い事ダンジョンだけ消せば真琴の家族も帰ってきてWin-Win……いやいや、何考えてるんだ俺は。
さすがに天使に毒されすぎてる。反省しよう。
反省…………うん、もうちょい堪能してから反省しよう。
階段を上りきると、そこは俺が下に落ちた回廊の壁だった。どこをどう巡ってきたんだろうか。
落ちた場所とは反対側に出たが、こっちには何もなかったはずだ。
不思議に思って振り返ると、既に上ってきた階段は消えていた。触っても、何もない。
『だーかーらー! 本当にそこから風が吹いてたんだって! 錦曽良の風が!』
「はあー、シルるんに期待したボクが馬鹿だったっす。はああー」
『信じてってば! でも何故か、君らじゃそこを通れなかっただけで、たぶんあれはノームの石を持った…………は?』
「あ」
「んえ?」
「曽良さん!?」
何やらシルフと口論しながら歩いてきた陽花達とばったり出くわした。
おお、なんか数時間ぶりな気がする。
「よ、よお」
「センパイ!? え、ど、どこから出て……っていうかその子! えっ、何すか!? とうとう『やっちまった』んすか!?」
「おい、何をだよ」
「いつかはやるかもって思ってたっすけど! でもそうなったら悲しいから、頑張ってセンパイの事誘惑してたのに! ボクの大人の魅力で!」
「落ち着け、一個もお前の言ってる事が理解できんし、なんかムカつくからシバきたくなってきた」
誰が大人の魅力で誰を誘惑してたんだよ。そんなミステリアスレディーがいたなら俺の前に連れてこいや。
ノーム様を地面に下ろし、駆け寄ってきた陽花が肩に小パンチを連打してくるのをいなしてやる。
こいつ馬鹿だから力加減もできないし、おまけにステータス補正も効いてるからたまーに肩外れそうなくらい痛いんだよな。
「で、どこから攫ってきたんすかこの子」
「ちょ、ちょっと陽花。いくら曽良さんでも、そこまではさすがにしないさ。ねえ、曽良さん?」
「あ、ああ。まあな」
「曽良さん……?」
「ちょっとしたジョークだって! マジで引くな! この子はほら、ノームだよ! シルフやサラマンダー達と同じ存在で、今俺と契約してるんだ!」
「契約?」
ちょっとだけ不信の交じった目で俺を見る真琴と、未だ肩パンをやめてくれない暴れうましかに、ここまでで起こった事を教えた。
地下に落ちた俺が変態親父と戦った事、敗北した俺はウンディーネを奪われ、力を失った事、ノームと名乗る存在と契約した事。
そしてこのダンジョンが、元はノームの所有物であった事。
それを聞いて反応したのは、サラマンダーとシルフであった。
『ケェーッ、クソ馬鹿だとは思ってたが、まさかノームと契約たァ、もう救いようのねェカス脳じゃねェか! 真琴、こいつ斬れ! ノームごと斬れ!』
『これは混じりっけなしに陽花のためを思って言うけど、ノームだけは駄目! こいつが何したか知ってる!? 聞いたら吐くよ、本当に!』
「お前ら、ノームに何言ってんだダンジョン産のオトボケモンスターズが」
『ほら! 絆されてる! あのね陽花、よく見てよ。ノームの生来の力みたいなもので、知性ある動物はみんなこうなっちゃうんだって!』
『ハッ、知性のねェボケでもこうなっちまうのが証明されちまったがなァ! どうした真琴、サクッと心臓刺しちまうんだよ!』
アホ2匹が何やらぎゃーすか喚いているので、俺はそっとノーム様と距離を置かせた。




