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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
1章
8/112

1-8 デュランドラ

 デカ肉まんとの激闘はとても簡潔に語る事などできないものだった。

 縦横無尽に跳ね回り、止めどなく攻撃を仕掛けてくる様はまさに白い砲弾。その質量による攻撃跡は背筋を凍らせるには十分な威力を感じさせる。

 一撃でももらえばアウトなそれを、躱し、捌き、時にバットで受けながら流して反撃に転じる。

 圧倒的な戦力差にも折れず、身一つで立ち向かった俺の雄姿を、皆さんにお伝えできないのは実に残念だ。


「センパイ、早く行きましょーよ。ていうかこんな弱っちいのがボスなんすかね?」


 開幕直後、頭上からの振り下ろしで肉まんの外皮をかち割り、そのまま核を破壊するまで滅多打ちにしてボスを瞬殺してしまった陽花が覗き込んでくる。

 俺なんにもしてないよ。

 アパートで死ぬかもしれない覚悟を固めたくだり、なんだったんだろうね。

 もうあいつ1人でいいんじゃないかな。


『妙ね。さっきの個体、強い力を感じたのだけど……。まだこの迷宮の主は倒せていないみたい』

「なんだって? 俺の余命は?」

『1秒も延びてないわね』


 嘘だろ。てことはあれ、ただの雑魚モンスターだったのか?

 確かに呆気なかったとは思うけど、こんな思わせぶりに出てきておいてそんな事ってあるか?

 だが、階段を下りてから通路はまっすぐ一本のみで、デカ肉まんの後ろは行き止まりになっている。

 いかにもボス部屋っぽい雰囲気の小部屋の中に、下に続く階段は見当たらない。


「ギミックっすね」

「うお、いきなり何だよ。お前横文字を口にできるキャラじゃないだろ」

「センパイ、何か気がつかないっすか? この部屋……」


 言われて部屋を見回す。広さは20畳くらいだろうか。壁には等間隔に松明があり、天井は暗くてよく見えない。

 よく見れば、岩の壁には誰かが刻んだであろう模様がある。まるで絵のように、明確な意図を持って彫られたようだ。

 さらに、入ってきた時には気がつかなかったが、入り口の横には輪のついた鎖が何本かぶら下がっていた。

 いかにも操作してみろという何者かの意思を感じる。


「どうすりゃいいのかはさっぱりだが、やってみる価値はあるな」

「へ? 何をっすか?」

「……いやいや、そこら中にある、いかにもな物を使って道を開くギミックだと思ったんだろ、これ?」

「えっえっ何の話っすか? センパイ、なんかちょっと怖いっす」


 お前が怖いんだよ!

 何をいきなり、自分でも理解のできない事を呟いてるんだ。

 いちいち真人間の取る行動じゃねえんだよ!


「ボクはただ、ギミックだなと思っただけっす!」

「だからそのギミックってなんだよ!?」

「知らないっすよそんなの!」

「お前頼むからたまには人類と脳のチャンネルを合わせてくれよ!」


 しまいに逆ギレしてきた陽花と睨み合っていると、抗議のつもりかウンディーネがゴボボと音を鳴らした。

 あっちもこっちも騒がしい…!

 とりあえず、一番弄りやすそうな入り口横の鎖を引いてみる。

 すると、


「おわあーっ!? センパイ! センパイセンパイセンパイセンパイセンパイセンパーイ!?」

「なんだようるせええええええわああああお!? なんだこいつ!?」


 騒がしい後輩の声に振り向いた俺は、目を剥いて驚愕せざるを得なかった。

 現れたのはデカ肉まんの倍はあろうかという超デカ肉まんだ。しかも、皮が恐ろしげな口のように裂けている。かなり殺意高めな外見は、いかにも強化種という感じだ。

 この鎖、モンスターの出現スイッチなのか!


『曽良、気をつけて! たぶんこれが迷宮の主よ!』

「くそ、二段構えのギミックだったって事かよ! やってや……」

「りゃあああっ!!」


 ぐしゃっ。

 陽花の振るったバットが、超デカ肉まんの核を一撃で破壊した。

 たったそれだけで、超デカ肉まんは何もする事なく消えた。

 え? 終わり?


「ウンディーネ……」

『あれっ? え? 確かに迷宮の主の気配だったのに……あれ? で、でも、また気配が散って……』


 無言で横の鎖を引く。

 すると、またもデカ肉まんが現れた。今度は皮が黄色みがかっているから、ピザまんなのかもしれない。


「またっすか! てりゃあー!」


 ぐしゃっ。

 一本足で繰り出された綺麗なスイングによる、安定の一撃必殺。

 本当にピザまんだったようで、中のソースが飛び散って陽花の頬にかかった。

 まるで返り血を浴びたようだが、本人は楽しそうに殴っている。

 別の意味の怪物を目覚めさせちまったのかもしれない。


「ウンディーネ……」

『嘘っ、さ、さっきのも迷宮の主……!? ど、どうして……』

「センパイ! もっかい! もっかーい!」


 おもちゃを投げてくれとせがむ小型犬のような後輩。こういう所は可愛げがあっていいんだが、それにしても、ここに来るまで全てのモンスターを倒してきたってのに、よく疲れずにはしゃげるな。

 言われるがまま隣の鎖を引くと、天井から超デカ肉まんの上に乗ったデカ肉まんが現れた。

 新しいおもちゃに目を輝かせ、陽花が飛びかかる。


「二個同時でも負けないっすよ! うおーっ!」


◆◇◆◇


 ……その後。

 入り口脇の鎖はあらかた弄り尽くし、出てきたモンスターは全て陽花が片付けてしまった。

 後には気疲れでぐったりした俺と、遊びたりなさそうに拾った石をいじっている陽花が残った。


『ここまでやっても主が出てこないなんて、この迷宮はどうなっているの……!?』

「もう帰ろうぜ、しんどい……」

『あなた戦ってないでしょ!? もっとちゃんと探さなきゃ、あなた死んじゃうのよ?』

「それは俺のセリフだよ! お前のセンサーがもっと使えるもんならなあ……!」

「2人とも喧嘩しちゃダメっすよ! ほら、さっき拾った石あげるっすから」


 なんだそのエキセントリックな仲裁法は。

 陽花が差し出してきた石を受け取る。ウンディーネが俺の中で可哀想なものを見る目をしている様子が、手に取るように分かった。

 投げ捨ててやりたいが、陽花の瞳があまりにもキラキラとしていて、その気が失せた。

 こいつも【倦怠】の魔法が使えるんじゃないだろうな。


「……悪かったよ。しっかし、どうやったら攻略できるんだろうな」


 陽花にもらった拳大の石を弄びながら考えてみる。

 ダンジョンには必ずボスがいる。これは間違いない。

 攻略目的のエクスプローラーのブログなんかも見てみたが、そのどれもにボスの存在が言及されていた。

 つまり、どんなダンジョンでもボスは存在しているはず。

 そしてウンディーネの言葉を信用するなら、デカ肉まんがボスなのも間違いないはずだ。

 まあ口は最悪だけど、しょーもない嘘をつくような性格じゃないからな、こいつ。

 一本道のどこかに、脇に逸れる道でもあるのだろうか。

 それを確かめるべく来た道を戻るが、陽花と2人して、壁を叩いて歩く不審者になっただけであった。


「だー、もうっ! 分かんねえ!」


 小部屋に戻って声を上げる。

 ゲームでもこういう謎解きがあると面倒だからとすぐ攻略情報を調べるような人間に、リアルな謎解きゲームは厳しすぎる。

 ヒントをくれよ、ヒントを。


「やっぱりギミックっすよ」

「ほう、で、ギミックってなんだ?」

「知らないっすよ!!」


 ほっとこ。

 壁には謎の絵。入り口脇には6本の鎖。

 引いた時のアクションは左から、デカ肉まん、超デカ肉まん、ピザまん、超デカ肉まんとデカ肉まんのコンビ、超デカ肉まんと超デカピザまんのコンビ、そして何もないハズレ。

 絵の方に何かないのかとためつすがめつ、なぞったり叩いたりしてみる。


「これ、生き物みたいっすよね」

「そうだな」


 一番上の模様は、見ようによってはファンタジーのドラゴンっぽくもある。そこからうねうねとした線が下に伸び、さらにその下に複数の記号。

 一番下の記号は、これは人間か?


「なあウンディーネ、ダンジョン産の生き物なら、なんか知らないのか? ドラゴンとうねうねと人間の伝説とか」

『ダンジョン産って言わないでよ。そうね……。デュランドラと終わりの日、かしら』

「デュ……?」


 終わりの日って、なんだその不穏なワード。

 シリアスな方に舵を切るのはなしだからな。


『世界の始まりの光をもたらした竜、デュランドラ。しかし傲慢な民に失望し、7日7晩降り続く雨でもって終わりの闇をもたらした存在よ』

「それって有名な話なのか?」

『ええ、まあ。……あら? 私、どうして……』

「うーん……。それを聞くと、たぶん一番上のがデュランドラで、真ん中のうねうねが雨。で、一番下が傲慢な民……」

「センパイ!」


 俺の思考が陽花の声で中断された。

 こっちこっちと手招きする陽花の所へ行く。手に持った鎖の輪を指差すのでそこに視線をやると、傷のようなものがあった。

 この傷は確か、絵にあったものだ。てことは、文字か?


『……民は風を感じず、火を恐れず、光を敬わず、大地を穢し、水を枯らした』

「ウンディーネ……?」


 俺の中で、ウンディーネが語り始める。


『竜は終わりを連れて来た。それは溢れんばかりの水で不浄の大地を洗い、荒れ狂う風はやがて烟った雲を晴らして光を取り戻した』


 なんかそれっぽい、それっぽいぞ。

 これは仕掛けを解くヒントじゃないのか!?


『そして火が紡いだ新たな生命は、再び世界に栄えた……。これが、デュランドラと終わりの日……。どうして私、こんな物語を知っているのかしら』

「え、そりゃ、ダンジョンの住人だからじゃないのか」

『そう、かしら……。でも、こんな物語、意識した事も……』

「センパイ、ウンディーネさん、なんて言ってるんすか?」


 ウンディーネの言葉をそのまま伝えると、陽花はしばし固まった。

 あっ、こいつ自分の脳が追いつかないから思考をやめてやがる。


『この輪の傷は文字よ。正確には少し違うものだけれど、そこに刻まれてるのが光。そっちが風』

「光に風……。なあ、火とか大地とか水はあるのか?」

『え、ええ。もう一つは……終わり、ね』


 火、光、風、水、大地、そして終わり。

 全てウンディーネが語った物語に出てきたワードだ。

 ここまでくれば後はもう、解けたも同然だろう。


「やるぜ、完全攻略」

「お、おおおー……?」


 それもまずは、陽花の脳みそが処理落ちから戻ってきてからだな。


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