5-13 幕間:シルフの場合
いつの間にか25,000PV超えてました。超嬉しいです。
いつも読んでくださる皆さん、評価&ブクマしてくださる皆さん、とても励ましになっています。
ダンジョン攻略まで、まだまだお付き合いいただければと思います。
心地よい風の吹く空間で、シルフは外界の様子を眺めていた。
もう4……いや、5時間になるだろうか。錦曽良が2人とはぐれてから、そのくらい時間が経っているはずだ。
珍しい事に、あのサラマンダーが案内し、2人は徐々に錦曽良の気配に近付きつつある。
が、気づいているのかいないのか、おそらくこのまま再会するような事はないだろう。
シルフは先ほどの石の正体について、ようやく思い当たっていた。
奴の名はノーム。性悪のノームだ。
地下深くに神殿を築き、陰湿で、癇癪を起こすと手が付けられないほど暴れる面倒な性格。
自分と同じ、四元の一柱ではあるが、民と深く根付いているからか、最も信仰を集めているのも腹立たしい。
水も、風も、光も、熱も、全てが大地を豊かにするための要素として使われ、それらによる結果だけを、民は崇めていた。
結果としてファナティアは滅んだ。いい気味だ、とシルフは思う。
シルフは特に、民からの信仰が薄かった。理由は明白。風に感謝するのは船乗りくらいだからだ。
なんなら破壊の権化のくせに、民の生活を明るくする火の方が信仰を受けている。
風が運んだ恩恵はたいてい大地に根付き、信仰を奪われてしまう。それが堪らなく腹立たしかったシルフは、幾度となく災いを起こしていたのだが、それらはあろう事か、風によって運ばれた種子が育んだ自然によって防がれてしまった。
「(思い出してもムカつく! ムカつく、ムカつく、ムカつく! ていうかあいつ、こんな所で何やってるんだろう?)」
シルフは何もない空間で地団駄を踏んだ後、思索に耽った。
ノームは様々な姿を取っていたが、少なくともその中に、あのような石の姿はなかったはずだ。
その上、それをもたらした男は、この迷宮の生物から手に入れたと言っていた。
そんなはずはない。あの石は決して、その辺りの生物が落とすような代物ではない。
だとすれば、あの男は何だったのだろうか。
正体を探ろうとして……シルフは、一分の得もないと考え、つまらなさそうに寝転がった。
「おーい、陽花ちゃんやーい」
『は? なんすか?』
「何で僕にはそんなに冷たいのさ……。ねえ、疲れたろ。もうあの男捜すのやめて休もうよ」
『別に疲れてないっす。シルるんこそ、ラマちんの1000分の1でも役に立ったらどうっすか?』
「ラマ……ああ、サラマンダー? てか、サラマンダーも何やってるのさ。いつものキミなら絶対やらない事を」
『やかましいわボケェ。やりたかねェが、先に進むためにゃ仕方ねェんだ。空気読めェ』
いつも破壊と暴力に飢えている馬鹿にだけは言われたくない、とシルフは内心でツッコミを入れた。
確かに、このままぐるぐると錦曽良を捜し続ければ、無意味に疲労して時間だけが過ぎるだろう。
そのうちに、強力な生物が復活すればさらに消耗が激しくなる。
この迷宮の主の力を奪うため、助力すべきだろうか、とシルフは悩んだ。
正直、陽花には心底失望した。
風に乗り彷徨っている時、ちょうどいい火種を持った者と出会えた、とほくそ笑んだものだ。
それが、たった一度想いを伝えただけで満足してしまい、以降はいくら煽っても「ボク、ぶっちゃけシルるん好きじゃないんすよ」と冷たく言われておしまいになってしまう。
これでも精一杯、生物の愛を育む助力をしているのになあ、とシルフは数々の行いを棚上げし嘆いた。
それにしても……。
シルフは、陽花の周囲の風から状況を見ている。
錦曽良は、彼女の好意に一切答えていない。あれほど明確に伝えられておいて、その後対応が変わる事もなかった。
これであからさまに対応が変わったりすればそれはそれで面白かったのに、とシルフは考えていたのだが、自分がちょっかいを掛ける前の、いつも通り、フラットなままなのだ。
「(あれかな、生殖能力が欠如した雄なのかな、あいつ。だとしたら陽花も可哀想だなあ)」
死の恐怖など知らない、彼ら四元と呼ばれる精霊たちはしかし、自らの子である傲慢な民……すなわち、人間を愛し、慈しむ心は備わっている。
もちろん程度の差はあれど、シルフもまた、馬鹿な人間たちには呆れ、見下しながらも、彼なりの愛情を注いでいるつもりであった。
その結果冗長させてしまい、信仰を失った事もあったが。
だからこそ、今度は、たった1人でも信仰を手放したくない。
そう思ってはいるのだが、なかなか上手くいかない事を、シルフは本気で疑問に考えていた。
「陽花ちゃーん。ねえ聞いてよー」
『はあー』
「うわあでっかいため息。あのね、サラマンダーはどうやって錦曽良の場所を探知してると思う?」
『マコ、そっちなんかあったっすか?』
「無視は悲しいよー! えっと、まあ聞いてよ。サラマンダーは、命の火が見える。それはたぶん、契約してる真琴ちゃんにも見えてるよね?」
『……ああ。私にも、うっすらとだけど見えるね』
「壁越しでも、離れていても、それを感じ取る事はできるだろうけど……そこまでの道、本当にわかってる?」
彼らがおそらく再会できない理由の最たるもの。それはここが、迷宮であるという事。そしてその迷宮を作った主が、ノームであるという事。
ノームは地に根付く、迷宮作りでは右に出る者がいない存在だ。
だから、直線的に距離を詰めようとしても、目的地には決して辿り着けない。
時に迂回する事も、道なき道を進ませる事も平然とさせてくる。
「僕も案内してあげるからさ、ね? ちょっとは見直してよ」
『……ほんとーっすか?』
「ほんと、ほんと」
『嘘ついたら磔千本っすよ』
「……2文字多くない? わかった、虫の標本みたいになりたくないから、従うよ。んじゃあ、2人とも、そこから逆に進んでみよっか」
これはあくまで、ムカつくノームをぶっ潰すためだ。
そう心の中で言い訳しながら、シルフはサラマンダーのナビを補足するように口を挟み始めた。




