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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
74/112

5-9 恐怖

 ノームに導かれ、俺はダンジョンを進んでいた。

 木の扉すら朽ちていて、開けようとすると壊れて倒れてしまう。

 真琴が思いきり蹴りでも入れれば、壁だってぶち抜けそうだな。

 などと考えていると、ノームが声を掛けてきた。


『怖い?』

「こ、怖くねえし。全然まったく。つーか余裕すぎてビビる」

『……そう』


 おい、何だそのがっかりしたような声は。

 怖がってほしかったのかよ。


『怖いって、どんな感覚?』

「は? ええと……すげー嫌って感じかな。それに近付くのが、すげー嫌になる」

『へえ。あたしは、よくわからない』

「何でだよ。ノームだって死ぬだろ? 死ぬのは怖いだろ」

『死……それも、よくわからない』

「かーっ! 出たよ。ダンジョン生命体なら心当たりが3匹いるけど、ノームもそれと同じ、死ぬのわかんない系のやつか」

『ううん。意味としては、わかる。生命活動の、停止』


 ずいぶん機械的で、情緒のない捉え方だな。


『でも、それが何故、怖い? あなた達は、みんな、死ぬ。わかっている、終わりなら、近付きたくない、なんて、どうして、思うの?』


 独特のリズムで、ノームはそんな事を聞いてきた。

 うーん、どう説明したもんか。

 それこそ生物なんて、死ぬのが怖いってのが大抵の共通認識なんだから、改めて説明すんのってすっげえ困るんだよな。

 以前ウンディーネ(美)さんにも説明した気がするけど、説明したところで理解ができるとも思えない。

 命の捉え方が根本的に違うんだから、仕方ない。


『曽良は、死ぬの、怖い?』

「めちゃくちゃ怖い」

『何が、怖いの?』

「うーん……。そうだな、まず何も感じられなくなるだろうし、誰とも話せなくなるだろうし、誰も、俺を認識してくれなくなって……。死ぬってたぶんそういう事だろ」

『じゃあ、ずっと、ひとりぼっちだと、死は、怖くない?』

「そりゃまた別問題じゃないか? 仮に生まれてから誰とも関わった事のない奴がいて、それでも死ぬのは怖いんだろって、俺は思うよ」

『世界を、最初から、認識できない、者なら?』

「そいつは生きてるって言えないんじゃないのか? よくわかんねーけど」


 何でこんなところで禅問答みたいな事しなきゃならないんだ。

 環境も相まって変な悟りを開きそうだぞ。


「それよりノーム、お前の事聞かせてくれよ。どんな奴にダンジョン乗っ取られたんだ?」

『……傲慢な民』

「傲慢な民……」


 そのワードは聞き覚えがあるぞ。

 確か、ウンディーネがコンビニのダンジョンで語ってくれた、デュランドラとかいう奴の出てくる物語だ。

 そこに、滅ぼされたっていう傲慢な民が出てきてた。

 そいつにダンジョンを乗っ取られたのか?


「傲慢な民ってやつは、どんな能力を持ってる?」

『…………わからない』

「わからない? 何でだよ」

『その力は、無限』

「無限……?」


 どういう事だ……。

 傲慢な民とかいうボスは、無限の強さがあるって事か?

 レベルが無限だったり、能力値が無限だったり……それって、特定の条件じゃなきゃ倒せないイベントボスとか、そういう奴が持ってる能力だろ。

 なんかフラグ建てなきゃ負け確戦闘って事じゃねえのか。

 そんな奴とぶつかったらどうすりゃいいんだ。現実にサレンダーは効かねえぞ。


『曽良が言った、怖い、は……きっと、あたしが、あいつらに、思っている事と、一緒。あたしは、きっと、あいつらが、怖い』

「ダンジョンのボスなのにか?」

『もう、主じゃない。あたしには力が、ない』


 問答しながら進んでいくと、やけにしっかりした石造りの扉が現れた。

 さすがに蹴りじゃ開かなさそうなので、体重を乗せて両手で押すと、重々しい音と共に扉が開いた。

 すげー埃っぽい。思わずむせながら、松明で部屋の中を照らす。


「うお、マジか……!」


 思わず声を上げた理由。

 部屋の中央に居座る影。こんなところでキャンプしてる変わり者でもなけりゃ、まず間違いなくモンスターだ。


「ノーム、一応確認しとくけど……先に進む道って、あの、奥に見える扉の先だったりしねーよな」

『うん、あそこ』

「ワァオご名答かよ……」


 俺の声に応えるように、中央の影がゆらりと立ち上がった。

 ボロボロのマントにロングソード、隆々とした筋肉から放つ威圧感。鎧やガーゴイルに比べりゃデカくはないが、強敵の風格は十分だ。

 ゆっくりとこちらを見たそいつの顔に、俺は息を呑んだ。

 こんな地下墳墓みたいな場所で出会うモンスターだから、てっきり俺は、良くて骸骨、もしくは死体でも襲い掛かってくるのかと思っていた。

 けど、松明に照らされたそいつは、真っ白なカルシウムの塊でもなければ、爛れた顔もしておらず、


「誰だ……?」


 あろう事か、言葉まで話しやがったのだ。


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