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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
73/112

5-8 幕間:サラマンダーの場合

『シルフ。さっきの石、どう思う?』

『あー、陽花が呑み込んでくれればなあ、僕が強くなれたかも、なのに』

「シルるんって大体キツいっすけど、今日は輪をかけて嫌っすね。もう、嫌っす」

『ごめんってば! ねえお願いだから、中にいる内に嫌うのやめてよ、逃げ場ないのに!』

『チッ、てめェーに聞いた俺が馬鹿だったわ……』


 そう吐き捨て、サラマンダーは横になった。

 彼は今、真琴の中……正確には、真琴の中にある、『命』の中にいる。

 そこは形はなく、色もなく、触れる事はできないが、彼らにとっては確かに存在する物体でもあった。そこに、大きなクッションに包まれるようにして横たわっているのだ。

 ちなみに周囲には火が燃えている。真琴が取り込んだ力……モンスターの力だけでなく、食事から得られるカロリーも含め、こうして燃やして自身の好みの環境にしていた。

 これは完全にサラマンダーの趣味であるが、そのせいで真琴は、普段より食欲が旺盛になってしまっていた。

 だが、やめろと言っても聞く耳を持つサラマンダーではない。結局、真琴は折れる形で、人よりもよく食べる女子として生きる事となった。

 ある意味契約のデメリットなのだが、真琴自身は大した事がないと考えているため、ほとんどタダで力を利用できている事になる。。

 そしてサラマンダーもまた、そんな彼女の命に、一応の気遣いはしている。どうせなら美味い物をたらふく食べた方が、短い人間の一生は多少はマシなものになるだろう……というのが、彼なりの気遣いだ。

 もちろんそんなものは、真琴には伝えていないし、伝わってほしくもないのだが。


『チッ……さっきの石、ありゃあ明らかに、ノームのボケだ……』


 ノーム。

 大地の母精、繁栄を司る者。

 サラマンダーの脳裏に、まるで幼子のような姿をしたノームが浮かぶ。あれは、そういった弱い者の姿を好んで取る。

 その時点でサラマンダーにとっては理外であったが、彼が最も唾棄するノームの性質があった。

 それは、庇護欲の煽動。

 見た者に、自分が守ってやらねばという欲求を喚起させる能力だ。これは、ノームが自発的に使っているものではない。勝手に発動してしまう、まさしく性質なのだという。

 それがサラマンダーには気に食わなかった。とにかく暴れ、燃やし尽くす事を好む彼にとって、守られるのを待つ存在など忌むべき存在なのだ。

 もちろんその性質は、サラマンダー達にはなんら影響は及ぼさない。

 影響が及ぶのは、一定以上の知能を持つ生物だけだ。

 そう、同族を、我が子を守らなければという動物的本能だけでなく。

 物言わぬ星さえ、一個の生命のように扱い守りたいと傲慢を吐く、人間のような生物にしか、その効果は及ばないのだった。

 寝返りを打ったサラマンダーは、真琴の感覚を通じて外界を見た。

 陽花と真琴はどこかへ消えた曽良を捜しているらしい。

 そのまま捨て置けばいいとは思いつつも、あまりに必死に捜す2人が一向に攻略を再開する素振りを見せないため、しびれを切らしたサラマンダーは思わず『おい』と声を掛けた。

 声に反応し、2人が動きを止める。


『クソムカつくがァ、あいつは死んじゃいねえよ。ただおそらく、てめェらにゃァ行けねェ場所にいる』

「どういう事だい?」

『あー、めんどくせェ……。どうして人間って奴はこう、どうでもいい他者を気に掛けなきゃ生きられないのかね……』


 渋々ながらも、サラマンダーは2人に曽良の現況を示した。おそらく、自分達と同等の存在、ノームが関わっている事、そしてノームは曽良に危害を加えるつもりはないであろう事。

 そう聞かされた真琴は、何やら考えているようだ。思考など覗かなくてもわかる。彼女は、曽良を救う方法を必死で考えているのだろう。

 自分が目を付けた当初の真琴であればきっと、曽良など見捨て、2人でダンジョンを攻略していたはずだ。

 彼女は変わった。変えられてしまった。この、ヌルい空気によって。それがサラマンダーにとっては、無性に面白くなかった。


『(チッ……。マジでここで死なねーかな、あの人間)』


 真琴達を案内しながら、サラマンダーは心中で苦々しい舌打ちをした。


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