5-8 幕間:サラマンダーの場合
『シルフ。さっきの石、どう思う?』
『あー、陽花が呑み込んでくれればなあ、僕が強くなれたかも、なのに』
「シルるんって大体キツいっすけど、今日は輪をかけて嫌っすね。もう、嫌っす」
『ごめんってば! ねえお願いだから、中にいる内に嫌うのやめてよ、逃げ場ないのに!』
『チッ、てめェーに聞いた俺が馬鹿だったわ……』
そう吐き捨て、サラマンダーは横になった。
彼は今、真琴の中……正確には、真琴の中にある、『命』の中にいる。
そこは形はなく、色もなく、触れる事はできないが、彼らにとっては確かに存在する物体でもあった。そこに、大きなクッションに包まれるようにして横たわっているのだ。
ちなみに周囲には火が燃えている。真琴が取り込んだ力……モンスターの力だけでなく、食事から得られるカロリーも含め、こうして燃やして自身の好みの環境にしていた。
これは完全にサラマンダーの趣味であるが、そのせいで真琴は、普段より食欲が旺盛になってしまっていた。
だが、やめろと言っても聞く耳を持つサラマンダーではない。結局、真琴は折れる形で、人よりもよく食べる女子として生きる事となった。
ある意味契約のデメリットなのだが、真琴自身は大した事がないと考えているため、ほとんどタダで力を利用できている事になる。。
そしてサラマンダーもまた、そんな彼女の命に、一応の気遣いはしている。どうせなら美味い物をたらふく食べた方が、短い人間の一生は多少はマシなものになるだろう……というのが、彼なりの気遣いだ。
もちろんそんなものは、真琴には伝えていないし、伝わってほしくもないのだが。
『チッ……さっきの石、ありゃあ明らかに、ノームのボケだ……』
ノーム。
大地の母精、繁栄を司る者。
サラマンダーの脳裏に、まるで幼子のような姿をしたノームが浮かぶ。あれは、そういった弱い者の姿を好んで取る。
その時点でサラマンダーにとっては理外であったが、彼が最も唾棄するノームの性質があった。
それは、庇護欲の煽動。
見た者に、自分が守ってやらねばという欲求を喚起させる能力だ。これは、ノームが自発的に使っているものではない。勝手に発動してしまう、まさしく性質なのだという。
それがサラマンダーには気に食わなかった。とにかく暴れ、燃やし尽くす事を好む彼にとって、守られるのを待つ存在など忌むべき存在なのだ。
もちろんその性質は、サラマンダー達にはなんら影響は及ぼさない。
影響が及ぶのは、一定以上の知能を持つ生物だけだ。
そう、同族を、我が子を守らなければという動物的本能だけでなく。
物言わぬ星さえ、一個の生命のように扱い守りたいと傲慢を吐く、人間のような生物にしか、その効果は及ばないのだった。
寝返りを打ったサラマンダーは、真琴の感覚を通じて外界を見た。
陽花と真琴はどこかへ消えた曽良を捜しているらしい。
そのまま捨て置けばいいとは思いつつも、あまりに必死に捜す2人が一向に攻略を再開する素振りを見せないため、しびれを切らしたサラマンダーは思わず『おい』と声を掛けた。
声に反応し、2人が動きを止める。
『クソムカつくがァ、あいつは死んじゃいねえよ。ただおそらく、てめェらにゃァ行けねェ場所にいる』
「どういう事だい?」
『あー、めんどくせェ……。どうして人間って奴はこう、どうでもいい他者を気に掛けなきゃ生きられないのかね……』
渋々ながらも、サラマンダーは2人に曽良の現況を示した。おそらく、自分達と同等の存在、ノームが関わっている事、そしてノームは曽良に危害を加えるつもりはないであろう事。
そう聞かされた真琴は、何やら考えているようだ。思考など覗かなくてもわかる。彼女は、曽良を救う方法を必死で考えているのだろう。
自分が目を付けた当初の真琴であればきっと、曽良など見捨て、2人でダンジョンを攻略していたはずだ。
彼女は変わった。変えられてしまった。この、ヌルい空気によって。それがサラマンダーにとっては、無性に面白くなかった。
『(チッ……。マジでここで死なねーかな、あの人間)』
真琴達を案内しながら、サラマンダーは心中で苦々しい舌打ちをした。




