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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
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5-7 ノームの迷宮

 パチパチと、火の粉が爆ぜるような音がする。

 暗い場所で目を覚ました俺は、後頭部の痛みに顔をしかめながら身を起こした。

 頭上を見ると、天井に四角い穴が見える。どうやらあそこから落ちたらしい。落ちた衝撃で首とか折らなくてよかった……。

 上の整った床とは違い、今俺がいる空間は床石がゴツゴツしており、粗い。座ってるだけでケツが痛くなる。

 周囲を見回す。やや離れたところにある松明が燃えており、ある程度の視界はあった。


「おー、痛って……。どこだ、ここ。なあ、おい……ウンディーネ?」


 沈黙。

 まさか俺が気を失った時に、一緒に気絶したんだろうか。間抜けすぎる。

 以前ならこんな事はなかった。ウンディーネは最近になって特に、俺の体調やらに引っ張られるような素振りを見せ始めた。

 それこそ俺が気を失っても平然としてたんだが、今は何故か一緒になって気を失ったり、体調不良になるタイミングも同じだったりする。

 一心同体になってる弊害だろうか。それも、最近になってというのが謎なんだが。

 それは、今は置いとくか。

 落ちてきたって事は地下だと思うんだが、既に明らかになってる地図にはこんな空間のことは記されていない。

 意外にも、俺が初発見って事か。


「お宝とか眠ってないのかね」


 薄暗く閉塞感のある空間が不安なので、声に出しながら探索を始める。

 まずは壁にあった松明を外し、明かりを確保する。

 スマホのライトを使ってもいいんだが、充電切れは怖いからな。

 連絡できなくなるからとかじゃなく、マジに一人で不安な時は、文明の光がありがたくなるもんだ。その時使えなきゃ意味がない。

 って、遭難を前提に考えちゃダメだな。早いとこ脱出して、2人に合流しないと。

 松明で照らしながら歩くと、どうやらこの空間が遺跡のようになっている事がわかった。

 石の柱や、謎の彫像。壁には絵のような模様もある。

 ところどころが朽ちて崩れてる辺りも遺跡っぽい。なんか財宝でも眠ってそうな雰囲気だな。

 ……財宝より先に、眠ってる死体とご対面とかしなきゃいいけどな……。


『やっと来たね』

「どおわっ!? え、だ、誰!?」


 唐突に頭に響いた声に跳び上がって驚く。


『安心して。ここは、あたしのおうち』

「おうち? あ、ていうかこの声、俺をここに突き落とした奴!」

『……落としてない』


 やや不満そうに、謎の声は呟いた。

 俺からすりゃ誘導されて来てみたら落とされた、って感覚なんだが……。まあ、いいや。

 一体どこから声がしてるんだ? 疑問に思ってきょろきょろ見回していると、わずかにリュックが光っている事に気づいた。

 中で光っていたのは、義足の男に貰った宝石だ。

 どうやら、声に合わせて明滅しているらしい。


『きみ、錦曽良?』

「あ、ああ。なんで知ってるんだ。ていうか、誰?」

『あたし、ノーム。ここの主』


 へえ、主……主!?

 おい、じゃあこの石っつーかこの声、ここのボスかよ!

 おいおいマジか、棚ぼたにも程があんぞ。

 そりゃ強い力も感じられるわけだよ、なんてったってボスなんだし。

 てことはこれ砕けば解決じゃね? 手も足も出ない相手だし、その辺の壁に叩きつけりゃ俺は帰れて真琴の家族は助かるんじゃね?

 ピッチングフォームに入ろうとした時、考えを読んだように石が声を上げた。


『今、石を砕けば解決、とか思った?』

「チッ、バレたか」

『構わないけど、そんな事しても、この迷宮は、消えないよ』

「は? だって、主って事はここのボス、なんだよな?」

『そう……だった。少し前、までは』


 んん?

 どういう事だ……?

 少し前までは、って、ボスが交代するなんて事あるのか?

 ダンジョンはボスを倒せば崩れる。それって、ボスの存在がダンジョンと紐づけられてるって考えていいんだよな。そして、ボスはダンジョンの核でもある。

 で、そのボスがいなくなると、ダンジョンだってなくなる。簡単な話だ。

 これは推測だけど、そんな重要なボスが交代したならダンジョンだって様変わりするもんじゃないのか。ある程度ボスの性質に引っ張られるんだろうし。

 でも、このダンジョンは8年も同じ状態のはずだ。出現してから構造が変わったなんて話は聞かない。


「ノームとか言ったよな。主じゃなくなったって、このダンジョンは出現してからずっと同じ形のはずだぜ。本当に主が替わったのか?」

『あたしの迷宮は、あんなお城じゃ、なかった』


 お城じゃなかった?

 マジで形が変わったのか。いやでも、だとしたらやっぱり話が合わない……。

 訝しんでいると、ノームが説明してくれた。


『あたしの迷宮は、乗っ取られた。あなた達の時間で言えば、およそ1000年前、かな』


 …………はい?


「1000年、前……!?」

『うん』

「馬鹿言うな! ダンジョンができたのは、10年ちょっと前だぞ! 1000年どころか、1世紀も経ってねえよ!」

『本当の、事』


 嘘だろオイ。1000年も前から、この世界にはダンジョンがあったってのか?

 単に最近、たまたま人間の目につくところに出現し始めただけ……? もっと海底とか、人目に付かない場所にダンジョンがあったりするのか?

 つーかそんな大昔を少し前って言ったぞ。どんな時間感覚してるんだよ。


「いや、やっぱりおかしいぜ。たとえ1000年前からダンジョンがあったんだとしても、この場所……ヒカリヤに現れたのは、たったの8年前だ。お前の話は合わない」

『ひかり……? よく、わからないけれど、あたしの迷宮は、ずっと前からある。1000年よりずっと前から』

「話が噛み合わねえ。ヒカリヤはそんな歴史的建造物じゃないんだよ。建てられたのだって、ごく最近になってからで……」


 そこで、はたと思い出した。

 コンビニや地下鉄のダンジョンにあった、どこのものとも付かない文字や言語。聞いた事もない物語。

 ダンジョンはこの世界の物じゃない。そう考えた方が自然な出来事の数々。

 何でこの世界の常識で測れるもんだと勘違いしてたんだ、俺は。

 時間なんてむしろ大した事じゃない。こんなもんが、空間の一切を無視して段ボールの中にだって現れるんだから。

 だってここ、部屋の中に空があるんだぞ、空が。


『信じた?』

「……まあ、ちょっとは」

『そう。でね、曽良。お願いが、あるの』

「何だよ。石の表面綺麗に磨いてほしいのか?」


 そう聞くと、石は控えめに点滅をしてから、


『取り返して、あたしの、迷宮』


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