5-5 逆転ホームラン
回廊の入口で、俺達は中の様子を窺っていた。
どうやらこの中に入らないといけないらしいんだが……。
うん、いるな、デカいの。
強いエクスプローラーとやらはまだ来てないらしい。職務怠慢だぜ、まったく。
6メートル級のデカ鎧はこちらには気が付いていないようで、回廊のど真ん中で直立不動になっている。
このまま気づかれずに横をすり抜けていったりはできないだろうか。
「あれ、どうするっすか? てか何でまたここ来たんすか」
「何でもなにも、行けって言われたから」
「誰に?」
「さあ……」
「……センパイ、ここ、大丈夫っすか?」
陽花がこめかみの横でくるくると指を回す。
は、腹立たしい仕草覚えてきやがって……。
けど、陽花の言うことももっともだ。こんなもん俺が頭おかしいとしか思えないもんな。
女子ズの視線が微妙に冷めている気がする。いや、気がするだけだ。そうであってほしい。
『この場所で、鍵を探して』
「鍵ぃ? そんなもんどこにあるんだよ。散々他のエクスプローラーが調査してるんじゃないか?」
『いいえ。ここに、鍵がある』
『あなたたまーに変な事言うけど、やめてね、急に脱ぎだしたり奇声上げたりは』
「やらんわ! どんなイメージだよ……あっ」
思わず入れたツッコミが回廊に反響し、鎧が反応したように動き出した。
やっべ……。
「くそ、お前のせいだぞ!?」
『はあ!? 知らないわよ!』
『やってる場合かボケコンビ、コラァ。来るぞォ、備えろ!』
サラマンダーに諌められてしまった。
無駄だとわかりつつも、アクア・ネビュラを手の中に出す。攻撃を受けた瞬間に背骨ごと持っていかれそうだが、あるとないとじゃ精神的に大違いだ。
……嘘だ。あっても、めちゃくちゃ怖い!
鎧は1歩ずつゆっくりと歩みを進めてくる。その1歩がアホほどデカいもんだから、すぐに間が詰まるだろう。
できるなら接近したくない。
「陽花、あいつの顔撃てるか?」
「うっす!」
陽花の弓が鎧の頭部へ向けられる。引き絞った手を放すと、集束した緑の光が矢となって飛んだ。
3本の矢が狙いを過たず、鎧の頭部へ突き刺さる。
ほんのわずか頭を動かし怯んだような動作をした鎧だったが、特に有効打になった様子もなく、鎧は振りかぶったメイスを薙いできた。
「あっぶね!!」
「うひゃっ!?」
陽花を抱えて前へ伏せる。
背中のすぐ上をメイスが通り抜ける感触に、ぶわっと冷や汗が噴き出る。
って、あれ? 真琴は!?
まさか……!
「真……うおおっ!?」
まさか攻撃に巻き込まれたのかと思い一瞬焦ったが、なんと真琴は通過するメイスに跳び乗り、大剣を楔にしてしがみついていた。
おいおい、なんだあの曲芸は!
人間離れした挙動に驚いていると、真琴は振られたメイスから跳び、さらに柱を三角跳びで蹴って鎧の後頭部へ着地した。
大剣を、兜の隙間に突き入れ、そこから、
「サラマンダー! 燃やせ!」
『応よォ!』
ゴウッ!
兜のスリットから炎が噴き上がる。
今度は苦しげに鎧がもがく動きを見せるが、その手に払い除けられる前に真琴は跳び、手の上を駆け上がって肘の隙間に剣を突き入れ、また炎を噴き上がらせた。
外からでもわかるほどに鎧が赤熱している。どうやら痛みの感覚はあるらしく、鎧は大きくかしいだ。
おい、行けるんじゃないかこれ!?
が、一瞬浮き立った俺の心はすぐに失墜した。
大きく振り回した腕が柱へ当たり、真琴は土煙の中へ紛れてしまった。
「あっ!?」
「マコ!」
くそ、ヤバい!
俺はアクア・ネビュラを振るって水のカッターを飛ばす。今更こんなもんが効くかわからないが、腕をどけさせないと……!
案の定鎧の表面で弾かれ、カッターは霧散した。
全然威力が足りねえ! ステータス差か!?
真琴を助けないといけないのに、鎧がめちゃくちゃに暴れやがるせいで近づけやしねえ!
どうする? 俺は真琴みたいな動きはできないし……。
ボスでもないこいつに、ネプテューヌなんて使えない。
真琴のような高火力だって持ってないし、だったらもう、玉砕覚悟の特攻戦法か?
そう、考えていた時だった。
「あああああ……!」
唸るような声が響き、次いでメキメキと何かが砕ける音がする。
この声、真琴の?
まさか……!?
「マー、メル、ス……!」
真琴が、折れた柱の下にいた。
歯を食いしばり、柱を抱え上げている。
「でええ!? な、何やって……!」
「伏せ、ろぉ!」
「うおおおおおおおっ!?」
真琴の叫びと同時に俺と陽花はその場に伏せた。
さっきメイスを振るわれた時のように、今度は真琴が持った柱の残骸がフルスイングされ、頭上スレスレを通り過ぎ、鎧の胴を捉える!
轟音と衝撃、次いで震動。
土埃にむせながら、目を開けると、鎧がボロボロと崩れていくのが見えた。




