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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
1章
7/112

1-7 ダンジョンはあたたたたまってますか?

 土曜日。

 授業のない陽花と、体内に潜むウンディーネを伴い、電車で二駅の場所にあるダンジョンにやってきた。

 いよいよ本格攻略開始だ。

 ここは元々コンビニがあったダンジョンなのだが、店の中がそのままダンジョンに変異してしまったのだという。

 当然、中の店員や、居合わせた客も一緒に異次元の彼方だ。

 救出目的のエクスプローラー達もいるのだが、何故か出現から1年経っても攻略がされていない。


『人間の業を感じるわ』


 ウンディーネがうんざりしたような声を出した。


『ここは商店だったのでしょう? であれば、価値の高い物が多く手に入るはずよ。迷宮は、交わった場所の影響を少なからず受けるから』

「アイテム目当てにわざと手を抜いてる奴らが多い、って事か」

『ええ』


 最悪、救出組の足を引っ張るような奴らもいるのかもしれない。

 だが、愚かしいなんて一言で切って捨てるには、ダンジョンはあまりに魅力的すぎる。

 特に俺みたいに、若い体力を持て余しているくせに、人より楽して日々を送りたいなんて考える不届き者には。

 考えを見透かしたのか、ウンディーネはゴボゴボと不服そうな音を鳴らした。

 まあ、そう目くじら立てないでくれや。俺が来たって事は、その愚か者達のちょうどいい稼ぎ場は店じまいするんだからさ。


『ナメて掛からない事よ。交わった場所の影響を受けるのは、なにも財宝だけじゃない。中に棲まう者達も影響されるわ』

「はっ。肉まんやらおでんのモンスターが出てきたら食費が浮いていいわな」

「センパイってななチキ派っすか? 揚げ鶏派っすか?」

「強いて言うなら揚げ鶏」

『真面目にやってよ!』


 陽花は吸湿速乾のシャツにスパッツとショートパンツというスポーティな衣服に身を包み、実に動きやすそうだ。

 ボディラインが強調されているせいで少々目に毒だが、相手は陽花だし、いいか。


「あー、センパイ今おっぱい見てたっすよね」

「見てません」

「うっそだー。ほーらほら、見てたんすよねー」

「見ーてーまーせーんー」

「ん~? 見てたっすよね~?」

『ああああもうっ! なんであなた達、これから死ぬかもって思えないの!? 人間は皆、死ぬのが怖いんでしょう!?』


 そう、死ぬのは怖い。そりゃ当然。

 だからこそこうして、拝める時に拝んでおくんだよ。これがほんとの参パイってな。


◆◇◆◇


「ふっ!」


 陽花の振るうバットがモンスターを叩き、壁にバウンドさせた。

 あいつレベル1とは思えない活躍だぞ。俺なんか、持ってきたバットに汚れの一つも付いていないのに、もう二階層に来てしまった。


「ふぃー。あ、センパイも終わったっすか?」

「うん。がんばった」

「ボクもっす! 終わったら飲みに行きましょうね」

「うん。そうしよう」


 さて。

 予想通りというか、マジかというか。

 本当に中のモンスター共は肉まんだった。いや、正確には違うんだが、とにかく肉まんそっくりだ。

 たぶん分類としてはスライムなんだろうな。

 ただ、外皮はぷるんとしたゼリー状ではなく、小麦が原料っぽいもっちりと白いものだ。

 しかもご丁寧に、殴れば中から餡のような塊が出てくる。

 見ようによっちゃグロいんだが、これがまた、美味そうな匂いまでさせているもんだから陽花が一回食べてしまった。

 すぐに吐き出させたよ? でも、あまりに唐突に、自然に口に運ぶもんだから対応が遅れてしまったのは仕方ないじゃん。気づいた時には半分まで行ってた。

 味は「フツー」らしい。探しものは何ですか。後輩の真っ当な思考回路です。超見つけにくいわ。


「ネット情報だと、三階層で終わりらしいなこのダンジョン。ここまででアイテム的な物なんて見かけてないけど、本当に旨味のあるダンジョンなのか?」

「さっきからへんてこな石しか見かけないんで、全部捨ててるっすよ」

「うーん。ガラクタマニアにはたまらない、的な……?」


 人を愚かしいとかなんとか言っておいてなんだが、そりゃちょっとは稼ぎも期待していたフシがある。

 別に誰かの物を奪う訳でもないし、このダンジョンは攻略すると決めたのだから、どうか不謹慎だと憤らないで欲しい。

 だが、一向にそれっぽい物が見つからないのはどういう事だ。

 試しにその辺りに落ちていた石を拾うも、陽花の言う通り、確かにただの石ころだった。


「うおー!」

「うわびっくりした。声出すなら耳元はやめてくれる?」

「センパイの拾ったそれ、超綺麗っすね! ボクがもらっていいっすか?」

「は? あ、ああ。いいけど」


 角が全くない、丸くて綺麗な石だから欲しいらしい。

 誰かこの子に合う幼稚園を探してあげて。


「……っと、もう三階層に下りる階段に着いちまった」


 ここを下ればボスのいる階層だ。

 豆柴と柴ベロスの関係を考えたら、さしずめボスはデカい肉まんか?

 攻撃を躱すよりも、隣の脳みそ3歳児の興味を中身から逸らさせる方が大変そうだな。


◆◇◆◇


 階段を下りた先は普通に通路だった。

 いきなりボス部屋って訳じゃないか。まあ、もしそうなら難易度的に考えて、真面目に攻略してる人達が簡単にたどり着けてるはずだし。

 でも、考えれば考えるほど奇妙だ。

 てっきりお宝狙いのグループが妨害でもしてるのかと思ったのに、出会った数人のエクスプローラーは皆、その辺の石を拾って一喜一憂しているだけの平和な人達だった。

 陽花もそこに置いてくりゃよかったな。

 あ、邪魔だからとかじゃなく、安全だから、な?

 ともかく、このダンジョンが攻略されてない理由が分からない。


「ウンディーネ、ボスの気配とか感じるか?」

『ええ、階段を下りた時からとても強く感じるわ。ただ、すごく変』

「こっちの石もいいっすねー。ん? なんすかねこれ。あー、ゴツゴツでかっこ悪いから、要らないかな」

「変ってあれか」

『それじゃなくて。何かしら、確かにいるはずなのに、その位置が明確じゃないというか……』


 ウンディーネのセンサーを疑う訳じゃないけど、二度目だから全幅の信頼を置くって訳にもいかない。

 ここは地道に、ダンジョン探索するべきだろうな。


「センパイ、この石欲しいっすか?」

「うーんそうだねー。ありがとうねー。じゃあ後でもらおうかなー」


 やっぱ置いてくりゃよかった。死ぬほど邪魔だ。

 俺の言葉が嬉しかったのか、陽花はニコニコしながら石をバッグにしまった。マジで持って帰る気かよ。くれるんなら、部屋にオブジェとして飾っとくか。


『もう少し進んで』


 ウンディーネの導きに従い、通路を奥へ進んで行く。

 すると、


「出た!」

「おお、あいつがボスか。って、やっぱデカい肉まんなのかよ……」

「センパイ。からし派っすか? 酢醤油派っすか?」

「お前、肉まんに酢醤油付ける人種か。実在していたとはな」

『もういい加減にして! 来るわ!』


 デカい肉まんが威圧的に動いた。

 いいぜ、掛かってこいよ。

 俺と陽花のコンビネーションで返り討ちにしてやらあ!


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