5-2 いきなりの死!?
男と別れて城の中に入り、回廊を進んで行く。
話によれば確かこの先にモンスターがいるはずだ。まあ、もう倒されてる可能性だって高いけど。
どうも強力なモンスターは強いエクスプローラーに討伐を任せて、それ以外の、さっきの男のようなエクスプローラーは探索や調査を専門にしている、分業体制が確立されているようだ。
たぶん誰が統括しているということもないんだろうけど、そういう連帯感が自然と生まれてしまうくらい困難ってことなのかもしれない。
俺達みたく、新参なのにズカズカ入っていくのは逆に連帯を乱しやしないだろうか。そう考えていたけど、不思議と他のエクスプローラーには出会わなかった。
たぶん、さっき男が言っていた強いエクスプローラーとやらが倒してくれるまでは探索専門の人達は待ちのフェーズなんだろう。
「キレーっすねー」
「ああ。観光なら良かったんだけどな。と、真琴、すまん」
「いえ。私も同感です。モンスターさえいなければ、日本の名所として受け入れられていたでしょうね」
「ああ、かもな。地下鉄ダンジョンみたいに映え狙いの奴らも……」
ズシン。
足音が聞こえた気がして、俺達は歩みを止めた。
何だ? そこそこ重そうな音だったぞ、今。
少なくとも柔らかな体をしたスライムとか、そういう可愛げのあるモンスターは期待できなさそうな感じだ。
そういやここは、天井がやたらと高い。
測ったわけじゃないが窓だけで10メートルくらいあるし、天井なんてもう、暗くて見えなくなっているレベル。
つまり、何が出てきたって不思議じゃない。
「作戦会議しよう」
「おっ、久々の円陣っすね」
二人と肩を組んで顔を突き合わせる。正直、まずいものを感じたのだ。
これ絶対、アレが来るやつだろ。ほら、機動戦士……的な、なんかそんなデカいのが!
頼むからお台場で大人しくしててくれよ。
「いいか、そこそこ強そうなのが出てきたら、3人で強く当たって後は流れの作戦だ」
「あの、それは作戦ではないのでは……」
「めっちゃ強そうなの出てきたらどうするっすか?」
「……奥に逃げよう。通路の奥に。ここは柱もあるし、デカい奴相手なら隙間を抜けたりすればワンチャンある」
「奥に逃げるのはどうしてですか?」
「だって、進まなきゃ駄目だろ。戻ってちゃ永久に攻略できねーぞ」
戦うという選択肢はパス。だって、つい数日前にランクBになった俺が、戦えると思うか?
ネプテューヌ使わなきゃ殺されるのが関の山だ。
ズシン、ズシンと足音は近付いてくる。やがて通路の奥に、差し込む日差しに照らされ、金属が光るのが見えた。
その全容が明らかになっていき、同時に俺の「今すぐ逃げたいんですけど」ゲージが溜まっていく。いや嘘、ごめん。溜まるどころか、もうとっくに振り切ってる。
それは、西洋の鎧だった。ただしめちゃくちゃデカい。窓よりは少し小さいから、目測で6~7メートルってところか?
ファンタジーなら神官タイプとか、そんな感じの前垂れも付けている。武器はメイスだろうか。デカすぎるから、粗い棍棒とか持ってても脅威でしかないけどな。
『曽良! どうするの!?』
「決まってんだろ。逃げるんだよォ!」
俺の号令で一斉に鎧へ向けて走り出す。鎧は緩慢な動作でメイスを振り上げ、
――ゴガァァァァァンッ!!
「だあああっ!?」
「ひゃああっ!!」
「くぅぅっ!!」
硬い石の床が抉れるほどの衝撃。
嘘だろ、ただ振っただけでこの威力かよ。掠りでもすりゃ、即ジャムにされて終わりだろ……。
でも、後退はできない。幸いあいつはデカすぎて、柱の隙間を縫うように動けば追ってこられなさそうだ。
ところが、今度は横薙ぎに振るわれたメイスで、
――ゴガァァァァァァァッ!!
「でええええ!?」
「曽良さん!」
「センパイ!」
俺の眼前1メートルほどのところを、吹き飛ばされた柱がフリスビーのように飛んでいった。
壁に当たった柱は粉々に砕ける。
腰が抜けそうになるのをなんとか堪え、とにかく回廊の出口まで走るのを優先する。
ところが、急に体が重くなって、俺はその場に膝をついた。
おいおいおいおい、ちょっと待て、何だこれ!?
『魔法よ……!』
「くっそ……! マジに神官タイプなのか、あいつ……!」
「シルるん!」
『はいはーい』
メイスが眼前に迫った瞬間、ゴウッと吹いた突風が、俺を出口の方へ吹き飛ばした。
さっきまで俺のいた場所が粉々に砕けてるのを見ながら転がり、這うように陽花たちの元へ辿り着く。
回廊の出口を超えると、それ以上鎧は追ってこないようだった。
あ、あ、あ、
「あっぶねがっだ~~~~~~~~~!!」
「センパイ、泣いてるんすか?」
「泣いてねーし! でもありがとね陽花! もうお前なしじゃ生きられん!」
「えっへへー」
「怪我はありませんか?」
「あ、ああ。あそこで助けられてなかったら今頃……」
自分が石床のシミにされていたかもしれないと思うと、ぞっとする。
もうあんな鎧、勝つとか勝たないとかの次元じゃないだろ。むしろあいつがボスなんじゃねえの?
『あれは、主じゃないわ』
『チンケな力しか感じなかったなァ。まあでも、曽良、てめェみてェなカスじゃァ、逆立ちしても勝てねーだろうが』
『主はもっとずーっと先だよ。そんなのもわかんないの?』
「くそ、こいつら……!」
言わせておけば好き勝手に……!
反論できないのも確かだ。この中じゃ、俺が一番の足手まといになっている自覚はある。
ていうか元々足手まといだったのが、ウンディーネっていうアドバンテージのおかげでパーティ内での人権があったようなもんだし、あれ、二人ともダンジョン生命体と契約して、エクスプローラーとしても、人間としても負けてる俺って……もしかして、要らない子?
そ、そう考えると途端に不安になってきた。二人とも俺のこと、どう思ってるんだろうか。
妙にそわそわしてしまう。
「そわそわ……そわそわ……」
「センパイ?」
「そわっ!?」
「な、なんすか……? あの、上と下、どっちの道に行くっすか?」
「そわだ……そうだな、うーん……」
階段を上れば上の道、まっすぐ行けば下の道だ。
アクア・ネビュラを立てて、倒してみる。すると、上の道を指し示した。
『あなたまたそんな使い方!』
「神器のご利益信じてまっせ。よーし、そんじゃガンガン進んで行こうか!」
『……こいつ早死にするな』
『間違いないね』
『もー! 私は消えたくないんだけど!?』
うるさいダンジョン生命体ズの声はわざと聞こえないふりをして、俺達は階段を上った。




