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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
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5-1 最難関ダンジョン

 石段を下りた俺達は、その光景に、ただただ圧倒されていた。

 荘厳ささえ感じさせる、磨かれた白い石の床に壁、そして城。別に掛けてるわけじゃないが、白い城だ。白鳥城とでも言えばいいのか、汚れも経年劣化もない、美しい城が建っている。

 そして、赤い空が広がり、太陽なのか月なのかわからない、白い天体が浮かんでいた。

 辺りは昼のように明るく、快適な気温だった。

 中には気候が人間の侵入を阻むようなダンジョンもあるらしいので、そういう所じゃなくて本当に良かったと思う。


「ここが、ヒカリヤの中だってのか。もう今さらだけど、信じられないぜ……」

「すっげー……っす……」

「姉さん……待っていて……」


 三者三様の呟き。

 階段を下りた所は広場になっており、そこにはエクスプローラー達が溜まっていた。地下鉄の時のように店も出ている。

 ふらふらと店に行きそうになる陽花の首根っこを掴んで、早速攻略用の地図を開いた。

 これは、ネットで有志が作った物だ。ただし1階層のみ。それ以上はまだ、この8年間誰も攻略ができていないらしい。

 ネットで見たあの馬鹿でかい鎧はどこにいるのだろうか。最悪、そいつだけは避けたい。ビルみたいにデカい奴に勝つのはさすがに不可能だからな。

 モンスターの再出現時間も既に調査されていた。他のダンジョンとはえらい違いだ。

 早いもので30分程度、長いものでは1日で再出現するらしい。こんだけエクスプローラーがいるのなら、ほとんど倒されてたりしないだろうか。

 まあ、そんな望みが持てるのも、どのみち一階層だけなんだけどな。

 広場を離れた俺達は、通路を渡り、塔へ辿り着いた。下へ伸びる螺旋階段がある。

 そこにもモンスターの姿は見えない。先へ進んだエクスプローラーが倒してしまったらしい。

 いいぞ、なるべく消耗は避けたいしな。


「なーんも出ないっすねー」

「それでいいんだよ。なんか出る方が嫌なの」

「ええ。この時点で消耗していては、長期戦に対応できませんから」

「でも、どんなのが出るか初めにわかっとかないと不安じゃないっすか?」

「心配すんな。そういうの、全部ネットに出てるから。今は凄いんだぞネットって」

「お爺ちゃんみたい」

「うっせ」


 などとくだらないやり取りをしている内に、螺旋階段を下りきった。

 またも広場だ。そこにもエクスプローラー達が溜まっている。

 ただ、彼らは上の広場にいる者達よりシリアスな顔をしていた。そうか、ここが、本気の攻略をするかどうかの分水嶺でもあるんだな。

 本気の奴はこの先に進む。違うなら、上の広場に溜まって思い出作りの成功を喜んで帰る。そんなところか。

 もちろん俺達は本気だ。だから、広場を抜けて進んで行く。


「ああ、君達、ちょっと」


 すると、キャンプ道具を広げていた男に声を掛けられた。


「観光なら、その先はやめといた方がいいよ。今日は強いエクスプローラーが来てなくてね、モンスターが残ってる」

「観光……いえ、私達は、攻略を目指しています」

「本当に?」


 男は驚いたらしく、俺達3人を交互に見た。

 武器も持っていない事に、質の悪い冗談だと思ったのか、顔をしかめる。


「見たところ学生かな。こう言っては何だけど、思い出づくりなら他所でやった方がいい。ここは、学生ノリで押し通れるダンジョンじゃないんだ」

「思い出づくり? 学生ノリ?」


 ピクピクと、真琴の眉が動いている。あれ、ちょっと怒ってる?

 真琴がこうして怒るのは初めて見るかもしれない。いつもクールで、俺を殺した時くらいしか取り乱すのも見た事ないし。


「私は、そんなもののために来たわけじゃありません。勝手に茶化されては、不愉快だ」

「そうか……。それは、悪かったね。わかった。でも進む前に、これだけは言わせて欲しい」


 男は、座ったままで右足の裾を上げた。そこに現れた物に、俺は息を呑んだ。

 金属の義足だ。それも、かなり古い物だと思う。ところどころすり減って、傷が入っていた。

 よくよく男の顔を見れば、眼鏡の奥の目は片方だけ白い。前髪で隠しているようだが、額には大きな傷も見える。


「こうなる前に、帰って来てくれ。頼む。もう、若い子が帰って来ないのをここで見るのは、辛いんだ」

「……こちらこそ、申し訳ありませんでした」


 真琴が深く頭を下げると、男は裾を直し、手で「気にしてない」という風に制した。


「その傷、ここで?」

「ああ。娘がね、このダンジョンにいるんだ。取り戻したくて8年、頑張ってきたけれど、傷が増えただけだったよ」

「…………私は、両親と姉を」

「そう、か。こちらこそ、すまなかった。君の気持ちを考えず、勝手な決めつけをしてしまった。でも、それならどうして武器を持っていない? もっときちんと準備をしてから挑むべきだ」

「あー、それは……」

「武器ならあるっすよ、ほらっ」


 陽花があの、手甲型の弓を出した。

 どう考えてもリュックには入らないサイズのそれに、男も目を白黒させている。

 ていうか迂闊に出すな!!


「馬鹿っ! あ、ああ、まあ、こういうのも持ってるんで、はい」

「驚いたな……。でも、そんな物があるのなら、丸腰よりは安心なのかな」


 冷や汗をかきながら、陽花に武器をしまわせる。

 危ねえ、この人以外に見られてたら、面倒な事になってたところだった。

 あからさまにファンタジーっぽい武器を何もないところから取り出してちゃ、絶対に怪しまれるからな。

 なんならダンジョン側のモンスターだと思われて狙われる可能性だってある。


「……そうだ、君達にこれをあげよう」


 男が手渡してきたのは、オレンジの大きな石だった。拳大のそれは、宝石のように煌めいている。


「以前、このダンジョンで強力なモンスターを倒した際に手に入れた物だ。生活の足しに売ってしまおうとも考えたんだがね、何かあるかと思って、妻に内緒で取っておいたんだ。受け取ってくれ」

『ねえ、これ』

『ああ。とんでもねェ力を感じるぞ』

『僕らと同じ力だ。ねえ陽花、ちょっと飲み込んでみてくれない?』

「嫌っすよ!」

「ええ、嫌なのかい……?」


 急に始まったダンジョン生命体ズ会議に、陽花が律儀に大声の返事をしたせいで、男の厚意を無下にしたように聞こえてしまった。

 肩を落とす男に、誤解を解いてくれるようフォローしておく。


『ちぇ。でもこの石、ここに住んでる奴から手に入れたんなら、間違いなくこの迷宮に関連してるね。売ってなくて正解だよコイツ』

『何かっつーとすぐ金に換えたがるからな、てめェら人間は。卑しい生物にしちゃ珍しいファインプレーだァ』

「大きなお世話だアホども」


 と言いつつ俺も、この宝石の売却額には興味あるが、これってたぶんクエストアイテムとかダンジョンのキーになったりするアイテムだろ?

 ……っていうのはさすがにゲームに毒されすぎか。

 でも、誰も進めないってことはパズルがある可能性は大なんだよな。その時に使えるかもしれないから、これは取っておこう。


「センパイセンパイ! ボクが持つっす! ボクが!」

『だからさあ陽花、もっと強くなれるかもだから、それ飲み込んでみてよって』

「嫌っす」


 俺に対するテンションとシルフに対するテンションの落差がエグい。

 顔は見えないが、意外と打たれ弱いシルフが膝を抱えているのが伝わってくる気がした。


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