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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
4章
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4-16 センパイが…

 たぶん契約した事も覚えてないから、話がややこしくなる前に経緯を説明してやる。


「ほへー。つまりこの、島津君が」

「シルフな」

「シルるんが、ボクと契約したんすか? ウンディーネさんとか、サラマンダーみたいに?」


 早速妙なあだ名で呼び始めた。いつも通りの竜宮陽花だ。

 シルフはさっきまで張っていた風のバリアを解いて、膝を抱えてずーんと沈んでいる。

 心中お察しするよ……。俺もこいつの立場で、ちょうどいい具合に利用できそうな人間がいて、ついでに同じダンジョン生命体の力まで奪えそうだと思ったらテンション上がると思うし、絶対得意げに色々やっちゃうと思うんだ。

 でも、陽花でそんな、クレバーな利用法なんて器の方が保たないわけで。

 そろばん履いてパリダカ完走しようと試みるようなもんなわけで。

 要するに、ちょっとおかしくさせる事はできても、たぶん契約の事なんてこれっぽっちも履行できやしないから、どのみち未来はなかったのだ。

 ドンマイ、シルフ。次はマシな器が見つかるといいな。


「んん~、なんも実感がわかねーっす」

「そりゃそういうもんだよ。俺だって、ウンディーネと契約してる実感なんて湧かない」

「そもそも何でボクなんすか~? 別に、強くなりたいなーとか思った事ないんすけど」

「そ、それは嘘だよ! だって君、その男に」

「んん~?」


 ガッ、と陽花がシルフを掴んだ。

 シルフは「ひっ」と短い悲鳴を上げ、陽花の手の中に収まっている。

 すげえ、俺なんか触れもしなかったのに、いとも容易く捕まえやがった。

 ていうかなんかちょっと、怒ってる?


「誰が、何すか~?」

「なんでもないです……」

「シルるんはいい子っすね。ボクの先生は『意見がぶつかったら縊れ』って言ってたっすけど、今日は忘れてあげるっす」

「はい……」


 怖っ!

 なんか教えの内容が変な方向にアップデートされてないか!?

 本気で会ってみたいぞその先生。このご時世に生徒を対論絶対殺すマンに仕立て上げるその精神状態を研究してみたいわ。

 馬鹿に物騒な竜宮家の先生の教えはさておき、俺はシルフに近寄り、小さな耳にそっと耳打ちした。


「シルフさんシルフさん、耳寄りな情報があるんですが」

「へ? 何? 耳寄りって何? 縊られるの?」

「この短時間でもうトラウマかい。いいか? このまま陽花とは契約を続けろ。ただし、お前が対価として要求していいのは電気だけだ」


 電気を食って生きられるならこれほど手軽な事はない。うちの相棒にも同じような省エネ設計になってほしいもんだけど、残念ながら、俺はいくら水を飲んでも寿命は増えない。


「やだよ! こんなのと契約してたら、いつ首がなくなるかわかったもんじゃない!」

「お前が下手打たなきゃ大丈夫だ。それに、陽花の家なら電気食い放題だぞ。もう力に困る事はない。お前にとってもメリットデカいだろ?」


 竜宮家は裕福だし、まあこんな奴1匹食わせるくらいの電気は賄えるだろ。


「それに、どうせ契約は自由に切れないんだろ。諦めろ。お前に許されたのは、このまま契約を続けて陽花に力を与え続けるか……」

「はあ!? 嫌だよバーカ!」

「ぎゅー」

「ひえっ、こ、この手なんか狭まってない!? ぎゅーって言ってる! ぎゅーって言ってる!」

「そういう事だ。で、どっちがいい?」

「ぐぎぎぎぎぎぎ……!」


 おーおー悔しそうな顔だこと。

 サラマンダーの時もそうだったけど、鼻持ちならない奴のこういう顔見るの……性格悪いけど、サイッコーに気持ちいいね!

 かくして、陽花はシルフの力を手に入れた。代価は毎日の電力供給。もしくはダンジョンのボスの生命力。

 俺を翻弄した嵐のような1日は、平和的に収束を見せたのであったとさ。


◆◇◆◇


 陽花がシルフを連れて帰って、俺は来るヒカリヤダンジョンの攻略について考えを巡らせていた。

 正直、今の戦力でも不安はある。

 俺もだいぶ戦えるようになったとはいえ、まだ入場資格を得ただけだ。

 ヒカリヤは国内屈指の最難関ダンジョン。それこそ、海千山千のエクスプローラー達が掛かっても攻略がなされていないのだ。

 もちろんそれは、俺達みたくダンジョン生命体の力を借りられていない……というのが大きいだろうが、それ以上にモンスターの攻撃が他とは桁違いに苛烈なのだという。

 肉まんだの、稲妻を吐く蛇だのは可愛いどころかその辺の雑草と変わりのないレベルだ。

 こうしてスマホで少し調べただけでも、噂レベルまで含めればえげつない話がわんさか出てくる。

 特にこの、全高が機動戦士くらいあるとかいうデカい鎧兵には絶対に出会いたくないな。これが中ボスとかだったら、もう駄目だ。勝つ目が見えない。

 さてどうしたもんかと思い、今日一日の疲れを体が思い出してうとうとし始めた時、手の中でスマホが振動した。その反動で手をすり抜け、鼻の上に落ちる。


「あぃでっ!? っつぅ……。ん? 電話?」


 発信者は陽花だ。

 いつもはメッセージを送ってくるくらいなのに、電話なんて珍しいな。


「もしもし」

『こんばんはっす』

「おう。って、つい30分前に別れたばっかだろ。まだ帰り道か?」

『そっすよー』

「気ぃ付けてな。親父さんは迎えに来ないのか?」

『パパは今日はサモア行ってるっす』

「買い物に行くかのような気軽さでどこ行ってんのそれ。で、どうした?」


 そう問い掛けると、陽花はやや間を開けてから話し出した。


『センパイんちにダンジョンできて、ウンディーネさんと会って、それからエクスプローラーになって、なんか色々あったじゃないっすか』

「だな。この2ヶ月ちょいは火のように忙しかったぜ」

『あはは。ボクも、本気でエクスプローラー始めて、今日までめっちゃ楽しかったっす。楽しかったんすけど……なんか、つまんないなーって思う時、結構あって』


 楽しいけど、つまらない?

 煮詰まった芸術家みたいな謎掛けだな。

 概念的すぎてちょっと理解が及ばないよ。


『何でだろうなーって、考えてたんすよ、ボクなりに。センパイはいっつもボクの事、馬鹿だーって言うっすけど、一応頑張って考えてみたんす』

「き、気にしてたのか。すまん。いや、俺はお前のそういう所気に入ってるよ」

『べー、フォロー下手っぴ。あはは、で、何でか、今日ようやくわかったんすよ』

「ほう。原因は何だったんだ?」

『………………』

「おーい、だんまりはずるいぞ。気になるじゃんか」

『センパイが好きだから』

「……は?」


 今なんて?

 陽花の近くをちょうど車でも通ったのか、はたまたシルフが悪さの風を吹かせたか、上手く聞き取れなかった。

 俺が、何だって?


『センパイが好きだから、センパイと同じになったマコがなんとなく嫌で、でもマコの事好きだし、センパイも好きだし、ボクだけ仲間外れになってる気がして、なんかそれがすっごく嫌で。こういう事考えてるボクがすっごく嫌で』

「…………」

『そしたらシルるんが来て、ボク、やっとセンパイと肩を並べられるって、今ちょーテンション上がってるっす。……そんだけっす。マコにも、ちゃんと謝っておくっすから』


 おやすみなさい、とだけ言って、陽花は電話を切った。

 俺には何も言わせない、ほとんど一方的に言いたい事を言うだけの通話は、ほんの2分程度で終わってしまった。

 後に残ったのは、俺の中の妙なモヤモヤだけだった。


「おやすみなさい、はまだ早えって……。7時だよ、今……」


 どうすりゃいいのかもわからないまま、俺は無理やり、意識を落とそうと目を閉じた。

4章は次で終わります。いよいよ、ヒカリヤダンジョン攻略へ向けて物語が本格始動します。お楽しみに。

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