4-15 契約更改
「シルフ、お前の契約とやらについて、詳しく聞かせろ」
俺がそう言うと、芋虫のように転がるシルフが、意地の悪い顔を見せた。
「へん、教えるわけないじゃん……あー待って待って、それやめてよ! ごく単純な契約だってば。僕が力を貸す代わりに、この子の命をもらう。別に、悪い事でもないでしょ?命なんて迷宮から回収すればいいんだから!」
くそ、やっぱりそういう契約してんのかよ。
ウンディーネも特に異論を挟まず、当然と言った面持ちでいる。こいつは一見すると人間っぽいけれど、契約している俺が死ぬ目に遭うのは避けたくても、他人が死ぬ事に興味がないってスタンスだからな……。
相変わらず、命の価値観が違いすぎて付いていけないわ。
とにかくシルフの結んでいる契約とやらを解除させなければならない。
一方的に命を奪う契約なんてものは尚更だ。陽花に、そんなもんで死なれてたまるか。
けど、どうする? 俺自身がサラマンダーに言った事だけど、一度契約すればそうそう離れる事はできない。
それはウンディーネからも聞いているし、サラマンダーにも確認済みだ。だからこそ真琴に無償で力を提供させられている。
サラマンダーの時は上手く出し抜いてやれたけれど、今度は状況が違う。俺の知らないうちに、陽花は契約してしまっているのだ。
もう一度時間を遡れば、シルフと契約する前に戻れるだろうか? いや、あんな奇跡みたいな事、そう何度も起こると思わない方がいい。
第一、あそこに行く方法がわからないしな。
なんとか上手く、契約を解除する、もしくは書き換える方法……。
「ん? あれあれ? もしかして、僕が契約してると困るんだ? ……ああ、そっか! この子の火種は君だもんね! そりゃあ困りもするか!」
「は? どういう事だよ」
「さあね~」
ほう……。これはまた、強気なおチビちゃんだぜ。立場の差ってもんをわからせてやらねえとな!
俺は一気にダイヤルを最大まで回した。すると、手袋が青くスパークしだした。
おい何だこの威力。もう道具とかじゃなくてほとんど兵器だろこんなもん。この人、紛争地帯に武器売って研究資金とか作ってそうだな……。
シルフがさっさと音を上げるかと思ったのもつかの間、シルフが、余裕そうににたりと笑った。
やせ我慢だろうか。もっと出力を上げてやろう……って、最大値だったこれ。
「あー、錦さんまずいですねー。これ、もうバッテリー切れますよ」
「なっ……」
「あーははは! もう打ち止めだろー。でも、君が馬鹿なおかげでたっぷり充電できたよ。サンキュー!」
「充電?」
嫌な予感がして、俺は陽花を抱いて離れた。
バチバチと機械がショートする音。どうやら、シルフが中からグローブのロックをこじ開けているらしい。
小さな体には不釣り合いなパワーに思わず息を呑む。
こいつまさか、さっきのは嘘かよ!?
やられた、くそっ!
グローブからシルフが抜け出る。すかさず手で捕まえようとして、鋭い痛みが走って手を引っ込めた。
「ぐあっ!?」
「曽良!」
鋭利な刃物で切られたように、手のひらがざっくりとやられている。
赤い血が生々しい。冗談じゃなく、本気で傷を負わされた。
「はあー、カマイタチみたいなもんですかね」
長谷川が手近なリモコンを掴んでシルフに放ると、ぶつかる前にリモコンは4つに切り分けられてしまった。
って、おい!? それ普通に使うやつ! どさくさ紛れに何してくれてんだ!
その後も俺のスマホを投げようとする長谷川からスマホを取り上げ、電子機器から離れてもらう。
やるならせめて自分のでやってくれ!
「ふうー、これでこの子の命なんて要らないね。まったく、安い嘘に騙されてくれるなんて、人間ってなんて馬鹿なんだ! ウンディーネも、器選びを間違えたね!」
「勘違いしないで。人間が馬鹿なんじゃない。曽良が特別に愚かなだけよ」
「お前後で排水口の掃除させてやるから覚えとけよ」
……ん? なんか今、シルフが気になる事言わなかったか。
命なんて要らないって、そう聞こえた気がするんだが。
「風も雷も僕の力だ! ははっ、この世界は無限に力が手に入るからね、どんな悪戯もやり放題だ! ここは、僕のおもちゃ箱だ!」
「……一応確認しとくんだけど」
「何だい? 命乞いなら聞かないよ?」
「お前、今って陽花の命とか必要なの?」
「はあ? 馬鹿な質問するなよ。これだけ力を得られるんだ、たった1人の人間の命なんて、むしろ少なすぎるくらいだね! さあ絶望しろ、僕の本気を見せてやる!」
………………。
OK、さっきまで悩んでた、俺のシリアスな時間を返してくれ。
陽花の頬をぺちぺちと叩く。全然起きないので、鼻と口をいっぺんに摘んでやった。
「むぅぅ……んっがががっ!? な、なんすか!? 水の中に来た!?」
「おはよう。残念ながら竜宮城はお預けだよ」
「ええー。ん? おわっ、なんすか、このちっこいの!? ウンディーネさんの仲間!?」
「みたいだな。覚えてないのか?」
「知らないっすよ!」
陽花の言葉に、シルフが「え……」と呟きを漏らし、悲しそうな顔をした。
すまん、たぶんお前は「よっしゃ使える!」ってベストな選択をしたつもりだと思うんだけど、よりにもよって選んだ相手が陽花ってのがもう、哀れでしかない。




