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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
4章
62/112

4-14 シルフ

「楽しそうっすね」


 不意に、陽花がトーンの低い声を上げた。

 ぞくり、と全身に走る悪寒。

 いや、ここで? ここで来るのか、さっきの再現?


「なんか、ボクをほっぽって楽しそう。なーんか、ボクなんかいなくてもいいのかなって」

「陽花、あのな」

「センパイ、ボクの事、どう思ってるんすか?」


 ほら来たあ!

 メンタル反転、ネガ陽花ちゃんのお出ましだよ!!

 出現条件がわかんねーぞ畜生! わかんねーけど、わかんねーけどこれなら何かできるんだろうな!?


「長谷川さん、出ましたよ! ……寝てんじゃねえ起きろや!」

「んがっ……。あー、これかあ。うん、おっけー」


 何がおっけー、なんだ!

 ほら、また手にあの武器出してるよ。ビンビンの殺意が襲いかかってきてんだよ。

 そんな状況でも呑気に寝ぼけ眼を擦っている長谷川を、申し訳ないが盾にしようとすると、ちゃっかり身を躱された。

 くそ、馬鹿みたいな言葉に乗らなきゃ良かった! 完全に地雷踏み抜いたんじゃねえのこれ!?

 大体、さっきから陽花が訊いてくる事もわけがわからん。答えてやれば収まるのか?


「陽花、俺はな」

「ほいっと」


 いつの間にか背後に回っていた長谷川が、陽花の背を押した。

 何やってんだ、と言う間もなく、陽花の体が倒れ込んでくる。

 受け止めようと腕を伸ばすが、捕まえられず、そのまま陽花の口が俺の口と触れ合った。


「~~っ!!??」

「あっひゃっひゃ、レモン味でございま~っす」


 めっちゃくちゃ柔らかい感触に危うく浸りそうになったが、コンマ1秒で理性を取り戻して陽花を押しのける。

 すると、


「ぐっ、あぁっ、ああああぁぁ……!」

「陽花!?」

「おやまあ、白雪姫の逆パターンで死ぬんかね」


 急に苦しみだした陽花が、倒れ、床の上でもだえ苦しむ。

 えっ、そんなに俺とのアレ、嫌だった……? 歯はちゃんと磨いてるんだけど……。

 ていうかなんかヤバい痙攣してないか? 毒? ファーストキスが毒の味?

 ちっともロマンチックじゃない光景が続くかと思われた時、陽花が大きく口を開け、その中から何かが飛び出してきた。


「よいしょぉっ」

「ぎゃっ!?」


 長谷川が間の抜けた声で、その飛び出してきたものを捕まえる。

 いつの間にか右手に嵌めた手袋からはケーブルが伸び、何やら機械に繋がっている。その手袋が、飛び出したものを捕まえるアシストをしたのだろうか。


「な、何するのさ人間!? 僕は風の父精様だぞ! ちっぽけな人間が、気安く僕の体に触るな!」


 長谷川の手にすっぽり収まったのは、エメラルドのような輝く羽を持った小人だ。ファンタジーに出てくる妖精によく似てる。

 ぎゃーすか口汚く罵ってくるが、それすら愛らしく思えてしまう外見をしている。

 こいつが、ウンディーネやサラマンダーと同じようなダンジョン生命体なのか。


「くそっ、放せよ! 放せ! うわやめろ、どこ触ってるんだよ!? こいつ何なんだ……おい、ウンディーネ! やめさせてよ!」

「どっかで見た光景だな、これ」

「え、ええ。ねえ、あなた、誰?」

「はあ!?」


 小人は信じられないという風に目を見開いた。

 サラマンダーもそうだったけど、ウンディーネに忘れられてるのって結構ショックなのかな。

 けど、何があったのかサラマンダーは詳しくは語ってくれなかった。命を押し流したとかなんとか、言っていた気はするけど、意味はよくわからない。


「ふ、ふっざけんなよ~! ムカつく君に嫌がらせできると思ったから、わざわざこの子の嫉妬を煽ったってのに、無駄足じゃんかよ~!」

「お~よちよち、可哀想ね~」

「お前は何なんだよ!? 放せよ!」

「おい」


 今こいつ、とんでもない事口にしなかったか? 嫉妬を煽った?

 て事は、陽花がおかしくなった原因マジでこいつかよ。


「お前なにもんだ? 事と次第によっちゃ排水口から都内の下水を巡るツアーにご招待してやんぞ」

「気安く口を利くなよ人間。僕は風の父精、シルフ。お前らごときが対等な口を利ける相手じゃないんだぞ!」

「長谷川さん、その機械何なんすか」

「あ、聞きたい? このダイヤル絞るとね」


 長谷川が機械に付いているダイヤルをわずかに回した。

 すると、


「あだだだだだだっ!? ななななにこれれれれ」

「こんな感じで、グローブの手のひらに電流が流せます」

「そろそろツッコむのも疲れてきたけどこれだけは言わせて。倫理をナメるな! でもナイス!」

「あばばばばばばば……!」


 長谷川がダイヤルを戻すと、放電は止まったらしく、シルフは口から煙を吐きながらぐったりとした。


「くそう……くそう……僕があんまり電気を吸収できないって知ってたな……」

「え、そうなの?」

「らしいですよ。もう一発いっときますか」

「だああ、待て! 待てよ! 僕は電気を受けるのが苦手なんだ! 操れるけど痛いもんは痛いんだよ!」

「ペラペラ弱点喋って、実はこいつ馬鹿なのかな」

「馬鹿でしょ~」

「馬鹿ね」


 何しにきたんだこいつ。

 長谷川のグローブは握ったままロックができるらしく、器用にグローブを脱いで、シルフごと床に放った。

 シルフはさっき受けた電撃からまだ立ち直れていないようで、苦悶の表情を浮かべている。

 さて、尋問といきますかね。


「シルフ、さっき陽花に何かしたって言ったよな。お前、一体何したんだ」

「…………」

「長谷川さん」

「あいよっ」

「待て待て待て! 嫉妬だよ! その子の嫉妬の火を煽ったんだ! 火を煽るのは風の役割だからね、僕は人の感情を増大させられるんだよ!」


 ほう、嫉妬の火。

 て事は、陽花は何かに嫉妬してたって事になるのか?

 こいつが言うには、あくまで『煽った』だけなのだとしたら、種火がなきゃ燃え上がらないはずだろうし。


「その嫉妬を煽って何しようとしてたんだよ。こっちは殺されかけたんだぞ」

「ウンディーネにちょっと嫌がらせしたかっただけだよ。あ、これほんと、ほんとだから、その機械から手放してよね」

「はあ? 嫌がらせの相手はどう考えても俺だっただろ」

「それは予想外っていうか、この子の気持ちがそっち方向に暴走しちゃったっていうか……」

「何の話してんのかさっぱりだ」


 ウンディーネと顔を見合わせて、互いに肩を竦めた。

 まず、こいつに嫌がらせをされるいわれもないし、陽花を使う意味もわからない。

 だいたい何でこいつはダンジョンの外で平然と行動してるんだ。ウンディーネが外に出られるのは、あくまで俺という存在がいるからだし、サラマンダーだって真琴の近くの火の中にしか現れられない。

 急に現れて謎ばっか吹っかけてきやがって。腹立ってきたな、やっぱキツいの一発いっとくか。


「だから、それに触らないでよ! 脅しが執拗なんだよ!」

「そうもなるだろ。お前が売ってきた喧嘩なんだから。何で陽花使ったんだよ」

「僕と契約したからだよ!」

「ふーん、そうか…………はああ!? 契約!? 陽花が!?」


 ちょっと待て、聞いてないぞそんな話は!

 つい2日ほど前にダンジョンに行った時は、一切そんな素振り見せてなかった。

 新しいもの好きな陽花が、便利武器や能力を手に入れて使わずに隠すなんて事、あるはずがない。チンパンジーのかくれんぼよりも下手なんだぞ、こいつの隠し事は。

 それがいつ、どこで、何のきっかけがあって契約したんだ。

 シルフに問いただすと、ニヤつきながらこう答えてきた。


「契約自体はついさっきだよ~。なんか、お前と、もう1人がいなくなった後でつまんなさそーにしてたから、使えると思ってえばばばばばばばっ!? やべべべべべべべべ……!」


 ダイヤルをぐいっと回してシルフのニヤけ面を封じてやった。

 5秒ほどしてからダイヤルをゼロに戻す。

 ぜえはあと荒い息を吐くシルフが、勘弁してくれと言わんばかりの視線で見上げてきた。


「に、人間って、思ったより容赦ないな……」

「勘違いしないで。この男がまともじゃないだけよ」


 テキトー抜かすウンディーネをじろりと睨むと、下手くそな口笛を吹きながら目を逸らした。


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