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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
1章
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1-6 隣人トラブルを解決する最もスマートな手段とは

 講習はつつがなく終了し、真琴とは連絡先を交換して別れた。

 しかし、軽い座学と理解度確認の小テスト程度で資格が取れるなんてな。

 原付の免許より簡単に取れるし、あんな主婦でも隙間時間に申請に来る理由が分かる気がする。

 なにせ持ってるだけで、いざって時にダンジョンで小遣い稼ぎする事だって可能になるんだ。

 アパートに帰ると、ドアの外にまでドタバタうるさい音が聞こえてきた。

 陽花の奴、また来てるのか。ていうかウンディーネも軽々しく上げるなよ。一応秘密にしなきゃだろ、お前の存在……。

 ため息を吐いたのと同時に隣の部屋のドアが開き、中から上半身裸の外国人が現れた。

 黒い皮膚の9割を埋める威圧的なタトゥーに思わずビビってしまうが、大丈夫、彼は善良かつ陽気な外国人労働者のロドリゴさんだ。

 職業は農家。野菜を作ってネットで売っているらしい。なんの野菜なのかは、ぶっちゃけ滅茶苦茶怖いので聞けない。

 たまに母国の言葉で謎の電話を掛けているのも怖くてツッコめない。


「ファ――――――――ク!! ……アレ? ソラさん、今お帰り?」

「お、おう、まあな」


 破茶滅茶にキレとるがな。

 誰だよ善良かつ陽気って言ったの。


「アー、ソラさんのガールフレンド? なんか部屋でモメてるヨ。泥棒かもヨ。コレ使う?」


 ロドリゴが差し出してくる、ちょっと油で湿ってるっぽい茶色い紙の包みをやんわり断る。

 それ誰にどう使うんだよ。そういう国じゃないだろ日本。

 たぶん友達とじゃれてるだけだと伝えると、ロドリゴは大袈裟に肩を竦めた。


「ンー、ソラさんだったらいーけど、知らん人にあんまりうるさくされるの、ワタシちょっと迷惑。コレ使う事になる」

「ロドリゴ、一応聞いとくけどそれ、合法なやつだよな?」

「アー……ダイジョブ、ダイジョブね。コレ、ただのおはじきヨ。パーンパーンってネ」


 HAHA、そいつはなんともクールなおもちゃだ。

 叶う事なら、永久に包みを開きたくはないけど。


◆◇◆◇


「お前ら何やってんだ」


 何故かウンディーネに腕ひしぎを極める陽花を見て、帰宅早々に雷を落とすハメになった。

 もちろん声は控えめ。アパートの壁は薄いから、『おはじき』が貫通してきたら困るからな。


「センパイ! ウネウネさんが酷いんすよ!」

「ウンディーネ!! ていうか、離して、痛い!」

「お前らちょっと静かにしろ。頼む。まだ死にたくない」


 2人してキョトンとした顔をする。

 息ぴったりじゃないか。そのまま2人で出て行ってくれればどんなにいいか。


「で、何があったんだ。声のボリューム落として、話してみ」


 テーブルの前に正座させて、お父さんのお説教モードに入る。

 よく陽花が馬鹿をやる度にこうして説教させたものだ。


「……ウトナシュピテムさんが」

「ウンディーネな。間違え方がもう悪意とかじゃなく、俺の知識も追い付かないレベルだよ」

「センパイ、エクスプローラーになったところでどうせ死んじゃうって」


 おっと、これは。もっとクソ馬鹿な理由を予想してたのに、なかなか重めのパンチ打つじゃないか。

 そう、実は俺もそれは、既に何度か考えていた。だからウンディーネの言葉を非難するつもりはない。

 わりと苦戦した柴ベロスで1ヶ月程度の余命の延長。という事は、さらに強い力を持った奴を倒さなければ、いつまでも命の〆切に怯えるハメになる。

 単純な計算をすれば恐らく、柴ベロスの12倍強い奴を倒さなければ1年の延命は望めない。

 そして俺に、そいつらを倒すためにじっくり強くなる時間はない。

 柴ベロス程度の力を持った奴を細々倒しながら、なんとか強敵に対抗できる力を付けなければならない。

 そして、モンスターと戦えば、当たり前だが命を落とす危険がついて回る。

 焦っていきなり強い奴と戦う事なんてできない。

 詰む寸前の分の悪い勝負に、否が応でも挑まなければならないのだ。

 そんな事、とっくに分かっていた。


「センパイが死んじゃうなんて嫌っす……! 最初から無駄だなんて、言わないでほしいっす……!」

「わ、悪かったわよ……。私だって無駄だなんて思ってないから……。ていうか、いきなりサブミッションってあなたどういう精神構造なの……?」

「意見がぶつかったらとりあえず折れって、ボクの先生は言ってたんす!」


 怖っ!

 その先生、一子相伝の殺人拳法でも教えてんのか。世界は生と死以外にもなんらかの状態があるだろ。


「まあ、とにかく……。お前が心配してくれてるのは分かったよ。いきなり腕ひしぎは世紀末すぎて褒められたもんじゃないけど、ありがとな」


 陽花は馬鹿だが、いい奴だ。

 トラブルメーカーのくせに友達が多いのも、彼女の人となりを物語っている。

 そんな陽花の事は友人として好きだし、だからこそ付き合いだって続いているのだ。


「戦わなきゃいけないならボクも手伝うっす。だから、センパイは死なないでください……!」


 そうか。1人で戦う事ばかり考えてたけど、陽花だってエクスプローラーだし、手伝ってもらう事はできるんだな。

 ただ、こいつを危ない場に連れて行くと、親父さんに殺されそうだから嫌ではあるんだが……。

 納得させるためにも、もう一度「ありがとな」と言っておいた。


「ところで曽良、資格は取れたの?」

「ああ。ほら、これで俺も立派なエクスプローラーだぜ」


 ステータスカードを見せる。

 レベルは1でステータスも全て0の初期値だが、資格を得たという事がなんだか誇らしい。


「へえ……これって」

「センパイ、これ……」


 まじまじと覗き込んでいた2人が、同時に噴き出した。


「あははははっ! せ、センパイ、目死んでる!」

「ふっ、ふふふっ、ふふふふふっ! あなた、さ、撮影の時に凶器でも突きつけられてたの? 表情引きつりすぎよ」


 こいつら……!

 腹を抱えて笑い転げる2人にかけるための最適な拷問技を考えていると、隣室から『パァン!』と乾いた音がした。

 ロドリゴ、布団でも干してるのかな。もう夕方だけどさ。


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