4-4 再戦の狼煙
結局、陽花の勢いに押されるままに、俺達は地下鉄車両のダンジョンにいた。
以前とまったく変わらない流れを経て、陽花が両手いっぱいの食べ物を食べ終わるのを待ってからダンジョンに入る。
少し歩いたところで、予想通りに稲妻攻撃が来た。
「おっと」
「うわあっ!?」
今度はアクア・ネビュラの先端に落ちる事はなく、陽花の足元に着弾した。
2人とも、暗闇の先を警戒しているようだ。
俺はこの先、どこから敵が出てくるのかも覚えている。そしてそれは、変わっていないらしい。
これすっげえイージーモードで気分いいな。まるで俺が、ベテランのエクスプローラーみたいに思えてきた。
陽花も真琴も予想できていない敵を、俺は先んじて処理していく。
こ、この感覚、初めてだ……! なんかこう、俺が強いって気がしてくる……!
「センパイ今日、キレッキレじゃないっすか。どうしたんすか?」
「ふっ、修行の成果かな。こう、わかるんだよね、気配的なもんが」
「マジっすか!? えっ、じゃあ次、どっから出てくるんすか!?」
「おう、次な。次は、あそこだ!」
俺が指さした方に陽花がバットを構えた。
5秒、10秒、20秒……1分ほど経っても、そこからは何も現れない。
あれ?
おかしい。前は確か、柱の影から急に飛びかかってきた蛇に、俺が尻を咬まれたはずなんだが。
そりゃ何十匹も出てきた蛇の位置を逐一思い出すのは難しいが、さすがに尻の災難はきっちり覚えてるぞ。
どういう事だ、これ。
『曽良』
ウンディーネが話しかけてくる。口を覆って小声で返事をしてやると、こんな事を言い出した。
『あなた、何を見たの?』
「……説明が難しいんだけどさ」
陽花と真琴の後ろを歩きながら、小声でウンディーネに状況を説明した。
全て説明し終わると、ウンディーネは事態を飲み込むためか短く唸った。
『つまり今、ここにいるあなたはこの世界のあなたではない、という事かしら』
「どうもそうらしい。俺の目からすると何も変わらず俺なんだけどさ。それから、ちょっとばかり世界が違うって事もあるっぽいな。さっきの蛇が出てこなかったのもそうだろうし」
『それにしても、もう1人の私? 何なのよそれは。ねえ、自由にそこには行けないの?』
「無理だ。俺も真琴に殺されて、気が付いたらそこにいた。ていうか真琴の中に何か感じないか? お前と似た存在、的な」
『……いいえ、何も。あなたの言うような、サラマンダー? の存在は、彼女のどこにもない。本当に真琴だったの?』
あれは確かに真琴だった。
髪は長いし燃えてるし、服も着ずに真っ赤な肌のエキセントリックな痴女っぽいナリではあったけれど、あの目、あの鼻、細い顔。忘れもしない、俺が一瞬憧れた王子様の顔だ。
マジで変な意味じゃなくてね? なんていうかこう、俺もこうなりたいというタイプの憧れを、本気で持った事があった。
今はそれも微妙だけれど。どうしてあんな事したのか突き止めない限り、真琴への不信が消えそうにない。
けどなあ、どう切り出したもんかな。
そもそも、真琴は何のためにエクスプローラーやってるんだ。助けたいとか喚いてたし、家族をダンジョンに囚われてるタイプなんじゃないかというのが俺の推測だが。
それが何で、俺を殺す事になるのやら。
いや、待てよ。俺はついでで殺されたって事なんじゃないだろうか。あくまで狙いはウンディーネで、俺自体はどうでもよかった?
うおお、そう考えると、なんか俺が盛り上がってんのも馬鹿みたいだな……。蚊帳の外でテンション上がってるのって、なんかこう、恥ずいぞ。
そうこうしているうちにホームに着いた。
何をすればいいのかは既にわかっているので、さっさとヒュドラを出現させてしまおう。
ウンディーネを呼ぼうとした時、陽花が階段を駆け上がっているのが見えた。
「おいおいおい! 何やってんのお前!」
「こっちに何かあるっす!」
「ねえよ! そっちは何も……コラッ! 駆け上がるな!」
陽花を止めるべく追いかける。階段の中ほどで捕まえた時、あの地響きのような足音が聞こえて来た。
うお、やべえ!
目を凝らすと暗闇の中から下半身だけの謎生命体が迫ってきていた。
俺が掴んでいた陽花の手がするりと離れる。真琴が掴んで上に跳んでいた。
「陽花、危ない!」
「あっ、ちょっ、また俺だけえぇぇぇぇべべべべべべべべべべっ!!??」
俺も掴んでくれればよかったのに。
そう思う前に、またも俺の体は謎生命体によって蹂躙された。
◆◇◆◇
「じゃあ、押すわよ」
ウンディーネを胃の中から出してボタンを押させる。
さて、どうやってヒュドラを倒すかなんだよな。
首を切っても再生する事は確認済みだ。それで煮え湯を飲まされているし、今度は油断こそしないと思うけれど、確実に致命傷を与える方法がわからない。
いや、対策はしようとしたのよ。火炎放射器とかないかなーっとホームセンターに寄ったりもしたんだけど、まあ、なかったよね。
というわけで持ってきました、ガスバーナー。これが俺の用意できる最大火力だ。職質されてもギリギリ終わらない範囲って意味で。
「センパイなんでバーナーなんて持ってきたんすか。バーベキュー?」
「おう、いいなバーベキュー。終わったら焼き肉でも行くか」
「やった! センパイの奢りで!」
「そういうふてぶてしい所、嫌いじゃないぞ。肉が竹ザルに載ってるとこ行こうな」
ウンディーネがボタンを押すと、ずる、ずる、と巨大な物が這う音が聞こえて来た。
ウキウキしながら構える陽花だったが、俺は2人に下がるよう指示をした。
「ここのボスは毒を持ってる。ウンディーネ、俺の中に入って防御しててくれ」
「な、何? あなたホント、今日……なんかすごくいいじゃない!?」
「俺だってやるときゃやるんだよ。早くしてくれ」
ごぼっとウンディーネが俺の中に入ったのを確認してから、暗闇の中から現れたヒュドラに向けて、アクア・ネビュラを構えた。
果たしてガスバーナーでどうにかなるかはわからないけれど……。
「作戦Gだ」
「作戦G……? 曽良さん、それっていったい」
「GはガッツのGだよ。『頑張ってればなんとかなるだろ』の頭文字でもある」
つまりは出たとこ勝負って事。
よっしゃ、行くぜ!!




