4-3 思い出せ
兎にも角にも、俺は無事に時間遡行を成功させたようだ。
正確には並行世界を移動したとか、そういうのっぽいのだけれど、俺の視点じゃタイムトラベルで変わりない。
この世界にいたはずの俺とも鉢合わせしていないし、むしろさっきまでの出来事が長い夢だったんじゃないかと思えるくらいだ。
だが、そうじゃない事は、陽花の反応でわかる。
「陽花、そのダンジョンなんだがな、攻略すんのはやめとかねえか」
「えっ、な、何でっすか?」
「俺は未ら……ええと、勘だよ」
あっぶね。
未来なんて迂闊に口にした日にゃ黄色い救急車呼ばれてもおかしくない。
適当にごまかしたが、陽花は納得していないようだった。
「えー、ほんとに危険はないダンジョンなんすよー。今じゃ映えスポットとしても人気で、デートしてるカップルとかもフツーにいるしー」
「正気かよそいつら。あんな蛇まみれのところでタピオカでも啜ってんのか?」
「蛇? 蛇出るんすか?」
「あ、い、いや、調べたら、そう書いてあった」
「いつ調べたんすか?」
う、こいつ、意外としつこく訊いてくるタイプ!
強引に話題を逸らそうと、俺は真琴に「そう言えば」と話を振った。
「真琴のエクスプローラーになった目的って、詳しく聞いてなかったよな!」
「わ、私の、ですか? 以前、お金が欲しいからだと伝えた気がしますが」
あーそうだ、そうだったわ。
彼女は確かに、役所で出会った時に俺にそう言っていた。
でも、俺はそれが違うであろう事を知っている。で、下手に知っている事を下手に伝えたせいで、真琴の警戒心が上がってしまった。
下手くそかよ、俺!
「あっ、えっ、と……お金が欲しいって、具体的にその……何のために?」
「マコは世界のダンジョンを攻略するんすよ! てゆーか、センパイも誘われてたじゃないっすか!」
でしたよねえ!
ヤバいヤバいヤバい、喋れば喋るほど、俺がどんだけ馬鹿なのかがバレてる気がする。
覚えてなかったわけじゃないのよ!? でもね、それ以上の衝撃があってさあ! なんて、説明してもわかんないと思うんだけども!
マジに殺されてんのよ俺は! そこの「この人もしかして疲れてるんじゃないだろうか」って心配そうな顔した王子様に!
口を開くごとに2人の信頼度がギュンギュン下がっている気がする。
ていうかウンディーネてめえ、何でテメーまでジト目で睨んでんだ。
少なくとも事情は知ってるだろうが!
「センパイが危険な時はちゃんとボクが助けるっすから、行きましょうよー」
「なあ、お前のその強引なまでの好奇心、どっから来てんの……」
「だってセンパイの100倍強いエクスプローラーが2人もここにいるんすよ!?」
「100倍は言いすぎじゃない!? 俺も強くなってんのよ! お前がランクBになっても、俺だってランク上がってて……!」
あ、やべ。
ランクが上がったのはヒュドラと戦った次の日だ。そこまで、陽花も俺もステータスの更新をしていない。
案の定、2人とも疑惑の目で俺を見ている。
喋れば喋るほど墓穴掘ってんな俺。こりゃ、下手な事言わない方が良さそうだ。
「と、とにかく、お前らの100分の1の強さしかない俺からすると、だ。地下鉄ダンジョンがどんだけ映えスポットだろうと、危険なもんは危険なんじゃないか、と思うんだよ」
「でもでも、他に手頃なとこないっすよ? センパイが何かないのかーって言ってたのに!」
あれっ、そうだっけ!?
……う、そうだった気がする。俺が陽花に、手頃なダンジョンがないか助言を求めたんだった。
となると否定された陽花の気持ちは、相当マイナスの方向行ってるんじゃないか。
「ぶっすぅ……」
ほら! なんか口の中に物詰め込んだげっ歯類みたいなむくれ方してる!
リアルにそんな顔になる奴いるんだね!
くそ、正直あそこの実態を知ってしまっている以上、行きたくはないけれど、行かざるを得ないのか?
でも命と陽花のご機嫌、どっちが大事かって言われりゃなあ……。
「あの、曽良さん」
真琴が耳打ちしてくる。
未だに真琴に心を許せていないので、こうも簡単に近づかれると、思わず身構えそうになってしまう。
ビビらせるのもアレなのでなんとか抑えているけれども、次からいきなり話しかける時はまず予告をしてほしい。うん、めちゃくちゃな事言ってる自覚はあるよ。
「陽花も、曽良さんのために探してきた情報ですし、あまり無碍にするのは良くないかと。私も、2人が喧嘩している所は見たくないですし」
喧嘩どころか、俺はお前に殺されてるんだけどな。
この世界の事じゃないからって俺の心まではノーカンにはできねえぞ。
いや、違うな。
真琴にはこのままでいてもらうのが、『今の』俺の最優先の目標だ。
正直言って今はダンジョンだとか攻略だとかはどうでもいい。
思い出せよ、錦曽良。馬鹿みてーな日常パートに絆されんな。
俺は、真琴を助ける。
ただそれだけのために戻ってきたんだろうが。




