3-15 灰かぶりの王子様
錦曽良は死んだ。
『マーメルス』。そう称される姿になってから、真琴は周囲に存在する命の火がはっきりと感知できるようになっていた。
代償は生命力であるらしいが、どうせ生きているかもわからない10年20年分の生命力などくれてやればいい。そう考えていた。
曽良の亡骸を引きずり、泉に沈める。これでサラマンダー言う所の『力を奪う』事ができたのだろうか。
それは、真琴には実感できなかった。
今、アパートの周囲には人が集まっている。その中には陽花がいる。
彼女の力はだいぶ強くなっている。もう、ヒカリヤダンジョンでも戦力になりそうなほどに。
望んでいた力は手に入ったのだ。足手まといなど捨て、頼れる人間を使って攻略を進めればいい。
陽花ならきっと事情をわかってくれる。
彼女は優しい。打算抜きで仲良くしたいほどに、優しい。
「ふっ、ぐぅ……ぅぅぅ……!」
マーメルスが解け、真琴は私服に戻った。
同時に、周囲の炎が綺麗に消えてなくなる。
そして真琴の思考は、タガが戻ったように、罪悪感と自己嫌悪で埋め尽くされた。
「う、ぇ、えええ……! ああぁぁぁ……っ!」
『うるせェなァ。ガキか、てめぇは』
その場に崩折れ、顔を覆って泣きじゃくる真琴の頭に、嘲笑うような声が流れ込んでくる。
「だって、だって……!」
『だってじゃねェよ。選んだのはてめぇだろうが。姉ちゃん助けてェなら泥灰くらい被りやがれ』
「仲間だったんだ! あの人は! それを私はこの手で……!」
『なに被害者ぶってんだてめぇは。もう一度言うぜ。選んだのは、てめぇだ』
ポケットから取り出したライターを擦ると、黒い肌の男が現れた。
膝を抱えて座り、泣き疲れた子供のようにその像を見つめる。
「はぁ~、人間のガキなら、生命の火も強いし御しやすいから良いと思ったんだが、見込み違いだったかァ? たかが1人殺ったくらいで、そんなピーピー喚き立てるなや。ほら、立て。仲間の勧誘に行くんだろうが」
「ぐす……うん……」
「最初の凛とした目はどこ行ったんだ、全く……。こんな愚図り虫だと知ってりゃ捨て置いてたぜ……」
真琴は頭を振って、弱音を頭から追い出した。
今となっては、味方になってくれるのはサラマンダーだけだ。
であれば彼には失望されないように努めなければならない。
どのみち契約した時点で、死をもってしか離れられない運命ではあるのだが。
立ち上がり、出口に向かって歩き出す
陽花に会ったら何と言えばいいのだろうか。
いや、あるいは、脅してでも連れて行けば解決するだろうか。
できればそんな事はしたくはない。
ほんの少しだけ、自分に残された他者との繋がりがあるのだとすれば。
それはきっと、彼女であろうから。
3章は完結です。
次回をお楽しみに。




