3-13 ステータス更新その3、からの
今日も人で溢れる病院から出て、俺と陽花は太陽の下で大きく伸びをしていた。
ダンジョンが世界に現れてから医療費も増加したって言うし、エントランスで待っていた人達の中には、きっとエクスプローラーも大勢いるんだろうな。俺もその1人ってわけだ。
陽花と一緒に病院に運び込まれた俺は、脚の治療を受けて一泊する事になった。
ダンジョンが消えた事で毒も消えたのは本当らしく、陽花共々、翌日には普通に退院できた。
まあ、怪我のおかげでしばらく激しい運動はやめろと医者からも釘を刺されてしまったので、全く平常とは言い難いが。
「くぁぁ~、久々のシャバっすね、センパイ!」
「24時間と経ってないし、その言い方は誤解を招くからやめい。お互い生きて帰れて良かったな」
「ボクのお腹は穴空いちゃったんすけどね。ほら」
そう言ってシャツの裾をまくり上げる陽花。
下着まで見えそうな勢いだったので、慌ててやめさせる。
が、チラッと見えた治療跡が生々しくて、怒るに怒れなかった。
こいつは俺を助けようとしてこんな目に遭ったんだ。肌に傷が残りでもすればコトだろうに、怒りや不満を口に出す事もしない。
俺が思ってる以上に、こいつは優しいし、いい奴だ。俺みたいなダメ人間に付き合わせるのは偲びない。
正直、この先も一緒に来てもらうべきか迷う。
今回の一件は、俺の認識を大いに正してくれた。
「治るまでにもっと楽しい、違うダンジョンも見つけとくっす」
「……あのな、陽花」
「大丈夫っすよ、センパイ。ボクは楽しいからセンパイと一緒にいるんす」
「…………」
「ボクにとってはダンジョンに行ってない方が退屈っす。だからセンパイが何と言おうと、ボクはセンパイのお手伝いをやめたりしないっすよ。だって、パーティメンバーですもん」
こいつめ。
やべ、なんかじんと来てしまった。
他に付き合いの長い友達なんていないもんだから、こういうの言われ慣れてないんだ。
ニコニコとしてる陽花が眩しいので、そっぽを向いて鼻をすすった。
「あれ? もしかして泣いてるんすかー?」
「泣いてねーし、ちょっと寒いだけだし」
「もうすぐ7月っすよ」
◆◇◆◇
退院して、家に帰る前にステータスの更新をしておこうという話になり、陽花と共に市役所を訪れた。
更新用端末は相変わらず列ができている。空いている時間にくればいいんだが、そのために陽花と怪我した体で街ブラデートするのも馬鹿らしいしな。
かと言ってこういう外に出たタイミングで行かなきゃ、絶対忘れる。これは俺のズボラな性格を自己分析しているからわかる。絶対に、忘れる。
世の中案外、取ったら取りっぱなしでは終わらせず、真面目に攻略しようとするエクスプローラーが多いようだ。
むしろ俺みたいに、絶対に攻略しなきゃいけない理由を抱えてる奴ほどこういうのはサボっちゃいけないんだが、どうも忘れがちになってしまう。
いざ必要になってから慌ててもダサいしな。
ようやく俺の番になり、ステータスカードを端末に入れてしばらく待つ。
排出されたカードを見て、俺は思わず「おっ」と声を上げてしまった。
■錦曽良
Level:26 Rank:C
STR:30 DEX:280 AGI:20
ランクが上がってる!
しかも、DEXがやけに高い。なんなら前に見せてもらった、陽花がレベル30の時よりも高い。
他の数値は泣けてくるが、これは陽花にも勝ってるんじゃないのか?
というか、どういう基準で上がってるんだろうか、これ。
とっくにわかりきっている事だが、どう考えても数値の上がり方には個人差がある。
その場でスマホを開いて軽く調べてみると、推測によればダンジョン内で取った行動に左右されるのではないか、という事だ。
多くのモンスターと肉弾戦をすればSTRに、ダメージを受けまくればDEXに、全力で走ったり跳んだりと動き続ければAGIに、それぞれ影響があるのだろうという説があった。
つまり俺は、毎度ボコスカとシバかれているからDEXの上がりが良く、陽花や真琴と違ってスマートに動き回ってモンスターと戦っていないから他の数値の上がりが悪い、のではないか。
解消したければ2人には下がってもらって、俺が積極的に戦う必要がある。
理屈はわかるんだが、そうするか否かはダンジョンの難易度次第、という事で。
ほら、俺って頭脳担当じゃん? 俺が前に出て死んじゃったら解けない謎とかあるわけだし。
え? ウンディーネのおかげ? うう~ん、知らんなあ~。
あいつの知識は俺のもの。俺のものも俺のもの。そういう事だよ。
つつがなく更新が終わると、陽花が何やらニヤニヤと俺を見た。
「センパイセンパイ、いっせーのせで見せ合いしましょうよ」
「お? そりゃあれだろ、俺のステータスが低いと思って、リアクション期待してんだろ。残念だったな、お察しの通り低いもんで、羞恥心も沸かねえ」
いーからいーからとグイグイ押してくる陽花に根負けして、結局見せ合う事になった。
最初はあんなに嫌がってたくせに、俺のリアクションに味をしめたか。
だが、ただで落ち込む俺じゃねえぞ。
今回はDEXの数値というビビらせの手札を持ってるんだ。可愛い後輩からリスペクトの1つでも得られる手段には抜かりねえ。
「いっせーの」
「せっ!」
陽花と同時にステータスカードを差し出し、相手のそれを覗き込んだ。
■竜宮陽花
Level:48 Rank:B
STR:490 DEX:130 AGI:400
ぐっ……!
わかっちゃいたけど、相変わらず滅茶苦茶な数値じゃねーの……。
ゲームならバランス崩壊でネット炎上してるレベル。
まあでも? DEXは俺の方が勝ってるんだし先輩の面子は守れただろ!
ふふ、どうかね陽花クン、私のこのステータスは……。
「ほへー、センパイ相変わらず弱っちいっすね」
「思ってても口に出すのやめてくれる? しまいにゃ人目を憚らず泣くぞ」
「まーまー、ボクが守ってあげるっすから。センパイは、ボクの後ろでずーっと守られてれば大丈夫っすから」
「お前ホントにヒュドラに咬まれたの怒ってないよな? 謝るよ? 土下座でも何でもするから許して? ほんと」
「怒ってな~いっすよ~」
ニコニコと歌いながら陽花が市役所を出て行く。
不安だわこの子~!
いつ爆発するのか不安! 日頃からもっとご機嫌取っておかないと……。
「ん?」
なんか街が騒がしい。
消防車や救急車のサイレン音がけたたましく鳴っている。
この都会では日常茶飯事だが、それでもはっきりと多いとわかる程度にはうるさい。
いや、数だけじゃない。どうもそれなりに近場で火事が起きてるっぽいな。
一体何だろうか。
「あれ、センパイ、あそこで火事になってる」
「んん……あ、本当だ。近いな、ここから徒歩10分ちょっとってところか?」
「見に行きます?」
「野次馬はやめとけ。いろいろ不謹慎だろ」
陽花を諌めて帰り道を歩き出す。
見に行くのはやめろとは言ったが、あれってモロに俺の帰り道じゃないか。
火事場の近くを通る事にはなりそうだな。
陽花じゃないけど、なんか非日常ってテンション上がるな。
『曽良様!』
不意に頭に声が響く。
ビックリして間抜けな声を上げてしまった。
どうやらジズがテレパシーを送ってきたらしい。これ、着信音的な機能が必要だな。
『曽良様、今どちらに!? 疾く、疾くお戻り下さいませ!』
何焦ってんだよ。ウンディーネと一晩離れてリヴァイアサンがぐずりでもしてるのか?
『貴方様のご自宅の危機です!』
……は?




