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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
3章
44/112

3-10 決着?

「うおおっ!!」


 気合いと共にヒュドラに向かって駆ける。

 大口を開けた頭目掛け、勢いづいた槍の投擲を食らわせてやる。


『ジャッ……!』


 1本、上顎が吹き飛んだ。

 吹き飛んだ顎は消えていく。あの撒き散らしてる血の事を考えると、この槍投げ攻撃が最適解っぽいな。

 ゆっくりと近付こうとする首目掛け、手の中に戻ったアクア・ネビュラを再度投擲の構えに入るが、


「危ない!」

「ぐえっ」


 真琴が俺の襟を掴んで後ろへ投げ飛ばす。

 さっきまで俺がいた場所に、死角から襲ってきていた4本の首が食らいついた。

 あ、あっぶねえ!


「サンキュー真琴……!」

「いえ。毒は大丈夫ですか?」

「あ、ああ。まだ全然……。ん、陽花! 避けろ!」


 今度は陽花を狙って首が襲いかかる。

 やや不格好にアクア・ネビュラを投擲し、寸前でヒュドラの頭を弾いた。

 あまりにも油断ならない相手だ。

 俺達3人に対してまだ7本も首が残っているのが脅威すぎる。

 弱点を付けば一発で倒せたりはしないだろうか。


「真琴! この蛇、何か弱点とかあったりしないか!?」

「弱点……。神話ですが、炎で焼いたり、岩の下敷きにして倒したはずです!」

「何も参考にならん……!」


 そりゃ人間が勝手に作った神話なんだから、姿形が似通ってる程度で期待はしてなかったけどさあ!

 残念ながら神話をなぞろうにも炎も岩もここにはない。

 売店に置いてあるライターで何とかならないか……?

 そう思って手に取ったが、擦っても火が出ない。これも見せかけだけの偽物のようだ。

 そうこうしているうちに2本の首が伸びてくる。アクア・ネビュラを振って追い払い、陽花達と一緒に距離を取った。


「遠くからこいつを投げ続けるのが一番の攻撃手段っぽいな。泥臭いけど、仕方ねえ」

「ボクが叩いてくるっすよー」

「いや、それはマジでやめてくれ……。もうこれ以上お前見てヒヤヒヤすんのは勘弁なんだよ……」

「それって……プロポーズっすか?」


 神よ、どうしてあなたは言語を分割してしまったのか。

 見てくれ、同じ民族でも言葉が通じないんだ。

 俺の心臓が弾けるのが先か、毒でくたばるのが先かの勝負やってんじゃないんだよ。


『ベヒモスを呼びましょう』

「は? ベヒモス?」


 あいつは今、泉のそばでぐでっと寝てるはずだ。

 正直何の役に立つのかもわからない。静夏さん呼んできた方がいい気がする。


『いいから呼んで!』

「あーはいはい、わかったよ。ベヒモスー」


 俺のやる気のない発声がホームに響いた瞬間。

 ヒュドラの頭上に、()()()()()


「なっ……!?」


 その中から巨体が浮かび上がってくる。

 冷蔵庫のダンジョンで見た水晶のような姿じゃない。うちで寝転がってるキモカワぬいぐるみみたいな姿でもない。

 角と牙、そして岩のような皮膚がその獰猛さと力強さを主張する、巨大な魔獣の姿だ。


「うおおおおっ!?」

『ジャァァァァァァッ!?』


 俺とヒュドラの驚愕の声がハモった。

 その声を合図にしたように、ヒュドラの頭上にベヒモスが落下する。

 ズズゥゥゥゥン――!

 巨体でヒュドラの頭を2本押し潰して着地した。地響きがホームを揺らし、陽花が尻もちをついた。


「あたた……あれ、何なんすか!?」

「う、うちで見ただろ。ベヒモスだよ」

「ベヒモス? 冷蔵庫の中にいた、あのベヒモスですか?」

「俺にもよくわかんねーけどそうらしい! うおお、すげええ!!」


 ベヒモスが大口を開け、ヒュドラの皮膚に食らいつく。

 すぐさま酸のような血液が撒き散らされるが、ベヒモスは全く意に介していないようで、引きちぎった首の1本を咀嚼し吐き出した。

 上を向いて咆哮するベヒモスに、思わず冷や汗が流れる。

 す、すげえ。あいつ、本気出すとこんなに強かったのか。

 俺はてっきりまた、唾吐いてヘイトを集めさせるのかとばかり……。


『ベヒモスは大地を司る王よ。毒蛇なんかに、私の子が負けるわけがない』

「また私の子って言ってるぞ」

『……え? 言ってた?』

「お前は3秒前の事を覚えていられないのか。でもこれなら勝てる!」


 だが、ベヒモス無双は長くは続かなかった。

 2本めの首を引きちぎった辺りで急に動きが鈍り、そのままベヒモスは消えてしまったのだ。


「えっ!? お、おい、消えちゃったけど!?」

『あー、これが限界みたい』

「マジかよ!? べ、ベヒモスー! ベヒモスくーん! 来て! お願い、来て!!」


 反応なし。

 こっからはベヒモスなしで残った3本の首と戦わなきゃならないって事か……。

 泣き言言っててもしょうがない、とにかく前に出ないと俺が毒で死ぬ。

 実はさっきから割と脚の感覚がない。これが毒なのか失血によるものなのかはわかんねーけど、ウンディーネが辛うじてどちらもカバーしてくれてるおかげで動けているのだけはわかる。

 気を抜けば、死ぬ。


「うおお!」


 まごついていたって相手が近付いてくれるわけじゃないので、思い切って接近する事にした。

 どうせ噛まれてもめちゃくちゃ痛いだけで、毒は脅威じゃない。

 捨て身の神風特攻食らわせてやる!


『ジャァァッ』


 3本の首ががぱっとこちらへ口を開けた。

 へっ?

 もしかしてこの攻撃……!

 電撃も撃てるのか、しまった!

 もう回避が間に合わねえ!!


「止まるな!!」


 真琴が叫ぶ。

 思わず止めそうになった脚を、反射的に前に進ませた。

 このまま行けば稲妻を顔面にぶち当てられて痙攣からの丸呑みもあるコースだが、そうはならなかった。


「ふっ!!」

「りゃあーっ!!」


 全ての首が俺を向いた事で、陽花と真琴が後ろから接近する隙を生み出せたのだ。

 2人の渾身の一撃が、2本の首を叩き割る。

 そして残った1本が混乱したところへ、


「とどめじゃあ――――――――――い!!」


 アクア・ネビュラの一撃!

 ビクン、とヒュドラの体が痙攣し、そのまま倒れ伏した。

 終わったのか……?


「か、勝った! 勝ったぞおおおお!!」

「やったっすね、センパイ! 今のめっちゃカッコよくなかったっすかボクら!?」

「ああ、お前ら最高だよ! いやー持つべきものはなんとやら、良かった! 本当に良かったよ! よし、今日は俺が奢る、肉焼きに行くぞ、肉! ……真琴、どうした?」


 はしゃぐ俺と陽花の横で、真琴がなにやら考え込んでいた。

 彼女がこういう顔をするのはままある事だが、何やら様子が変だ。


「マコ?」

「おかしい。どうして、ダンジョンが消えないんだ」

「……あ」

「危ない、センパイ!!」


 どんっ。

 急に突き飛ばされて転がった俺が見たのは、陽花の体に、ヒュドラの頭が2本食らいつく場面であった。

 え? どういう事?


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