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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
3章
43/112

3-9 3番線に九頭電車が参ります

 謎の歩行生物達に踏み荒らされ、俺は階段に転がって伸びていた。

 ダメージというか何というか、心がもう、痛い。


「センパイ! 生きてるっすか!?」

「おかげさまでな……」


 地面の気持ちをたっぷり味わった俺を陽花が引き剥がしてくれた。

 見たところ、2人に怪我はないようで何よりだ。欲を言えば俺も逃げるのを手伝って欲しかった。

 もう流れるように逃れたからね、上に。あそこは俺のステータスじゃ届かないだろうな。


「何だったんだ今の……。どんな奴らか、上から見えたか?」

「影のようなものが上下から襲ってきていました。人間にも見えたけれど、下半身だけでしたね」


 聞いたら聞いたで謎すぎる。

 これまで蛇が襲ってきてたのに、いきなり変な方向に舵切ってきたな。

 ダンジョンに秩序なんて求めてないが、せめて何かしら統一してほしい。


「あれー?」


 陽花の間の抜けた声が響く。

 あれ、そういやどこ行った、あいつ。

 つい3秒前までは俺の隣にいたはずなんだが。


「階段の上、なーんもないっすよ!」

「ばっ……戻ってきなさい!」


 叫んでしばらくすると、陽花が階段を駆け下りてきた。

 どうして一時たりともじっとしてられないのこの子は。いちいち行動が突飛な上に早いんだよ。せめて止める暇を俺にくれ。

 階段の上には何もない、という証明のためか、陽花がスマホで撮った写真を見せてきた。

 言う通り、がらんと広い空間があるだけだ。

 ここまで完璧に駅を模してるんなら、改札とかあるのかと思ったんだが違うらしい。

 上の階はどこにも続いていないので、それ以上の進行もできそうにない。

 となると秘密がありそうなのはここか、さらに通路を奥に進んだ先か。


「売店のお菓子フルコンプしたら道が開けるとかないっすかね」

「ないな」

「試してみるっす!」


 うわ陽花の手綱すっごい滑る。すっごい滑るよこれ、もう握ってられない。

 こうなった陽花は無駄に迅速機敏に事を起こす。

 止める間もないから最強に厄介なんだ。


「ふんぎぎぎ……! あれー? 開かないっすよこれ」


 袋の1つを取って開けようとした陽花だったが、どうやら売店の物はどれも開かないらしい。触ってみると、表面はつるつるとしているのに、硬い布のような妙な感触だった。

 でも良かった……。開けたら絶対食べてただろうし、そうなったらもう、逆さにして振るくらいしか対応策が思いつかない。

 得体の知れない物でも口に入れてしまうのは、コンビニのダンジョンでわかってるからな。あの時もめちゃくちゃ焦った。


「残念だったな。お菓子は諦めろ。……おにぎりとか弁当もな! ていうか、中身見てみろこれ、めちゃくちゃ得体が知れないだろ。食うなこんなもん」


 仕方なくと言った様子でおにぎりを取ろうとした陽花を諫める。

 よくもまあ海苔がピンクのおにぎりだったり、具がコンクリみたいな固形物の弁当を手に取る気になるな。


「曽良さん、陽花。ちょっとこっちへ」


 真琴が呼ぶので、ホームの中央に立つボードの前に行った。

 そこにもびっしり、傷が刻まれている。

 ダンジョンは再生するから、どこかの誰かが刻んだものではないだろう。


「ここ、他と違う気がしませんか?」

「んん? そうか……? ウンディーネ、読めるか?」

『えーと、これも同じね。『我は求む』……。いえ、待って。確かに一部が少し違う? ええと、『止めよ』? 何かしら、これ」


 翻訳結果を真琴達に伝える。

 『止める』を『我は求む』?

 意味ありげだが意味はさっぱりだ。


「センパイ! センパーイ!」

「あの、陽花が呼んでますよ」

「はあ……。どうしたー、今度は何見つけた?」

「これ! ボタン押しましょうよ!」


 陽花が柱に付いている赤いボタンを見つけて飛び跳ねている。

 はい出た。

 なんでそんな軽々しく押せる場所にボタンなんてあるんだ……。

 このダンジョン作った奴は人間の好奇心の限界を知らなさすぎる。

 聞き分けのいい奴ばかりじゃあないんだぞ!


「あっれ、反応しないっすよ、これ」

「陽花、押すなよ……って、5手くらい遅かったか……。まあ、何も反応ないならいいか」


 ツッコミ疲れでダウンしそうなので諦めた。

 こんなわかりやすいボタンなんて、今まで腐るほど押されてるだろうし、何もないのは妥当だけどな。

 となると試すべき事は2つ。

 さらに奥へ進むか、俺達にしかできない攻略法を試すか。


「ウンディーネ、出てきてくれ」


 がぼっと口をこじ開けてウンディーネが出てくる。

 真琴はまだ慣れないようで若干引いていた。


「げほっ……。このボタン、お前が押したら反応したりしないか?」

『そう簡単に行くかしら……』


 わずかに逡巡してから、ウンディーネはボタンを押した。

 すると……。


『ジャァァァァァ……』

「うおっ!?」


 重く、息を吐くような声と、ずるり、ずるりと何かが這う音がする。

 俺達の来た方とは逆の暗闇で、何かが光った。

 おいおい、ドンピシャ引いちゃったのかよ。

 光が2つから、4つに、そして6つ、8つ……とどんどん増えていく。

 次第に大きくなってくる音に、俺達はそれぞれ武器を構えた。


「ボスか?」

「ええ、間違いない。強い力を感じるわね」

「うし。陽花、真琴。作戦Tで行こうぜ」

「作戦、T……?」

「ああ。『強く当たって、後は流れで』だ。行くぞ!」


 何か言いたげな真琴もとりあえず納得はしてくれたらしく、警棒を構えて油断なく暗闇を見た。ウンディーネも俺の体に戻る。

 やがて、暗闇の中からそいつが姿を現した。


『ジャァァァァァ!!』

「う、おお……迫力あるな」


 ボスは雑魚モンスターと同じく、蛇の形をしていた。

 線路幅いっぱいを埋め尽くすような太い体に、首が1、2……全部で9本。

 あれか、ヤマタノオロチ? あれ、でもあれって確か首は8本だよな。

 とりあえず酒とか飲ませれば倒せるのかな。


「あれはヒュドラかな」

「ひゅーどら?」

「ああ。ギリシャ神話の怪物だね。伝説に沿っているとすれば、毒と再生能力には警戒すべきだ。陽花、下がっていて」


 なんて冷静で的確な判断なんだ……!

 俺も同じ事言おうとしてたけどね? マジだよ?


「うし、とりあえず俺が首切ってくる」

「え、曽良さんが……?」

「おい、今『弱いのに大丈夫なのかな』って副音声ばっちり聞こえたからな」

「そ、そんな事ありませんよ! でも、刃物を持っているのは曽良さんだけですし、私も援護しますから、可能ならお願いします!」


 大丈夫やっちゅーねん。こんな低難易度ダンジョンの蛇ごとき、俺のアクア・ネビュラで……。


『ジャァァァァァッ!!!!』


 9本の首が一斉に威嚇してくる。

 うん、フツーに怖いわ。

 とりあえず、アクア・ネビュラを投擲する構えに入る。なんとこれは、投げても手の中に再出現させられる事をこの度お戦いの中で発見したのだ。

 むしろ今まで使ってなかったのが間抜けに思えるくらい良い攻撃方法だ。


『曽良、噛まれないようにしなさいよ』

「大丈夫だよ。そんじゃ第一投行くぜぇ……!」


 鎌首をもたげる頭の1本をめがけ、大きく振りかぶり、


『ジャァ!!』


 がぶっ。


「痛って」


 えっ。

 なんか普通に噛まれたんだけど。

 投げようとして、狙いを定めようとわずかに止まったその瞬間。

 伸びてきた首が俺の脚に噛み付いた。

 あまりに突然すぎて、なんかものすごく淡白な反応をしてしまったが。


「痛っ……てえええええええ!!?? うおおお! なんだこいつ! やめ、離せ、コラァ!」


 アクア・ネビュラで脚に噛み付く首をぶった切る。

 すると首は血を撒き散らしながら消滅した。だが、血は辺りに残り、ホームの床を溶かす。

 嘘だろおい、マジな毒じゃねえかよ。

 え、これ、噛まれたらヤバいやつだろ。なんていうか、ドロドロ一直線だろ!?


「ウンディーネさあん!!」

『はあ……。少しは警戒してくれるかしら。大丈夫よ、前にも言ったでしょう。あなたは私の加護で、毒に耐性がある。と言っても完全に解毒できるわけじゃなくて、進行を極端に弱くするだけだから、ここで主を倒せなければ死ぬけれど』

「ごめん、もうちょい命に対してシリアスになってもらっていい!? 俺イコールでお前の命でもあるんだからね!」


 傷口はじくじくと痛いが、動けないほどじゃない。

 流れる血が思ったより多くて不安にはなるが、ひとまず毒は回っていないらしい。

 ウンディーネがいなきゃ死んでた。っていうか、俺じゃなきゃ死んでた。


「陽花! 真琴! 迂闊に近付くなよ、これはカッコつけとかじゃなくて本気のやつだからな!」

「でも近付けなかったら倒せないっすよ!」

「大丈夫、俺がやる、俺がやるから。落ち着けぇ、落ち着けぇ……。うっし! んじゃ行ってくる! 作戦A!」

「A……?」

「『案外なんとかなるかもしれん』だ!」


 つまりノープランですわ。

 俺が毒で死ぬのが早いか、残った8本全部切り落とすのが早いか勝負だ。

 願わくば、これ以上激痛のない方法でお願いします……!


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