3-5 思い出話からの
「で、曽良ってば風呂場でおしっこすんのが癖になってさ、シャワーどころか雨に降られても漏らすようになったの」
「え、本当!?ふ、ふふふっ、そ、曽良、あなた昔から尊厳とか、ふふっ、皆無なのねえ」
おい、女子ズ。
メシ時になんの話で盛り上がってんだよ……。
煮えたつみれを発泡酒で流しながら、静夏さんが豪快に笑った。
もちろん、このつみれの原料はちゃんとした鶏だ。ジズならさっきから静夏さんにお酌をしながら一緒に鍋食ってる。
「いつからだろねえ、曽良があたしとお風呂嫌だって言い出したの。ねえ、股に毛が生えたくらいからだっけ」
「お、覚えてないっすよそんなの。だいたい、いくら幼馴染とはいえ、大きくなってから一緒に風呂なんて入るもんじゃないでしょ」
嘘です。実際ははっきり覚えてる。
確かあれは、落ちてた雑誌で『女体=エロい』を感覚として理解した日の事だ。
なんかこう、股間がムズムズする感覚に、それまで何気なく一緒に風呂に入ったり一緒に寝てたのがいけない事なんじゃないかと思い、静夏さんを拒否したのだ。
まあその後、無理やり首根っこ掴まれて連行されたけど。
その頃には静夏さんも高校生だったのに、物心付いた男子と裸の付き合いしようとすんのもどうかと思うよ。
弟みたいに扱ってくれてるのは悪い気はしないんだけど……。
「あたしのアパートをダンジョンで潰したんなら普通は縛り首もんだけど、ま、曽良なら許してやらん事もないからね。ウンディーネちゃんも、さっさとこんな奴から離れられるといいねえ」
「ええ、まったく」
俺のセリフだそれは……!
こっちの苦労も知らずに好き勝手言ってくれるぜ。
鍋をつついて笑っているウンディーネを恨めしく思いながら見る。脳天気な顔からは、とても記憶のない苦しみだとかは感じられない。
……まあ、いいか。なんか見てると毒が抜ける気がする。
「そーらー、ビールおかわり」
「私も」
「お前も飲むのかよ。はあー、発泡酒ったってタダじゃ……」
「家賃10倍」
「鍋の具も追加します? シメは雑炊? うどん?」
くっそ、この横暴大家が!!
◆◇◆◇
「があーっ……があーっ……」
飲んで騒いで、静夏さんは寝てしまった。
相変わらず台風のような人だ。せっかく美人なんだから、この性格さえどうにかすればさぞモテるだろうに、俺はこの人の浮いた話など一度も聞いた事がない。
少なくとも学生時代は猫被ってたはずだし、俺に言ってないだけで、普通に綺羅びやかな青春を送ってきたのかもしれない。
「あなたにも理解者がいたのね」
酔ってるのか、ウンディーネの肌(今は人の肌だ)はほんのり朱に染まっている。
これが元の青肌だとどうなるのか興味はあるな。
「おう。たまにありがた迷惑な時もあるけど、悪い人じゃないからな。お前も、人間に対する理解は改まってきたんじゃないか」
「ふふ、元々、あなた以外の人間はだいたい信じてるわよ」
「はは、そりゃどーも……」
「あなたも……少しくらいは……」
「なんだって?」
聞き返した頃にはテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。
溜息を吐いてから、タオルケットを掛けてやる。
静夏さんは……なんとか起こして、家まで連れて行くか。
「静夏さん、起こすよ」
「んあー……曽良……とうとうあたしに我慢できなくなって……」
「なんだその、やけに明瞭な寝言は。バリバリに意識あるんじゃねえのか」
こんな時にステータス補正が働けばいいのに、と思う。
俺のステータスでも、静夏さん1人抱きかかえて移動するのに苦労はなくなるだろうに。
はあー、重てえ……。人間は抵抗しなくなるとむしろ重いんだ。少しは自分の足で歩いてくれないかな。
なんとか靴を履かせて外へ出ると、ロドリゴとばったり会った。
「アラ、ソラさん。コンバンワ」
「おっす、ロドリゴ。今帰り?」
「うん。取引……おシゴト終わったトコ」
どうかそれが合法なものである事を祈る。
「ソラさんのガールフレンド、さっき街で見たヨ」
「ガールフレンド? ……あー、陽花か。ちゃうちゃう、あいつはフレンド違いだよ」
「フレンド違い……? アー、セック」
「ロドリゴ、ストップ。それをここで叫ぶな。違うから」
するとロドリゴは、顎に手を当てて考え始めてしまった。
いや、何フレンドなのか考えてるんじゃないだろうな。普通のフレンドって概念はないのか。
あ、でも、ガールフレンドって女友達って意味で合ってるのか? だったらそう訂正しておいた方がいいのか。
「ヒバナさんって、あの小さいけど大きい子デショ? その子もいたケド、エート、もう1人……こないだアパート来てたマニッシュガール……」
マニッシュ、ってなんだっけ。
何かはわからないけど、アパートに来てたガール……。
宗教の勧誘でもなきゃ、それはたぶん。
「真琴か」
「その子? ヒバナさんと街歩いてたヨ」
「へえ、休みの日に遊ぶくらい仲良くなったんだな」
普通に良い事だと思う。
ところが、ロドリゴが放った言葉が、俺の顔色を変えさせた。
「ナンカ、2人で渋谷のヒカリヤ行ってたヨ」




