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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
3章
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3-4 本物の『モンスター』

 じんじん痛む後頭部。

 それ以上に痛いのは、正座で静夏さんの座椅子にされている太腿だ。

 わずかでも痛みに呻けば難癖つけられて締め上げられるし、俺は生まれつきの椅子なのだと自己暗示を掛けながら耐えるしかない。

 俺は椅子……俺は椅子……俺は椅子……あっ良い匂い……。

ぎゅりっ。


「いでででで!?」

「動くな。喋るな。呼吸もするな」


 死ねと?

 そんな言葉の合間にもしっかり俺の太腿はつねり上げられている。

 肉が千切れてなくなりそうだ。

 思わず飛び出してきたウンディーネのせいで、トイレのダンジョンは呆気なく発見され、3匹のお供ごとウンディーネは引き摺り出された。

 全員仲良くテーブルの前で正座させられている。四足獣や海蛇の正座ってこうなるんだ……。


「ほーお、ほうほう、ほう……。曽良、うちって無許可で人住ませていいんだっけ」

「人間じゃないし……」


 バチッ。


「あっづ……!」


 ウンディーネがぼそっと抗議したのに、何故か俺がシバかれる。


「ペットは飼っていいんだっけ? 鳥に、蛇に……ハクビシン?」

「ぺっとじゃ、ない。しもべ」


 ぼぐっ、と音がするような肘鉄を肋骨に入れられる。


「おげえ……」


 折れた? 絶対折れたよねこれ。いってえ……。


「我らが主、の主様よ。どうかお聞きくだされ」

「あぁん?」


 静夏さんのひと睨みでジズもベヒモスもリヴァイアサンもサッとそっぽを向いた。

 おいおい、お前ら主の危機だぞ、助けろよ。

(主、主よ……)


 うお、なんか頭に声がする。


(今、契約の糸を通じて話しかけております。我らが主、この御方あまりにも恐ろしいのですが、本当に人間ですか……?)


 俺の知る限り本気出せばこのアパートごと呑み込めそうなジズにこう言わせるとは。

 静夏さんは紛れもない人間だ。当たり前だけど。……たぶん。

 俺とは6つ離れた幼馴染みのお姉さんで、家族ぐるみで仲が良かったからよく遊んでもらっていた。

 幼い頃は風呂にも入れてもらってたと思うけど、あまり思い出したくない。

 なにかと玩具にされてきたトラウマがあるからだ。

 こうして格安の家賃で部屋を貸してくれてる事は素直に感謝するし、本人も悪い人じゃないんだけど、この傍若無人な気質と手が早いところは勘弁して欲しい。


(我らが主も苦労なされてるご様子……。いっそ我らの能力で黙らせてしまうのは如何か)


 えっ、そんな事できんの?

 お前ら今、漏れなくゆるキャラみたいな外見になっちゃってるけど。


(造作もありません。ふんっ!)


 唐突にジズが翼をはためかせた。発生した風がバタバタと静夏さんの髪をなびかせる。


「ん、何これ。涼しいけど……。扇風機?」


 が、風力は残念らしい。後ろにいる俺にも、「強」にした扇風機くらいにしか感じられない。

 やがて疲れたのか、ジズは羽ばたくのをやめてしまった。

 お前……ダンジョンのボスだったんだよな……?

 お前が出て来た瞬間に死を覚悟した俺って……?


(面目ない……)

(つぎ、ぼく)


 ベヒモスがのそっと動き、静夏さんの顔を見た。

 そして、


「べっ」


 べちゃっ。

 なるほど、水弾攻撃ができるのか。

 だが規模が小さすぎて、顔面に唾吐いたようにしか思えない。

 椅子にされてる俺でもわかるくらい、静夏さんの怒りゲージが高まってゆく。

 なんかブチブチ言ってる気がするもん。100%中の100%すら超えてそうだ。


「このケモノは、なかなか、ナメた真似してくれるんだね」

「静夏さんあのですね」

(よし、ゆけ、リヴァイアサン)


 リヴァイアサンが動く。

 素早く静夏さんの体に巻きつき、腕に牙を立てた。

 それは洒落にならないんじゃないか!? いろんな意味で!

「いつっ……。はあ? 今度は蛇……。曽良、どんな躾してるんだい、あんた」

(馬鹿な。リヴァイアサンの毒は、一滴で村を滅ぼす魔の毒。いくら力が落ちているとはいえ、人間如きに耐えられるわけ……)


 静夏さんを自分たちの物差しで測ったのが間違いだ。

 ゆらり、と静夏さんが立ち上がり、まずはリヴァイアサンを腕から引き剥がした。

 噛まれた箇所は蚊に刺されたように赤くなっているが、特に毒の効果は現れていないらしい。

 この人が何者かだって? 俺が知りたいよ。


「乙女の柔肌に牙立てやがって……」

「ジュルルルルッ!?」


 世にも恐ろしい声だ。正座しながら漏らしそう。

 静夏さんは窓を開け、両手で伸ばしたリヴァイアサンを物干し竿に括り付けた。

 そのまま数度、片結びしてしまう。

 哀れリヴァイアサンの長い体はポケットの中で絡まったイヤホンのような有様と化した。


「干物になるまで反省してな」

「ジュ――ッ!? ジュルルルッ!!」


 ぴしゃっと窓が閉められる。

 すまん、リヴァイアサン。俺は助けてやれそうにない。

 干物になったらちゃんと泉に浸けてやるから……。

 お次はベヒモスの晩だ。


「粗相する口はこれかい?」

「あっ……ああっ……」

「唾が臭かったし、歯はちゃんと磨かないとね。ちょうどいい、あたしが磨いてやる」


 キッチンに連れて行かれたベヒモスは、金属たわしを持った静夏さんと一緒に戻ってきた。


「ほーら、ほら、ほら、ほら、ほら! 歯磨き上手かなあー?」


 ガリガリと口中をたわしで擦られるベヒモス。

 そのつぶらな瞳には涙が浮いている。

 やべえ、モンスターに同情する日が来るとは。

 すっかり磨かれてピカピカになった牙に満足したのか、静夏さんはベヒモスを放り出した。

 残るはジズだ。ライオンの脚で器用に正座しながら、何をされるのかと震えている。

とてもあの海中で見た威厳ある化け物だとは思えない。


「あんたは、そうだね」

「我らが主の主、いや、大主様! 我はその、意外と打たれ弱く、それに昨今は動物愛護にも特段厳しいと聞きますし、ここはやめておいた方が賢明かと思うのですが」

「曽良、羽根むしるの手伝いな。今夜は鶏鍋にしよう」

「我ほんと、そういうのじゃないので! 食用とか! そっち系のアレじゃないので!」


 脚を掴まれて逆さまにされたジズが暴れるが、静夏さんの握力に叶うはずがない。

 ウンディーネは青い顔をますます青ざめさせて俯くばかりだ。


「ああああ! 助けて! 主、曽良様! お助けを! お助けをぉぉぉぉ……!」

 さらばジズ。きっとお前は、いいお味です。


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