3-3 暴君が空手でやってきた
7,000PV、ありがとうございます!思いつきで書き始めたのですが、沢山の方に読んでいただけて非常に嬉しいです。評価&ブクマもよろしくお願いいたします
長良静夏。通称ダブルエス。
エスの字の由来は諸説あるが、スーパーサディストというのが俺の見解だ。見解も何も、俺が言い出した俺だけの呼称だけど。
靴を雑に脱ぎ捨てて上がり込んだ静夏さんはぐるりと辺りを見回した。
「ん〜? 片付けはきちんとしてるみたいだね。洗い物を放置してキッチンにカビでも生やしてたら殺してたよ」
「あはは、まさかっすよ……」
「お客さん?」
「はぃっ……!?」
急にウンディーネ達の存在を言い当てられたかと思ってビビった。
思わずトイレに視線を送りそうになるが、なんとか押しとどまる。
え? 何? どこで何を判断したのこの人。
「流しに2、3人分の食器はあるよね。小皿が3つ。まさか犬食いしたってわけじゃないだろうから、箸の数から考えて、2人……多くて3人かい?」
「あ、あー、いや、昨日の残りっすよ」
「ふうん……。誰が来てもどうって事はないけどさ、あんまし騒ぎすぎないようにね」
「うっす……」
普通、店子の部屋に入ってすぐにプロファイリングする?
普段は不動産で食ってるとか言ってたけど副業で分析官でもやってんの?
一体何しに来たってんだ…。家賃はちゃんと払ってるし、大家に何か言われる覚えもない。
いや、隣のロドリゴには迷惑掛けてる自覚はあるけども。たまにパンパン聞こえるし。
でもさ、むしろロドリゴの部屋を強制捜査した方がいいと思うぞ、この国のためにも。
「曽良、あれ何?」
「ん? あっ、あー、いやあ、あれは、その」
トイレの前に置いたゴミ箱を指差し、静夏さんが聞いた。
これはまずい。ダンジョンがバレれば、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
「あれはですね、封印です」
「封印?」
「はい。あのトイレ、夜な夜な声がするんですよ。寒い、暗い、開けて……と。きっとあそこで無念の死を遂げた人間の成れの果てなんだと思います。だから封印してるんですよ」
「あたしのアパートで人死にが出てるって言いたいのかい?」
ジロリと睨まれる。
それだけで蛇に睨まれたカエル状態だ。いやもう、なんなら舌で絡め取られてるレベル。
胃の中ちょっと見えてるくらい。
「死体だなんて、ったく……。もう片付けたからそんなもん出やしないよ」
「いや片付けたんかい!」
「冗談だよ。あんたが1秒でも家賃滞納したら、その時は現実になるけどね」
目が笑ってないっすよ。
「あの、今日は一体……?」
「ん? 暇だから曽良の事、イジメて遊ぼうと思ってさ」
お話が三段飛ばしにしか通用しない暴君かよ。
静夏さんは特に断る事もなくテーブルの前にあぐらをかいて座った。
いつの間にか、冷蔵庫から取り出したであろう麦茶とコップも置かれている。
いや自分の家かよ。……大家だったわ。
「そーらー、なんで毎回ビールないわけ?」
「ビールはハレの日だけって決めてるんですよ。文句あるなら自分で買ってきて入れといてください」
「よし、錦さんの部屋は家賃5倍ね」
「んな暴力的な契約更新があるかよ! ……はあ、で、ほんとに遊びに来ただけなんですか? これでも忙しいんですけど」
「んー?」
勝手にテレビも点けてるし……。
ていうかその口に加えてる煎餅、どこから出した?
あー……、なんか陽花が戸棚に入れてた気がするわ、それ。
「どーせ昼からシコシコ一人遊びしてるだけっしょ」
「んまっ! お下品!」
「図星だろー」
断じてしてねえし!
むしろ最近、ウンディーネ達のせいでそれもご無沙汰……いやこの話はいいか。
麦茶飲みに来ただけなら速やかに帰っていただきたい。もしトイレの中を見られたら一巻の終わりなんだ。
それに、そんな氷入れた麦茶ガバガバ飲んだら……。
「んっ……悪い曽良、ちょっとトイレ貸して。お腹冷えた」
言わんこっちゃねえ――――――――!!
フラグ回収までが早すぎるでしょ!?
固まる俺を押し除け、静夏さんがトイレの方にのそのそ歩いて行く。
「あーっと!!」
体ごと飛び込んでブロックディフェンス!
アリの子1匹通さねえぞここは!
「はあー? 曽良、あんたまさか、あたしの出してるとこ見たいとか……?」
「んなわけないでしょう」
「じゃーどきなさいよ。じゃないとここで漏らすけど。それはもう、真顔であんたの目を見ながら漏らすけど」
どんなプレイだそれは。ちょっと興味あるじゃねえか。
いや、そうじゃなくて!
「今はまずいんです! ええと……トイレ壊れてて!」
「だったら大家のあたしが見るべきでしょうが。業者も呼ばないとなんだし」
「それはそうなんですがその……女性に見せるには見苦しいというか……」
「こちとらあんたの股ぐらに毛が生えてない頃に一緒に風呂入った仲だろ。いーからどきな」
「あっ、あっ……」
必死でトイレのドアにしがみつく俺。引き剥がそうとする静夏さん。
徐々に負ける俺。片手で俺を引き剥がしてる静夏さん。
この圧倒的なステータスの差。しかもダンジョンの補正とかじゃなく、リアルに筋力で負けてるのかと思うと悲しくなる。
あのですね、俺は一応、男なんですよ。それをフツーに肩掴んで、引き剥がせるってこの。俺が弱いの? 俺が駄目なのかなあ?
「ほーれほれ、パックリ開けて見せてみろ〜」
「あっ! 駄目! ここは! ここだけは!」
「隠すな隠すな。恥ずかしいとこなんていくらでも見てきただろ」
「駄目ぇ!」
「ん~? 何が駄目なんだ? いいからお姉さんに全部任せとけ~」
「嫌ぁ〜〜! 誰かぁ〜!」
などと思わず細い声で助けを求めた瞬間。
「あなた達、泉の前でナニしてんのよ――――!?」
「えぶっ!?」
勢いよく開け放たれたドアに転がされ、俺はしたたかに頭を床へ打ち付けた。




