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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
3章
36/112

3-2 契約書はちゃんと読もう(読んでもどうしようもないけれど)

 一難去ってまた一難どころか、百難くらい来てる気がする今日この頃。

 波乱の冷蔵庫ダンジョンを無事にクリアし、ようやく中のドレッシングが取り出せるようになった俺は、

「曽良様、そこで醤油は味の調和を崩しますぞ」

「センス、ぜろ」

「フシュルルル……」


 この小うるせえモンスター共に何故か料理下手を馬鹿にされつつ、残された寿命を元気に過ごしていた。

 ジズ、ベヒモス、リヴァイアサン。こいつらは俺の余命を半分にしてくれた元凶共だ。なのにこうして厚かましく居座って、何をするにも口出ししてきやがる。

 大体なんで、ついこの間まで海の中で泳いでた奴らが野菜炒めの上手い作り方なんぞ知ってるんだよ。ク◯シルレシピでも見れんのか、あのダンジョン。


「ウンディーネ様、脱いだお召し物はきちんと洗濯機へ」

「ええ……。いいじゃない、どうせ外に出ていないのだから、汚れていないわよ」

「お前が着るとそれだけでなんかヌメっとしそうだけどな」


 からかってやると、ウンディーネの手元から瞬時に金属の三叉槍……アクア・ネビュラが伸びて、俺の喉元に触れた。

 ヒューゥ、完全に『やる』手つきだったぜ。見なよこの、槍先と喉仏の距離感。なんならもう、薄皮切ってっからね。

 こんな殺意高めのクレイジーサイコモンスターとその愉快な下僕達に囲まれて、今日もドタバタ楽しいねほんとに。

 あんまり騒ぐとお隣さんがおはじき持って遊びに来ちゃうから、声のボリュームは程々にね。


「主らよ、そのような高熱の物を持って戯れるのはおやめくだされ」

「ふん……。なによ、下僕に小言を言われてるようじゃ、主失格なんじゃない、曽良さん?」

「主はお前だからな、言っとくけど。飼い主ならきちんと躾けとけよ」

「「ぐぎぎぎぎぎ……」」


 などと睨み合ってから、ローテーブルに食事を置いた。のそのそとウンディーネが這ってくる。

 肉野菜炒めと特製の味噌汁だ。特製って言ってもいつもより野菜が多いくらいだが。

 100万円を手に入れた俺の食生活は、平時より少しばかり豪華になっていた。

 とはいえすぐに使ってしまっては元も子もないので、こうしてチマチマ、QoLを上げる程度に抑えている。

 飲む打つ買うの欲望とはほとんど無縁なもんで、我が事ながら娯楽に金がかからないのは助かる。


「実際……むぐむぐ、実際、あなたって本当に人間の欲望とは無縁よね。あぐ……大金を手に入れても、全然使わないし。倹約家なの?」

「食いながら喋るな。ちょいちょい口の中見えてるんだよ……。あー、まあ、別に何があるってわけでもないんだけど、金の使い方を覚えられずにここまで来たというか」

「異性に使ってあげる事もなかったんでしょう」

「予告なしで火の玉ストレート放り込んでくるのやめてくれる? いいんだよ俺はそういうなんかこう……ねえ?」


 思わずニヤッとしてしまう。うわあ気恥ずかしい。なんかこう、下心って口に出すのが気恥ずかしい。

 こういうところが童貞なのかねまったく!


「あるじ、かおがキモい」

「お前ら本当に下僕なんだよな?」


 ジズと同じく、30センチくらいのミニサイズに縮んだベヒモスとリヴァイアサンが自分達の皿から肉を食んでいる。

 こうして見るとキモカワ系のぬいぐるみなんだが、飯も食うしきちんと眠る。

 モンスターの生態はどうなのか聞いてみたところ、実は本来ならあいつらに食事や睡眠の必要はないらしい。

 ダンジョンから得られる力のみで存在していられるし、たとえ迷い込んできた生き物を食う事があっても、それはなんらかの『クセ』のようなものなんだとか。

 クセで食われりゃ、食われた側は堪ったもんじゃないがな。

 食事を終え、洗い物をするために腰を上げる。

 すると、インターホンが鳴った。

 誰だろうか。今日は陽花や真琴が来る予定はない。

 陽花ならアポなしでもガンガン来るが、確かこの時間は授業があったはずだ。

 となると。


「下手人は貴様か」

「ええっ!? わ、私、今回は何も頼んでないわよ?」

「本当か〜?」

「ほ、本当よ〜?」

「本当なんだろうなあ〜?」

「わ、私は神性よ。嘘はつかないわ」

「んん〜?」

「……来たとしても今日じゃないと思う」

「ボケ――――――――!! やっぱり頼んどるやんけ!」


 咄嗟に額を庇うウンディーネに構わずチョップの嵐を喰らわせてやろうかとした瞬間、再びピンポーンと軽快な音が鳴った。


「後でとことん話し合うからな。それからスマホ禁止な!」

「ああん……」


 外見が美女じゃなきゃ拷問技で攻め立ててる所だ。

 その間にも呼び鈴がピンポンピンポンと鳴らされる。

 しまいにはピンポンピンポンピピピピピピポポポポ……あーうるせえ!!


「ったく……。常識知らずのバカタレはどちらさんですかーっと……ひゅっ」


 悪態をつきながら覗き窓を見た俺は、思わず固まった。

 全身からぶわっと冷や汗が噴き出す。

 そこにいたのは、今最も出会いたくない人物ランキングぶっちぎりのナンバーワン。

 音を立てないように部屋へ戻り、ジェスチャーでウンディーネ達に「引っ込め」と指示する。


「おーい、いるんだろ、曽良。錦曽良。そーらー。返事しなー」

「は、はぁ~い……」

「えっ、声細っ……。曽良、あの人間、誰?」

「いいから! 頼むから泉に引っ込んで……!」


 こんなとこ見られたら完全に終わる。

 ここでおさらいしておこう。

 本来、自分の所有する物件に変異型特殊建造物、つまりはダンジョンが現れた際、届け出さえすればその権利は自分のものにできる。

 もし放棄するなら、第一発見者か、任意の第三者に譲渡する事も可能だ。

 だが賃貸だと話は違う。たいていの契約条文には、そうした事態が起こった場合は貸主に速やかに届け出るよう書いてある。

 うちももちろんその例に漏れない。

 どうせそんな事態あり得んだろ~と軽く笑い飛ばしていたが、まさかまさかでダンジョンの災難に遭い続けているわけで。


「曽良~? あと5秒以内に開けな。でないとドア蹴破って、修繕費はお前に払わせる」

「はい! 今開けます! あ、ちょ、ちょっと待ってくださいね! 今でかいのしてたんで! あっ、ペーパーが絡まって、あっ」

「5ぉ~」


 聞く耳なしかい!

 小芝居も完全に無駄に終わったので、急いでウンディーネ達をトイレに放り込んだ。

 抗議の声が下に転がり落ちていくのを見届けてから、ドアをきっちり閉める。その前にゴミ箱を置いてカモフラージュ。よし。


「1ぃ~」

「カウント早くないっすか!? はい、はい、今開けます、開けます!」


 ゼロをカウントした瞬間に俺がいろんな意味で終わらせられると直感したのでとにかく急いで鍵を開けた。

 間髪を入れずにドアノブが回り、ずるりと手が入り込んでくる。


「ひぃっ……」

「こんにちは、愛する我が店子ちゃん。どうして開けるのが遅かったのかな?」


 ものすごい力でドアを引っ張られ、わずかな抵抗さえ虚しくその人物は中に入って来てしまった。

 このアパートの大家。

 人型に押し込めたタイフーン。

 (なが)()(しず)()さんが、世にも恐ろしい笑顔で立っていた。


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