2-16 ほんといい加減にしてくれ、ダンジョン
6000PV超えました!沢山の方の目に触れていると思うとモチベーションが上がりますね。
今回で二章は終わりです。三章からはさらに物語が進んでいきますので、お楽しみに。
こうしたドロップ品の買い取りをやっている店へ向かう道すがら、真琴は少しだけ自分の話をしてくれた。
お金を貯めて世界を周り、各地のダンジョンを攻略したいのだという夢。
本当に立派だと思う。外見も中身も完璧極まりない人間っているんだな。
「ボクもマコに付いていくって約束したんすよ!」
「ふふ。陽花がいてくれると心強いからね」
「へへー。センパイも行くっすよね?」
「ん? あー、まあ、そうだな。いつかこのヘンテコな状況を改善して、元の体と寿命に戻れたら、その時はマジで攻略専門のエクスプローラーになろうかな」
なんとなく攻略の楽しさというものもわかってきたしな。
解きたい謎もある。あの水晶宮で出会ったウンディーネ(美)さんの事や、急に態度を変えてきたジズ達の事。
俺とウンディーネが過ごしたわずかな時間はさすがに蜜月と呼ぶほどのものじゃないし、それをジズ達に教えた覚えもない。
それに、あれはどうも俺達2人を指しているようにも思えなかった。何か、違和感しかない態度だった。
「にしてもこれ、こんだけあるといくらくらいになるんすかね」
陽花が石の入った袋をジャラジャラと振る。
見た目は宝石っぽいが、どうなんだろう。モンスターの目玉代わりに嵌っていた物だし、実はさほど価値がなかったとしても驚かない。
少し調べてみたが、高難易度のダンジョンであれば何千万円もの価値のあるアイテムも拾えるらしいが、まあさすがにそこまではいかないだろう。
「ちょっと高めの飯が食えるくらいにはなるんじゃないか? もしかするとホテル飯まで行けるかもしれんぞ」
「ホテルのご飯かあ、いいっすねえ」
「まあ本音言うと、ドーンと100万くらいになってくれたら最高なんだけどな!」
「ふふ、その方が夢がありますよね」
3人で笑い合う。
こういうのはどんな結果になっても、笑い話にできればそれでいいのだ。
なんならトッピング全部乗せのラーメン1杯分程度だったとしても、それはそれで楽しいしな。
たとえこの石がいくらになろうと、この思い出はプライスレスってやつさ。
あれ? ちょっと今、かなりキマったんじゃないか?
◆◇◆◇
「……」
「……」
「……」
俺のアパートに戻った3人は、ローテーブルの前で無言で正座していた。
目の前には、3つに分けられた紙の束。それぞれに帯封がされている。
そう、帯封だ。雑紙を纏めるためのビニール紐じゃないぞ。
紙の束ってのも新聞紙のゴミとかじゃない。紛れもない紙幣の束だ。
「なっちゃったな、100万」
「なっちゃい、ましたね……」
「あのキラキラ、宝石だったんすねー」
あの石はどうやらマジな宝石だったらしく、対応してくれた店員も若干壊れ気味のテンションで鑑定してくれた。
あれよあれよと積まれる札束を前に、俺達は何も言えず、そして何もできずにこうしてすごすご帰ってきたというわけだ。
人間、本物の大金を前にするとこんな気持ちになるんだな。今後覚えておこう。
内訳は俺が100万、陽花と真琴が200万ずつ。
陽花はまだ俺達よりは驚きが軽いようだが、それでもさっきから雰囲気に呑まれてか、普段よりも口数が少ない。
「……行くか、高い飯。俺の全オゴリで」
「そ、それはさすがに。むしろ私がこれだけ多く貰っているんですし……」
「もー、あなた達、さっきも同じ問答してたじゃない。どうせあぶく銭なのだから、使ってしまえばいいんじゃないの?」
「シャラップ、ダンジョン生物!!」
「なによその言い方……」
これは人間にしかわからない苦悩なんだ。
というか、これだけの大金を手にした事がないのでどう使えばいいのか見当もつかない。
真っ当な大人ならもっといい使いみちが思い浮かぶのだろうけど、フリーター一筋でやってきた俺には「とりあえず高い飯」くらいの貧困な発想しか出ないんだ。
ああー、こんな事ならもっと趣味に生きておくんだった!
100万入ったら何に使うか、パッと即答できるような趣味人になっておくんだった!
いや、なんで俺、金が使えない事で悩んでるんだ。真のブルジョワの考え方かよ。
「ほんっと人間ってわからない。貧しくても富んでても悩むなんて。ずいぶん、贅沢な生き物なのね」
「ですなあ。我らが主も、価値観の違いは面白くもあり、困惑もしていたと申されておりました」
「そうなのよねえ……。え?」
「あ?」
「どうされましたか、主らよ」
やたらダンディな声のした方を見れば、四足の鳥がふよふよと浮いていた。
そいつの名前は知っている。昼ごろ、俺を殺しかけたダンジョンのボスだからだ。
「でええええええっ!!?? じ、ジズ!? なんでここにおるんじゃーい!?」
「む。何故と問われましても、契約したではありませぬか。これからは下僕として仕える、とも」
「はあー!?」
「ああ、我らは普段、主の泉に間借りしておりますので、同居人だとかペットだとか、その辺りの事情はどうぞお気になさらず」
「現代の賃貸事情になんでそんなに詳しいんだよ。ちょ、ちょっと待て、我らぁ?」
嫌な予感にウンディーネと顔を見合わせ、急いでトイレの方へ向かう。
石の階段を転がり下りると、そこには……。
「あるじ?」
「ベヒモス君もおる――――――――!?」
「ど、どうしてあなた達、ここに……!?」
ぐでっと寝そべっているベヒモス……ダンジョンで見た時と違い水晶ではなく生っぽい皮で表面が覆われている……が、不思議そうに俺達を見た。
え、て事は他のモンスターもいるの?
「我ら三頭一対の下僕。ジズ、ベヒモス、リヴァイアサン。今日より主らのおそばにてお仕えいたす」
「あ、リヴァイアサンもいるのね……。ああ、いるわ。泉の中にデカいの見えるわ」
「ちょっとー!? 私の泉に勝手にー!!」
「リヴァイアサンは少々『まざこん』の気がありますゆえ、主の気配の中でしか眠れぬとの事。何卒ご容赦を」
「飼い主の使ってる毛布でしか眠れない飼い犬かよ。くそ、契約ってこういう事なのかよ……」
寿命だけ上手い事分け与えて貰えるなんて、そんな旨い話ではなかったらしい。
まあでも、知性のあるペットが3匹増えた程度ならまあ、そこまでデメリットってわけでも……。
「それでは我らが新たな主、曽良様。我らの分までどうか、他の迷宮の主より生命力の奪取を頼みましたぞ」
「はいはい、わかってるよ……はあ!? お前らの分までってなんだ!?」
「おや、我らが主。もしや説明されてない?」
話を振られたウンディーネはキョトン顔だ。これはマジでわかってないやつ。
「ふむ。我らは、主・ウンディーネ様と同様、あなた様に力を与え、あなた様と生命を共有する縁で結ばれたのです。我ら三頭で、ウンディーネ様と同等。つまり」
つまり、倍の早さで寿命が消費されるという事。
今までの倍は戦わないと、あっという間に死ぬって事。
1年あると思われた余命も、実質一気に半年まで目減りしたという事。
「うおお……」
めまいと共にその場に大の字に倒れ込む。
心配してくれたのか、ベヒモスが寄ってきてヒレで胸をさすってくれた。
優しい……でもお前らのせいなんだよなこうなってんの。
そう考えると全然ありがたくないし、むしろ怒りさえ湧いてくる。
ほんとマジさあ……。
「いい加減にしてくれえ、ダンジョン……」
俺の弱々しい声が、泉の岩壁に反響した。




