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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
2章
28/112

2-10 海の中へ

 氷ではなく石でできた階段を上ると、ドーム状の広い部屋に出た。

 床はこれまでと変わらず氷だが、ベヒモスの部屋とさ比べ物にならない広さだ。余裕で野球できそうなくらいだな。

 だが、なにより目を引くのは天井だ。


「これは……水?」


 床から2メートルほどの所に、透明な水が揺らめいている。

 それが天井一面を覆っており、その中には上下逆さまに泳ぐダンジョンのモンスター達がいた。

 落ちてこないのを見ると、水に見えるだけの何かだろうか。


「よっ」

「んっ? ちょっ……!」


 ドポン、という音。

 見れば陽花が水に上半身を突っ込み、どんどん上って行っている。


「うおおい! 何やってんだ!」


 慌てて足を掴んで引っ張り戻した。陽花は上半身がびしょ濡れになっている。

 こいつ1秒たりとも目が離せないわ。

 幼児の親ってこんな気持ちなんだろうか? 常にヒヤヒヤさせられて、全然心が休まらない。

 大体、まだボスがここにいるって限らんのに、好奇心だけでこんな訳のわからんもんに突っ込むかフツー。

 頼むから年齢相応にまともな行動を取ってくれ……。


「しょっぱいっす!」

「お前の行動もな。この水? しょっぱいって事は……」

「本物の海のようですね」


 警棒で水を探った真琴が呟いた。

 手近な床をアクア・ネビュラで削り、かけらを投げ入れてみる。

 すると、重力に逆らって上へ上へと上って行った。

 あっという間に暗い天井に吸い込まれ、見えなくなっていくかけら。

 どこから光が差しているのか分からないが、天井の海は普通の海と見え方は変わらない。

 底に行くにしたがって深い色になり、見えなくなっている。


「主はこの海のどこかよ」

「あっ! でっかいのいたっす!」

「どれ……で、でっけえ!?」


 海の中を悠然と泳ぐのは、海蛇のように長い体を持ったデカい生物だ。

 全身が黒く、刺々しい鱗に覆われている。複数の眼がギョロギョロとあちこちを見回している。

 ゲームとかで言うなら確か、リヴァイアサンってやつだろうか。なんかの神話の化け物だったと思う。

 さすがにあれと戦えってのは無理だぞ。ネプテューヌ使ったって勝てる気がしない。

 冷や汗を垂らしていると、ウンディーネが口を開いた。


「あれは主じゃない」

「あ、あの図体でボスじゃないのか……」


 そういや、ここのボスはミノタウロスよりは弱いんだっけ。それもどこまで確かかわからないが。


「本物はこの海のどこか……。あっちに、強い気配を感じる」


 ウンディーネの指差した方は青く輝く海が広がるのみだ。色とりどりのモンスターが泳いでおり、その脇をリヴァイアサンが通る。

 こりゃ、ボスに辿り着くのは一苦労だな。

 大体、このダンジョンは意地が悪いぜ。ボスまでの通路は隠されてるし、肝心のボスも……。

 ……あれ? ちょっと待てよ、これって……。


「センパイ、ボクらたぶん行けないっすよね、これ」

「うっ、そ、そうか、そうだな……」


 忘れてた。海って事は当然酸素もないし、普通の人間じゃ活動できるわけがない。

 そして海の中でも問題なく活動できるのは俺だけ……。

 このボスは、否が応でも俺1人で戦わないといけないのか。

 くそ、ここに来てマジかよ!

 このダンジョンで多少は強くなってるかもしれないけど、俺だぜ? 元の能力値も底辺を叩いてそうな、この俺だぜ?

 いきなりのガチ試練にビビり倒すしかない。

 でもここまで来て嫌だとか言えないよなあ。

 先導してくれたベヒモス君も「はよ行け」とばかりに視線を送ってくるし。

 知性のない石つぶての瞳のくせに、やたら雄弁なのはなんなんだ。


「海に入った瞬間、あいつにパクッと行かれたりしないよな」


 リヴァイアサンを指差すと、ウンディーネが首を傾げた。


「さあ……」

「不安〜〜〜〜!」


 あーくそ、覚悟を決める時か……。

 あーほんとやだやだ、ダンジョンってやつは、なんでこう人の暮らしを侵食して、命懸けを強要してくるかね……。

 仕方なく意を決した俺はジャンプし、腕の先を海に入れた。

 すると、体全体が『沈むような』感覚があった。


「変な感覚だ……。うし、ちょっくら行ってくるわ」


 心配そうに見送ってくれる陽花達を後にして、俺は海の中へ突入した。


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