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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
2章
27/112

2-9 我が主

「ああるじじいいい……よよよくぞぞぞ……」


 ベヒモスは唸るような言葉を繰り返す。

 その声は間延びしていて聞き取りづらい。いやそもそも、言葉なんだろうか、これは。

 適当な唸り声を都合よく言葉だと解釈してるだけな気もする。

 ウンディーネがベヒモスに近づき、その鼻先に屈みこんだ。


「あなた……私を知っているの……?」

「あああるじじじ……」

「ある、じ……主……? 私が……? この迷宮の主は、あなたではないの?」

「あああるじじいいい……わ、わ、われれれ……わわれらら……」


 そこでベヒモスは唸るのをやめ、踵を返した。

 そしてヒレを振り上げ、背後の壁に打ち付ける。

 すると、壁が粉々に砕け、通路が現れた。

 いつもベヒモスを倒した床に、下に降りる階段が現れていたのだ。

 そしてそこを降りるとダンジョンがループしてしまう。何度も何度も、だ。

 今度は奥へ続く通路が現れた。これはまさか、クリアに近づいたのではないだろうか。

 そう、俺の延命にも一歩近づいたのでは。


「うぐぅっ……」

「うええっ!? センパイ、泣いてるんすか!?」

「だって、命助かるかもだし……」

「まーまー、ボスでもなんでもボクが倒してあげるっすよ。だから安心するっす!」

「や、お前が倒すとまずいんだけどね……?」


 そこんとこわかってくれてんのかなこの子。

 いまいち不安だわ。

 ぺかーっと光を放つほど無邪気に笑う陽花に肩をバシバシ叩かれつつ(すごく痛い)、ウンディーネとベヒモスに先導され、通路を進んでいく。

 だんだん周囲の温度が下がってきている気がする。着込んできたはずなのに、肌を突き刺すように寒い。


「えっぷし!」

「大丈夫か、陽花。あんま無理すんなよ」

「へーきっすよ……ぶええっくしゅ!!」

「きったねえ! 唾めっちゃ飛んできたぞ!? せめて口を覆え。ほら、鼻水出てる」


 ポケットティッシュを陽花の鼻にあてがってやる。


「ふふ、仲がいいですね、お2人は」

「センパイはボクの鼻かむのが好きなんすよ」

「えっ……」

「ちゃうわ! ほら、自分でやれ」


 などと馬鹿げたやり取りをしながらさらに進む。なんかこう、心に余裕が生まれた気がするな。

 すると奥には、上へ昇る階段があった。

 もちろん、ダンジョンから出るための階段ではないだろう。

 これはもう、来てるだろ、ボス部屋……!


「ウンディーネ、この先にボスはいるか?」

「ええ……。すごく強い気配を感じる……」

「よっしゃ! 2人ともいいか、ボスに行く前にミーティングしよう」


 3人で円陣を組む。

 思い出すな、小学生の時の運動会。

 あの時もこうしてクラスで円陣組んで、何故か俺だけ、微妙に輪を外れた所で「おおーっ!」って叫んでたんだよな。

 あれ? こんなに寒いのに、なんだか熱いものが頬を伝うよ。なんだろうねこれ。


「まず作戦はこうだ。陽花が牽制のために前に飛び出す」

「そんで頭を砕くんすね」

「話聞いて? で、真琴が援護しつつ、俺が後ろに回り込む」

「そんで、ボクがボスの首を」

「お願いだから聞いて~? でな、こう、アクア・ネビュラで尻をガツン、だ」

「そ、それは作戦なんでしょうか……? 腹案を持っていた方が良いと思うんですが」

「じゃあ、無理そうだったら各自ガツン、で。あ、トドメは刺さないでね! それだけはマジで、俺にください」


 土下座する勢いで頭を下げる。

 読んで字の如く、死活問題なんだ。


「そんじゃまあ、行くか、ボス戦! 肩組もう、肩。気合い入れようぜ」

「ええー、センパイ、絶対やらしい目的じゃないっすか」

「お前ちょいちょい俺の印象下げようとしてない? じゃあわかったよ、俺とお前の間にウンディーネが入ればいいだろ。ウンディーネ!」

「ええ……私もあなたと肩組むの嫌なんだけど」


 頻繁に体内にまで入っておいてそれ言う?

 なんなら俺のアレな体液と交ざっちゃったりしてるんだからねキミ。

 真琴がフォローしてくれるが、陽花は相変わらずよくわからん事を宣うし、ウンディーネは本気で嫌そうだ。

 え、俺ってもしかして、女子ズから嫌われてるの?

 ……結局。


「よーし、絶対勝つっすよ! せーのっ」

「「「おおーっ!!」」」


 ダンッ、と氷の床に3人の足音。

 それってサッカーとかでやるやつだよね。うん、俺は一度もやった事ないけどね。

 ちなみに俺も、輪の外で同じ動作をしていた。

 控えめな「おー」が、果たして彼女達の耳に入ったかは定かではない。


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