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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
2章
26/112

2-8 大丈夫。当てずっぽうの攻略だよ

 もう、同じダンジョンを何周しただろうか。


「はあーっ……」

「ふうーっ……」


 俺と陽花は冷たい床に腰を下ろし、長い息を吐いていた。

 あの体力馬鹿の陽花ですら疲れてしまうくらいだ。たぶん、気疲れの方が大きいんだろうが。

 俺達がこうしてヘタれているのには理由がある。

 どれだけ先へ進んでも、同じ構造のダンジョン、同じモンスターと、ベヒモスの部屋が続くのだ。

 もう10体は軽く超えたはずだが、数えるのをやめたくなる程度にはベヒモスを倒した。

 まるでコピペしたように同じ道、同じ敵、同じ部屋。そして先に進むと、また同じ構造のダンジョン。

 こんなものが続けば、ただでさえ単調な内装のダンジョンではより疲労が増してしまうというものだ。


「2人とも、大丈夫ですか?」


 真琴が心配そうに覗き込んでくる。

 ペットボトルに入れた水が凍りそうなくらい冷たい。それをゆっくり口の中で舐めてから喉の奥に流し込む。


「マコは元気っすね……。ステータスのおかげっすか?」

「私は沢山攻略して慣れてるし、元から運動も得意だから。曽良さんは大丈夫ですか?」

「あ、ああ……。余裕だぜ……」


 主に戦ってたのは陽花達だが、俺も数体はベヒモスを倒したし、モンスター退治にも関わっている。

 あと何より、2人に比べて圧倒的にスタミナがない。まだ若者なんだけどなあ、俺。

 余裕とか言ってるけど全然余裕がない。さっさと帰って寝てしまいたい気分だ。

 が、そういうわけにもいかない。今は1時間ですら惜しいのだ。


「むやみに進んでも意味のないダンジョン……。何か仕掛けがある、と考えるべきでしょうが」

「けど、さっきから調べても、影も見えねーよなそんなもん。案外、この床をぶち割ったら隠し部屋に行けたりするんじゃないか」

「それっすよ! うおおおお!!」


 床をバットでガツガツと殴り始める陽花を止める元気もなく眺める。


「ウンディーネ、何か思い当たらないのか。こう、ダンジョンの神話的なもん」

「そんな雑な聞き方しないでよ。ないわよ、そんなもの……」

「ほら、デュラ……デュランドラ? あれと、冷蔵庫に関係してるものとか」

「冷蔵庫なんて私達は知らないわよ……」


 まあ、そんなもんか。

 しばらく床を叩いて飽きたのか、陽花がバットを放り出して俺の隣に座った。

 残念ながら、床はぶち破れなかったらしい。


「頑張ったな」

「むー……」


 むすっと頬を膨らませる陽花。一所懸命に叩いていた場所は、わずかに傷が付いただけで、続けたところで砕けるとは思えない。

 刻一刻と寿命が減っていく焦燥感。

 さっさとこんなダンジョンは見切りを付けてしまうのが正しいのかもしれない。ただ、今後の生活に思いきり差し障りがあるのも、そうはできない理由の一つだ。

 こんな場所で座り込んでいても尻が冷えるだけで無意味だが、俺も陽花も気疲れが勝ってしまい、どうにも立ち上がる気力が沸かなかった。


「いっそ、100匹くらい倒したらクリアできるんすかねー」

「かもな。俺はやれる気がしない」

「ボクも結構しんどいっす」


 ベヒモスの事は、陽花はいともたやすくボコボコにしてしまえるが、俺が1人で戦えば苦戦は必至の相手なのだ。

 そんな強さの相手に、実質的に2人で立ち向かうのは疲労も溜まるはずだ。

 申し訳ないが、俺も自分自身の弱さに、むやみに前に出る事ができない焦りともどかしさは覚えていた。

 ここに来るまでのハズレの道は全て潰したし、3人で壁や床を叩きながら進んできたのだ。

 それ以外に手がかりなんてなかった。


「もう一度行ってみますか、ベヒモスの部屋に」

「あー……そうだな。ここでまごついてても、なんにもならねえか」


 よたよたと立ち上がり、3人でもう慣れた道順を辿ってベヒモスの小部屋まで行く。

 厚い氷でできた扉に手を掛ける。

 何かあるはずだ。何か、次に進むための手がかり……。


「……まあ、代わり映えしないわな、普通に」

「そっすね……」

「とりあえず、次は私が倒してみます」


 真琴が警棒を手に歩みを進める。

 それに気が付いたベヒモスが振り返る仕草まで、見飽きた映画のワンシーンのようだ。違いは、誰が挑むか、だ。


「いっそお前がやってみっか、ウンディーネ」

「私が……?」

「この中で戦ってないの、お前だけだし」


 もちろん意味なんてない。ゲームなら、フラグを総ざらいしているような泥臭い攻略法だ。

 でももう、正直言ってお手上げだった。

 ウンディーネを促し、ベヒモスの前に進ませる。

 真琴には下がってもらった。

 すると不思議な事に、少しずつ、ウンディーネとベヒモスの距離が近付いてきた。

 普通ならとっくに水弾を撃たれているはずなのに、今回はそれがない。


「おい、これ、行けるんじゃねえ?」

「まさか、そんな……」

「ウンディーネさん! ぶっ飛ばすっすよ!」

「し、しないわよ、そんな事。できないし」


 苦笑いを返しつつ、ウンディーネは徐々にベヒモスに近付いてゆく。

 やがて、手を伸ばせば届く距離にまで肉薄した。


「ここからどうすればいいの?」

「あー……。使うか、これ」


 俺の手にあったアクア・ネビュラが、ウンディーネの手に一瞬で移動した。

 そういえばあいつが武器を振るうところをまともに見るのは初だ。そもそもアクア・ネビュラを持ってたのだって、初めて会った時に俺の頭をシバいた時くらいじゃないか?

 アクア・ネビュラを構えたウンディーネが、ベヒモスを見る。

 その巨体は未だに動こうとしない。静かにウンディーネを、両の眼らしき宝石で見つめていた。


「ごめんなさい。どうしても、あなたを倒さないと先に進めないの」


 謝罪の言葉と共に、アクア・ネビュラを振り下ろそうとした、その時であった。


「……あ、あああるじじ……」


 そんなうめき声が、小部屋に響いた。


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