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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
2章
21/112

2-3 ステータス更新その2

 まだそこそこに人の残る市役所へ行き、更新用端末の列に並ぶ。

 さっきまでダンジョンにいたのか、薄汚れた格好の人が多かった。

 実はステータス更新なんてわざわざしなくても、上がったレベルの恩恵はダンジョン内で受ける事ができる。

 なんなら適当に進んでいるうちに、気が付けば深層を攻略できる力が付く事だってあるらしい。

 だが、更新しないとランクが上がる事もない。ランクが上がらないと、高難易度のダンジョンにも入れない。

 それの何が問題なのかと言っても、大多数の、とりあえず小遣い稼ぎができればいい層にとっては問題にはならない。

 が、もしもさらなるお宝を手に入れたいなら、あるいはダンジョンを消したい理由があるのなら……。

 マメにステータス更新するようなエクスプローラーは、見栄のためにやってるんじゃなければ大抵はダンジョン攻略が目的だ。

 もちろん自分の家にダンジョンが現れれば話は別。そのダンジョンのランクを決めるのは所有者だからだ。


「センパイはランク上がったら強いダンジョンも行くんすか?」

「んー、どうだろうな。そういうダンジョンは攻略も時間がかかるだろ? 結局、小規模なダンジョンを細々と攻略すんのがコスパ的にいいんじゃないか、と思うんだ」

「うへー、安定思考。ジジ臭いっすよ。もっと若者っぽくヒカリヤシアターとか行きましょーよ」

「お前ん中の若者像どうなってんだよ。ていうか、お前の方が若者だろ、なに諭してんだ……。あそこ、国内屈指の最難関ダンジョンとかだろ? 最低限入れる程度にランクが上がっても、俺達だけじゃ瞬殺されるわ」


 ヒカリヤシアターは渋谷にある劇場ホールの名前だ。

 元は普通に営業していたんだが、8年前、ダンジョン化してしまったらしい。以来、国内でも最高難易度に指定される、誰も攻略できていないダンジョンになっている。

 ちなみに入場のためのランクはB。それだけ聞くと楽勝に思えるが、あくまで一階層だけの話で、そこから先は未知の領域だとかなんとか。

 俺がネプテューヌ使って挑んでも、たぶん即座に死ぬ。なんなら数秒で百回は死ぬ。

 そんな事を話していると俺の番が来た。

 端末にカードを入れ、手を置く。1分ほど待つと、白いカードが排出された。


■錦曽良

Level:8  Rank:D

STR:3  DEX:25 AGI:9


 んんっ!?


「な、なんだこの数値!?」


 思わずカードを持って叫んでしまう。

 そんなに良かったのか、と覗き込んで来た陽花ですら「うわっ……」と哀れな顔になった。

 やめて、見ないで。レベル25↑の陽花サマは黙っといてよお……!

 早くしろ、という後ろの人達の目に、すごすごと列から退く。

 陽花が更新して戻って来て、なにか言いたげに俺をちらちらと見てきた。

 胸元に隠そうとするカードを奪い取る。


■竜宮陽花

Level:30 Rank:C

STR:220 DEX:125 AGI:200


「お前どっかで人体のリミッター外す訓練とか受けてんの? その道場、俺も通わせて! 頼む!」


 思わず陽花の肩を掴んでぐわんぐわんと揺さぶる。

 この際気のパワーでもチャクラでも霊験あらたかな壷でもなんでも縋りたい。

 なんでこんな、馬鹿みたいな差が付くんだ。ちょっと泣きそう。

 ていうかちょっと待て、確かレベル25の時点で120だとか補正の付いていた陽花が、どうしてたった5レベル上がっただけで200超えのステータスになるんだ。そして反対に、俺は7上がってどれもこれも終わってる数字なんだ。

 陽花の数値の上がり方と、俺の数値の上がり方も全然違う気がする。

 もちろん、RPGの常識に考えれば、キャラクターごとの成長性みたいなものはある。早熟型とか大器晩成型とか。

 俺、大器晩成型かもしれないけど、こんなんじゃ晩成する前に死ぬよ? 教会とかフェニックスの尾とかないからね、この世界。


「せ、センパイは頑張ってるっすよ! ドンマイ!」

「優しさが痛いの! お願いだから頭ポンポンすんのやめて!? キミ、後輩なのに失礼だよお!」


 もう自分自身のキャラも分からないレベルで取り乱していると、ふと、視界の隅に見覚えのある影が見えた。

 ショートカットの金髪に、すらっと引き締まった長身。端正な顔立ちは、泥や血で汚れている。

 全身の服がボロボロなのにやけに様になっているその人物は、以前エクスプローラーの資格を取る時に出会った王子様こと穂浪真琴だった。


「真琴さん」

「? ああ、曽良さん。こんにちは。お隣の方は……」

「あー、こいつは後輩です。前に話しませんでしたっけ」

「……ちっす」


 声、小っさー。

 どうしたんだよ、お前そんな人見知りするキャラじゃないだろ。

 いつも初対面の相手にも「ひーちゃんかぐーちゃんかミカポンって呼んでください!」って迫るだろ。なんだミカポンって。自分のアイデンティティに一文字くらい合わせろ。

 俺の後ろに隠れてむすっとしている陽花を見て、なにか察したように真琴が「ああ」と呟いた。

 そして俺に顔を寄せ、耳打ちしてくる。

 うわ、良い匂い。


「下世話だけれど……私は彼女さんとは相性が悪いみたいですね」

「彼女じゃねーし。それより、真琴さんもステータスの更新を?」


 確か、お金が欲しくてエクスプローラーになったというある意味で至極真っ当な動機だったはずだ。

 なら、高収入が期待できる高難易度ダンジョンに行くために、マメなステータス更新も理解できる。


「見たとこ、かなり派手に戦っているみたいだけど……。もしかして、今日もダンジョンに?」

「ええ。一つ、Cランクのダンジョンを攻略したところです」

「え、すげえ! 仲間はどこに……」

「あいにくと1人です」


 すげえな。

 やっぱできる人はできちゃうんだな、ソロ攻略。

 しかも俺と同期なのにもうCランクか。

 真琴の番が来る。ステータスを更新した真琴はしかし、苦い顔になった。

 そんなにまずいのだろうか。悪いと思いながらも、横からカードを覗く。


■穂浪真琴

Level:50 Rank:B

STR:430 DEX:200 AGI:550


 俺と逆の意味で、なんだこの数値!?

 レベル50って、この一ヶ月足らずで!?

 しかもランクはB。ステータスの数値もどれも高い。

 唯一DEXだけは低いが、それも俺にとっては「東大の中では馬鹿」くらいに見える。

 指先ひとつで首を飛ばされそうだ。


「恥ずかしいです」

「いやいやいやいや! 謙遜もそこまで来ると胸を抉る凶器だよ。俺なんか、ほら」


 生き恥ステータスカードを見せると、真琴もどこか哀れんだような顔になった。

 気を使ったのが見え見えな笑み、やめておくれ。


「曽良さんは、自分の家にダンジョンがあるんじゃ? 確か、トイレがダンジョンになったとか」

「あー、まあ……。ただそのダンジョンは、モンスターがいないし、訳あって攻略もできなくて」

「そう、なんですか」


 あれ?

 なんか、がっかりしたような声色だぞ。

 ああそうか、自宅にダンジョンが出現するって、普通の人からすれば羨ましいよな。中の財宝は取り放題だし、持ち家なら保険が下りる可能性だってある。

 が、俺は賃貸。おまけに現れたダンジョンは無財。中はモンスターもいなくて閑散で散々なダンジョンに思わず無念のバンザイ。

 何言ってんだか。もう分かんなくなってきたよ。


「トイレのダンジョン以外にも、つい最近冷蔵庫までダンジョン化しちゃってもう散々なんですよね」

「……冷蔵庫が?」

「ああ。まったくこの季節にやめてほしいぜ。さっきも、こいつと潜ってて……あれっ、陽花? おい! どこ行っ……オチョニャンは買わないから置いてきなさい! ったく……」


 目を離すとすぐこれだ。

 ステータスが高いだけの3歳児め。


「とにかくそんな感じで、いろいろとダンジョンの災難が」

「へえ……それは、ちょっと興味がありますね」

「ん?」


 真琴がにっこりと微笑んで、俺の手を取った。

 手、柔らか~。もう目覚めてもいいかな、これ。


「是非、攻略をお供させていただけませんか? あなたも、攻略しなきゃならない理由、あるんでしょう?」


 そりゃ高レベルのエクスプローラーに付いて来てもらえるんなら願ったり叶ったりなんだが。

 なんか、やたら手に力が入ってる気がするのは、俺の錯覚なんだろうか。


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