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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
1章
2/112

1-2 いきなりボス戦ですか!?

『聞こえる?』


 頭の中にウンディーネの声が響く。

 水中に反響するように、ゴボゴボとしてやや聞き取りづらい。

 彼女は今、俺の体の中にいる。口を開けるよう言われて従った瞬間、体をねじ込まれたのだ。

 いやもう、比喩とかじゃなくマジでねじ込まれた。しかも腕じゃなく、頭からだ。

 消防車のホースでそのまま水を飲まされたような感覚は二度と味わいたくない。

 さて、ウンディーネに言われるままやって来たのは、自宅の近くにあるダンジョンの一つだ。

 小さな公園の遊具の中に現れたそれは、全くと言っていいほど危険がないため、管理する自治体に届け出さえすれば資格がなくても入れる。

 ただ、それは一層めの話だ。

 多くのダンジョンの例に漏れず、下層に行くに従って危険度は増すらしい。

 まかり間違っても子供が迷い込んだりしないよう、下層への入り口はしっかり施錠されていた。

 こればかりは、無資格では先に進む許可は下りない。


『さて、既に説明した通り、あなたにはその迷宮の主を倒してもらうわ』

「主って、下層にいるんだよな? この通り施錠されてて進めないんだけど」

『いいえ。おそらく、主は下層にはいない……。この階層で、すぐ近くに強い力を感じるわ』


 おいおい、いきなりボス戦かよ!

 慌てて辺りを見回すも、何かいる気配は感じられない。

 にしてもだよ、いきなりバトル展開は早すぎじゃないか!?

 こっちの武器と言ったら、家で料理に使ってる2,980円の万能包丁だけだぞ。

 もしめちゃくちゃデカいモンスターが出てきたら太刀打ちできる気がしない。


『ッ! 来ます!』

「だから早いって!! ど、どこだ?」

「ひゃいんっ!」


 突然、可愛らしい声が広場の中に反響した。

 足下を見ると、犬がこちらを見上げて座っていた。


「……豆柴……?」


 びっくりするくらい普通に豆柴だ。特に変な部分も見当たらない。

 どこかの迷子犬がうっかり入り込んだのだろうか。

 入り口は扉も何もないし、そうであったとしても驚かないけど、確か普通の動物はダンジョンには近づかないとか聞いたこともある。

 という事は、ダンジョン産のモンスターであるはずなんだけど……。


『気をつけて。それがこの迷宮の主よ』

「はあ〜? いやいや、ないだろそんな。どう見ても愛くるしい子犬じゃんか」

『強い力を感じる……。構えて!』

「ははっ、大袈裟だって。ほーれほれ、よしよーし」

「くぅーん……」


 すり寄ってくる豆柴の顎を指で撫でてやると、豆柴は目を細めて尻尾を振った。

 ああ~、癒やされる。

 俺、犬大好きなんだよ……。アパートは当然飼えないし、豆柴カフェとか入ってみたいけど、男一人だと入りづらいんだよなあ。

 このまま連れて帰りたい……。

 でも、ダンジョンのモンスターって外に出られないんだよな。くそお。


「ほら~、無害だろどう見ても? 絶対その辺から迷い込んできた、普通の犬……」

『避けて!』

「は?」


 胃が強く引っ張られる感覚にたまらず倒れる。


「ぐえっ!?」


 すると、さっきまで俺の頭があった場所を、猛烈な勢いで黒い何かが通過した。

 咄嗟に見上げた俺は、あまりの出来事に驚愕した。


「え……えええええ!? なんっじゃこいつは!?」

『クゥゥゥゥゥゥゥン……』


 やたら低い声。ふしゅーっ、ふしゅーっという熱いものが頭にかかる。

 巨大な豆柴……いや、大豆柴が俺を見下ろしていた。

 しかも相手はただ豆柴がデカくなっただけじゃない。頭が3つもあり、口の中からチロチロと火の粉が漏れている。体色も、タールでも被ったのかと思うくらい黒い。

 そのくせ顔は豆柴のままだし、やたらつぶらな6つの瞳は何かを期待するように俺を見つめている。

 OK、クリア不可だこれ。ていうか素で気持ち悪い!


「ウンディーネさああああん!! 無茶に決まってんでしょうがこんなの!?」

『クゥゥゥゥゥゥゥン……』

「絶対やべえ! 俺のこと手頃なジャーキーかなんかだと思ってるって、マジで!」

『その刃物でなんとかならない?』

「なんとかできるレベルを遥かに超えてんだよ! こんなもん、ひのきのぼうくらい役に立たんわ!」


 ズシン、と足音を響かせ、柴ベロス(俺命名)がにじり寄ってくる。

一撃で殺される自信があるぞ。3日どころか、余命30秒もないんじゃないか!?


『オンッ!!』

「ぶっ……!?」


 突風に飛ばされて転がり、したたかに壁へ後頭部を打ちつけた。

 白黒に点滅する視界。やや遅れて、頭蓋骨が割れるような痛みが走る。

 どろっと生暖かいものが首筋を伝った。

 嘘だろ、吠えただけでこのダメージかよ……!


「ぐああ……! なんだあの、可愛げのねえ吠え声は……!」


 小豆柴が走り寄ってくるのが見える。

 柴ベロスと同じ顔なのにこっちは愛らしい。命がけの戦闘で頭がどうかしたのか、やたら癒されてしまう。

 だが、その考えも、顔に小便を引っ掛けられた事で萎えた。

 こ、この畜生共……!

 やっぱりただのモンスターだこいつ!


『立ちなさい、曽良!!』

「くっ……そ……!」


 壁に手をつきながら立ち上がり、小豆柴に蹴りでも見舞ってやろうかと睨みつけるが、目が合った途端にその気が失せた。

 あれ? なんだ今の。

 確かに犬は好きなんだが、動物愛護の精神とかじゃなく、本当に唐突に何もする気がなくなったのだ。


『それは【倦怠】の効果よ! あなた、その犬の魔法にやられてるわ!』


 倦怠?

 どうもバッドステータスを受けているらしいのだが、小豆柴を見ていると不思議と攻撃の意思を削がれる。

 そうこうしているうちに、柴ベロスがすぐ近くまで来ていた。

 あ、食われる。

 そう思った瞬間、俺は呆気なく頭から丸呑みにされた。


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