1-16 一難去って
未だボスの危険が拭えないダンジョンをウンディーネと共に歩く。どこを通れば帰れるのか、何をすればボスが出てくるのか。そんなもん、何ひとつ分からない。
命懸けの行き当たりばったりだ。全体的に、生き方が雑なんだろうな俺……。
今日の事だけじゃなく、これまでの人生すら反省しながら慎重に道を選んでいく。
分岐路に差し掛かった時は、アクア・ネビュラを立て、倒れた方向に進んだ。
ウンディーネからは尻に蹴りを入れられたが、神器というだけあってなんらかのパワーがあったのか、俺達は無事に出口まで辿り着いた。
石の階段を駆け上がり。2人して7畳間に飛び出し倒れ込み、思いきり息を吐いた。
「「はああ――――…………」」
今回は本気で死ぬかと思った……。
ミノタウロスが前に立っただけで柴ベロスに呑まれた時なんか比じゃない恐怖だったぞ。
あの時はまだ、なんだかんだ相手にギャグっぽさもあったけど、ミノタウロスはあまりに『マジモン』すぎる。燃えてる胃液であっても、ウンディーネに守られてたしな。
コカトリスも大概とはいえ、陽花が横にいた安堵もあったんだと思う。今にして思えば、あいつ超偉大だわ。今度なんか奢ろう。
仮に柴ベロスがリアル寄りな外見だったら泣き喚いてたかもしれない。
やっぱ外見は大事。人もモンスターもそれは同じなんだよ。分かるね。
「ねえ、理解できたでしょう、現実が……」
「ああ。死の恐怖をビンビンに感じたわ……。あんなんどうやって攻略すりゃいいんだ」
「だから、不可能よ。少なくとも今のままでは」
「だよな。あーくそっ! とんだ不良債権拾っちまった。もういっそ、段ボールごと資源ゴミに出すか」
「やめなさいよ」
ダンジョンって何曜日に回収してもらえるんだろう。
しかしホント、とんでもないもん拾っちまったよ。中にお宝も見当たらない、手頃なモンスターがいないからレベルアップもできない、ボスの出る条件は不明で、無駄に広くて攻略も時間がかかる。
空気に圧されてわざわざ持って帰ってきたのに全く使えやしない。
そしてもう一つ重大な問題。この段ボール、そこそこデカい。うちの7畳間にはあまりに邪魔すぎる。
頑丈なちゃぶ台か、蛍光灯替える時の踏み台にでもするか?
「これから地道に強くなればいいじゃない」
「ウンディねもんはサクッとチート能力とか出せないのかよ。労せずレベルアップ的な」
「いい加減シバくわよ。そんな都合のいい能力なんて……」
おや?
突然ウンディーネが黙り込む。
なにかありそうなざわざわ感を出しながら、そっぽを向いてしまった。
あるんですね? 俺が今すぐ強くなる方法が?
じっと見つめる。
青い肌が蒸発しそうなくらい熱い視線を浴びせる。
しつこく視線を送ると、ようやく折れたのか、ウンディーネが長くため息を吐いた。
「聞いて。これはあなたの思うようなものじゃないの」
「へっ、強くなれるんなら悪魔に魂だって売る覚悟だよ」
「うわ……。ねえほんと、そういうの人前ではやめておいた方がいいわよ……」
うるせえ。
◆◇◆◇
閉館ギリギリの市役所。その端末の前に、薄汚れた服を着た人物が立っていた。
その人物……穂浪真琴は、全身に傷を負っていた。
端正な顔を痛みに歪めながら端末に手を当てしばらく待ち、更新されたカードの数字を見てさらに苛立ちを浮かべる。
思ったよりもレベルが上がるのが遅い。目標としているランクまで、まだまだ遠いようだ。
このままでは目的を達成する事ができない。そう考えた真琴は、すぐにスマホでダンジョンの情報ポータルサイトを開いた。
その中の『危険なダンジョン』というページを開く。
そこでは日本各地のダンジョンが星の数で評価付けされており、いくつかはすぐに行ける範囲にも存在していた。
だが、それらには現在、とある一文が追加されている。
――攻略済み。
その記述自体には驚かない。
何故なら、それらを攻略したのは他ならない真琴自身だからだ。
もっと手強くてもいい、手っ取り早く稼げるダンジョンを。
検索するも、様々な制約から、それらは手が届かないのが現実であった。
肩を落とし、とぼとぼと帰途につく。
そんな時、コメントページで気になる文章を見つけた。
>今日、バイト先で段ボールの中にダンジョンが現れたんだけど、なんか第一発見者が持って帰ったらしい
>裏山
>稼ぎホーダイktkr
>そうか、第一発見者も権利発生すんだっけ
>それ、元は何が入ってる箱だったん?
>わからんけどそれなりに高いもんだったはず
>裏山死す
世の中、ラッキーな人間もいるものだ、と真琴は素直に羨ましく感じていた。
ダンジョンを保有できれば、好きな時に好きなだけ稼ぐ事だって可能だ。それも、価値のある物が元になっているのなら、ダンジョンで採れる品の数々も高価値な傾向がある。
だが、ダンジョンが自分の所有する物件に現れる事などそうそう無い。
もし手に入れられるなら、時間や経費の一切合切が無視できて、目標に届くまでずっと狩りができるはずだ。
「自分の家に、ダンジョン……」
はたと足を止め、最近会った男の事を思い出す。
確か彼は、自宅の一部がダンジョンになった、と言っていたはずだ。
そして住んでいる場所も、徒歩で行ける範囲であった。
早速連絡を取ろうとして、スマホの充電が切れている事に気が付いた。
このところ、そんな事も気にしないくらいダンジョン攻略に腐心していたせいだ。今の格好を省みると、少々危ない人間にも見える。
せめて服くらい、まともなものにしてから会いに行くべきだろう。
ずきずきと痛む体を引きずりながら、真琴はとっぷり日の暮れた街を歩いて行った。




