1-15 勝てるかこんなもん!!
一瞬の呆けから立ち直り、体が勝手に動く。
横に転がると、さっきまで立っていた場所が砕けた。床の破片が腹に直撃し、壁まで転がされる。
「げふっ!?」
「曽良!」
胃の中のものを吐いていると、荒い鼻息が近づいてきた。
ちょっと待て、いきなり規格外すぎないか!?
俺、今まで豆柴とか肉まんを相手にしてきたってのに、こんなもんギャグじゃ済まされないだろ!
いいとこ尻尾が蛇になった鶏だぞ。それも、ほとんど後輩が無力化させるお膳立てがあったってのに……!
嘆いてても敵は俺の事なんて待っちゃくれない。ミノタウロスは横薙ぎに斧を振る。そのままなら首と胴は泣き別れ……どころか、消し飛ばされるコースだ。
動けないでいると、ガキンッと音がして斧が逸れた。
頭を抱えて伏せるのと同時に頭上が爆発したような音を立てる。ドカドカと落ちてくる破片が頭に当たるが、そんな事気にしてられない。
どうやらウンディーネが水のカッターを飛ばして、斧の軌道を逸らしてくれたらしい。
斧が壁にめり込んで抜けなくなっている間に這って逃げる。
「こっち!」
ミノタウロスが入ってきたドアから通路に飛び出る。
ウンディーネと共に、代わり映えのしない通路を走った。だが、どこへ向かえばいいのか皆目見当も付かない。
くっそ、途中に目印くらい付けてくりゃよかった……!
分岐も小部屋の扉も、走りながら直感で選ぶしかない。不思議と小部屋の扉は、開けようとする場所が素直に開いてくれた。
なにか違和感も覚えるが、今はただ逃げるので精一杯だ。
T字の道を右へ曲がろうとすると、ウンディーネにシャツの襟を掴まれ転がされた。
「何すんだよ!?」
「そっちは駄目、主が来てる!」
「くそっ!」
当初俺が行こうとした通路の奥から重い物を引きずる音がして背筋が凍った。
おそらく、離れているつもりでさっきの部屋に近付いていたんだろう。
さっき扉を開けて現れたのを考えると、あいつにはダンジョンの仕組みなんて一切関係なく、しかも俺達の位置を把握して追ってこれるに違いない。
こういう時になんでもいいからチート能力でもあれば切り抜けられるってのに、それに最も近そうなのは隣で必死こいて逃げてるこいつだけだ。
壁に傷をつけるカッターの威力は確かにすごいけど、それだけでなんとかなる気はしない。
息を切らしながら走る。途中の小部屋も立ち止まらずに無視!
もうかれこれ体感で10分は走っている気がするんだが、一向に出口が見えねえ。
しまいに耐えられなくなり、その場にへたり込んでしまった。
ぜえぜえと荒い呼吸で体に酸素を取り込もうともがく。
「何してるの!」
「ま、マジで、立てねえ……。5分休ませて……」
「休んでたら死ぬわよ!? さあ立って! 立ち……えっ……?」
「はぁっ……はっ……どうした……」
「消えた……主の気配が…」
「はあ?」
なんだそりゃ。
また近くに現れたんならまだしも、消えた?
ポンコツセンサーを完全に信じる気にはならないけど、もし本当にいなくなったならこれほど有り難い事はない。
ゲーム的に考えるなら、距離を取ったから、いわゆる範囲外になって消えたんだろうか。ゲームならそういうモンスターはよくいる。一定の場所を離れられないとか、そんな条件付きの敵だ。
それに、その気になれば壁も壊せるだろうミノタウロスは、俺を追いかける時はそういう行動は取らないらしい。
もしそんな事できるんなら、今ごろ居場所の感知能力も使ってまっすぐ迫ってきてたはずだ。
仮にやられてれば完全に詰んでたけど、とにかく、生き残れてよかった……。
壁に手をつき、生まれたての子鹿のような脚で立ち上がる。
久々に全力の運動なんてしたから、体中の細胞がガタついてるような感覚だ。
もしミノタウロスが素早く追ってきてたら、目の前で大の字に寝転がって全て投げ出す自信があるね。
「この迷宮の主も出現の条件があるに違いないわ。でもまずは……あなたの回復をしないと」
「ああ……。でも、どうやって帰る?」
結局、お互い道なんて覚えてるはずもなく、勘で帰る事になった。




