1-13 ダンジョン、拾いました。
デカい段ボールを持って電車を乗り継ぎ、周囲の視線を集めながらアパートまで帰ってきた。
途中騒ぎがあろうが日給のためにバイトはしっかり最後までやったもんだから、体中しんどくて仕方ない。
アパートに着くと、ちょうど出掛けるところだったらしいロドリゴが、ぎょっとした顔で俺を見てきた。
「ソラさん、それナニ?」
「ようロドリゴ。これはあれだよ……実家の仕送りの野菜的な」
「アー、野菜? ソラさんの家、ヤる事ヤってるのネ~」
引きつった笑いを返すしかない。
このアパートにいきなり警察が踏み込んでくるとかやめてくれよな。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい」
Tシャツにデニムパンツのウンディーネが、ペットボトルの観察を続けながら挨拶を返してきた。
当初の聡明な雰囲気はどこへやら、休日の主婦みたいだ。
普通の主婦はたぶん、ろ過装置の観察なんて趣味は持ってないだろうけど。
「何、その箱? お土産?」
「ああ」
ちらっとこちらを一瞥した後、視線をペットボトルに戻すウンディーネ。
「へえ……。たまには気が利くのね」
この世界に居候してるダンジョン産生物の分際で、なんつー態度のデカさだ。
尻にビンタをくれてやりたいが、セクハラだとかなんだとか、罪に問われたらまずいのでやめておく。
そもそも不当に俺の家にダンジョン出してる事を裁けないだろうか。
「とびきりの土産だぞ。ほら」
目の前に箱を置いてやると、ウンディーネは面倒くさそうにのそのそと起き上がって蓋を開けた。
何が出てくると思っていたのか、興味のなさそうな無表情が驚きに変わってゆく。
「……階段?」
「おう。ダンジョンだ」
「はあ――――!? え、なんで? この世界の民は野良の迷宮を拾う文化があるの!?」
「そんなもんあるか。これはかくかくというか、しかじかというか……」
「し、しかもこの迷宮、そこそこ強力な力を感じる……」
それは開ける前に感じられないのかよ……。
こいつのセンサー、やっぱりポンコツなんじゃないのか。
「ねえ、どうするつもり? あなたたぶん、ここに入ったら死ぬわよ」
「えっ!?」
こんな、段ボールに現れたダンジョンがそんな強さなのか?
まさかだろ……。どうせウンちゃんのセンサーの故障に決まってる。
「あなたすごく失礼な事考えているでしょう。間違いないわ。今のあなたの能力値じゃ、おそらく攻略は不可能よ」
「なるほどな。なら、お前が手伝ってくれるっていうのはどうだい」
「……パス1」
「そんなカジュアルに運命共同体の生存率下げないでくれる? でもまあ、死ぬのはごめんだしな……。ほっとくか」
「なんのために拾ってきたのよ」
「押し付けられたんだよ!」
俺だってこんなもん、必要がなきゃ拾ってこなかったさ。一体、誰が好き好んでダンジョンなんて家に置きたがるか。
捨て犬ならまだしも、どうせ中に住んでるのは可愛げのない生物だってのに。
じとっとした目でウンディーネを睨んでいると、相手もガンを付け返してきた。
感じ悪っ。俺が小便かけたせいで性格まで歪んだんだろうかねこいつは。
「んじゃとりあえず、様子見だけするぞ。攻略はそこから考える」
「私、わざわざ死体を拾いに行ったりはしないから」
「そうなる前に帰るっての! ていうかお前も行くの!」
俺が手を引くと、ウンディーネはあからさまに嫌がった。
なんでだよ、死の恐怖とか無縁だろお前は。
むしろ俺が死なないようサポートしてくれよ。
「……もうすぐ通販が来るのよ」
「は!? おまっ……また俺の金で、何買ったんだ!」
「アクアリウム用の水槽とろ過装置……」
「バケツでも眺めてろ!」
数十分後、やってきた商品は未開封のまま返品させ、今度こそ段ボールのダンジョンへ突入した。




