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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
1章
12/112

1-12 マスキュラーはかく語りき

1000PVありがとうございます!

また、評価&ブクマしてくださった方々、励みになります。

 コカトリスを倒してから1週間。

 バイトしたり、バイトしたり、たまに陽花と遊んだり、またバイトしたり……そんな平和な日常が過ぎていた。

 その間はダンジョンのダの字もない生活。命が懸かってるなんてうっかり忘れちゃうね。

 夏休みの課題って、時間が1ヶ月半もあると思うと最初は全く手をつける気が起こらなかったりするけど、まさに今がそれ。

 2ヶ月も寿命あんなら、ちょっとくらい休んでもいいんじゃね? と思った俺は、この際だから稼げる時に稼いでおこうとバイトに勤しんでいた。

 で、今はこうして倉庫整理をしてるってわけ。


「あっちい…」


 わずかな休憩時間に外に出て、日陰に入って涼む。

 まだ5月だというのに倉庫内はやたらと暑い。

 季節的には春だろうに、陽気って言葉に甘えすぎだ。暑さなんて夏の領分なんだから、少しは弁えてくれ。

 ツナギの色が変わるくらい汗だくで、全身不快感がすごい。ただ、安全上の問題だとかなんだとかで、上をはだけたり半袖になったりはできない。

 隙間がもったいなくて入れたバイトだけど、ちょっと後悔してる。

 せめてウンディーネがいれば暑さにも耐性が付きそうなんだけど、生憎、奴は家でろ過装置の鑑賞に忙しい。

 ……何言ってんだって? ろ過だよ、水のろ過装置。ペットボトルで作れるやつ。

 あれでひたすら自分の泉の水をろ過するのを見て楽しんでるんだ。

 何が楽しいのかは本人に聞いてほしい。

 そうしているうちに休憩が終わった。体を反り、バキバキと背中を鳴らして気合を入れる。

 あと半分頑張れば日当が手に入る。

 ダンジョンに潜って稼げばいいじゃんという意見もあるだろうが、やはり人間、堅実が一番なんだよ。

 これについては他人と争って命がけでお宝探すのが面倒だという説もあるな。


「あ、なんだこの積み方。デカいもん上に置くなよな……ったく、不安定で危な……なんだこれ」


 俺の目に留まったのはかなり大きめの箱だ。側面には35キロという荷物の重量が書いたラベルが貼ってある。

 その割に小さい箱の上に置かれてたもんだから、あぶなかっしくてしょうがない。

 そんな箱を、腰をやらないよう警戒して持ち上げたのだが、あまりに軽くて拍子抜けしてしまった。


「錦くん、どうかした? 中のもの壊したら買い取りだからね」


 俺が箱を持って固まってる事でトラブルが起こったと思ったのだろう、現場リーダーが脅しを含んだ声をかけてきた。

 何故か半身を捻って腹筋の前で手を組んでいる。いろんな意味でデカい。


「いや、ちょっとこれ……やけに軽くて」

「ほう……それは、筋肉自慢かい?」


 リーダーのこめかみがピクッと動く。

 この人、腕が俺の太ももくらいあるんだけど、どうも他人の筋肉に変な対抗心持ってそうなんだよな……。

 あと話す時にちょいちょいポージングしてるし。何故今、肩の隆起を強調するんだ。


「貸してごらん」


 今度は背中を向けて両手を挙げる。もういいって。鬼神宿ってるよ。

 普通に前を向いてもらい、箱を手渡した。すると突然、何を思ったのかリーダーがその箱を振り始めた。


「ちょっ!? それトレーニング用のウェイトじゃないですって!」

「あはは、何を言ってるのかな君は。いいかい? トレーニングは嘘をつかない。常に真実が結果として出るんだよ」


 なんだその肥大化した筋肉思想は。脳の栄養が上腕筋に取られてんのか。


「しかし妙だね。このウェイ……箱から重さを感じないよ。僕がインテリジェント・バイセップスと呼ばれてる事を除いても、あまりにもね」


 とてもそんな知的な筋肉には見えないが、ともかくリーダーも感じたように、ラベルと中身に乖離があるらしい。

 こうなるとちょっと問題だ。梱包を間違ってる可能性がある。

 とはいえ俺達にどうのこうのする権利はないので、ここは管理者に報告を……。


「フンッ」


 ぐしゃ。

 リーダーの力任せのベアハッグにより、段ボールがひしゃげた。


「おおおおいっ!! 何やってんだあんた!?」

「しかしこのウェイトが」

「ウェイトじゃないんだよ! あーあーあー、これ、相当怒られ……えっ?」


 俺もリーダーも、ぺしゃんこになったはずの箱を見て固まった。

 目の前の出来事が信じられない。

 まるで映像を逆再生したように、段ボールが元に戻ってゆく。

 見る見るうちに、傷一つない元の外見に戻ってしまった。


「……形状記憶合金……聞いた事があるよ」

「その伝聞は絶対間違ってるから忘れてください」


 こんな現象を起こせるもの、俺の記憶では一つしかない。

 穴を掘ろうが、周辺ごと爆破しようが、外部からの破壊はどんな手段を用いても不可能な、変異型特殊建造物……。

 すなわちダンジョンが、この段ボールに出現したのだ。


◆◇◆◇


 然るべき機関に通報すると、すぐに専門家だという人が来てくれた。

 俺とリーダーはというと、関係者が勢揃いして賑わう倉庫から連れ出され、別室で聴取を受けていた。

 目の前にはスーツを着た2人。片方は中年の男、もう片方は俺と同い年くらいの女だ。

 もらった名刺によると、男の方は片桐という市役所の職員で、女の方は長谷川という研究員らしい。


「それにしても、お仕事中に災難でしたね。出現に巻き込まれなかったのが不幸中の幸いですよ」


 と、片桐。

 厳めしい顔の割には穏やかな声をしている。

 がっちりとした体つきはそれだけで威圧感があるのだが、立ち居振る舞いは物静かで、むしろこっちの方が隣に座るデカいのよりインテリジェンスを感じるよ。


「えひゃひゃ、ここが10年後の世界という可能性も否定できませんけどねー」


 と、長谷川。

 何故かにこやかだが、全く笑えないからなそれ。

 よれたスーツにボサボサの髪。世間一般の研究員に対する偏見を集めたような人物だ。


「ひとまず先ほどまでのお話で状況は分かりました。破壊を試みて失敗した事は……この際ヒミツにしておきましょうか」


 片桐がいたずらげにウインクした。

 顔怖いくせに可愛い……。思わずおっさんにときめきそうになるじゃないか。

 で、破壊を試みた本人はさっきから自分の筋肉自慢に夢中だ。

 長谷川もにこにこしながら相槌を打っている。

 うん、この2人はなんか、放っておいてもいいや。


「さて、本来であれば新たに出現したダンジョンの管理権は建造物の……この場合は厳密には違いますが、とにかく所有者のものになります。しかし、荷物の所有者がその権利を放棄すると仰ってまして」

「はあ」


 自分のダンジョンを持つのはそう珍しい話じゃない。

 家がまるごとダンジョンになってしまった人もいるくらいだし。

 その場合、いわゆる『焼け太り』のように、中から採れる諸々のお宝でさらに豪華な家が買えたりもする。場合によっちゃ保険も下りるらしい。


「所有者が放棄した次に権利を得るのが、あなた方、第一発見者なのです」


 細かい法なんて調べもしなかったので初耳だ。

 見つけたものは責任とりなさいよという事らしい。なんで俺達が……。

 まあここは、インテリなんちゃらのリーダーに任せればいいか。

 ご自慢の筋肉でダンジョンなんてあっという間に潰せるだろう。


「錦くん、確か先に段ボールに触ったよねえ?」


 うおい! 小学生の罪の逃がれ方かよ!

 さっと目を逸らすナントカマッスル。頼むからこっちを向いて対話してくれ。


「じゃーキミがダンジョンマスターだ! あっひゃっひゃっ」


 美人なのに笑い方の汚い長谷川と、雄弁な三角筋で拒否を意思を示すリーダー。

 俺は舌が絡まりつつも、権利放棄を訴えようとした。

 が、ふと思い立つ。

 いつでも自由にできるダンジョンがあった方が、便利じゃね? ワンチャン、中でお宝も手に入るかもしれないんだし。

 いやいや、とはいえダンジョンをこれ以上家に置くのもなあ。トイレの件も完全に解決してないのに。

 あ、大家への連絡もすっかり後回しにしてた。やだなあ、ねちっこいんだよあの人……。


「まーまー、家に収納が増えたと思えばいーじゃない。女の子も連れ込み放題だよ?」


 くっそ馴れ馴れしいなこの人。会って1時間経ってないだろ、まだ。

 しかも曲がりなりにもダンジョン相手に、なんて楽観視かましてるんだ。

 段ボールも無駄にデカいし、7畳の部屋にはいささか厳しいぜ。


「じゃあ錦くんが持って帰るという事で」

「く、勝手に……。分かりましたよ、じゃあ俺が持って帰りますけど……」

「その辺りに捨てたりしないでくださいね。不法投棄になっちゃいますんで」


 いっそあの元ダンジョンのコンビニ前にでも置いておけば、欲深な誰かが持って帰るんじゃないか。

 そんな俺の考えを見透かすように、片桐はちくっと釘を刺してきた。

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