表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
109/112

5-44 ただいま

 数秒の無重力感の後、何かに引っ張られるように体が落下を始める。

 下はどうなっているんだろうか。見てみたい好奇心もあるっちゃあるけど、確実な死の気配の前にはそれも萎んだ。

 この距離では陽花も助けに来れないだろうし、詰みかな……。


『曽良様!』


 不意に頭に響いた声に顔を上げると、高速で飛んでくる巨大な姿が見えた。

 瞬く間に嘴につがえられ、再びの上昇を体で味わう。


「ジズ! お前、落ちてなかったか?」

『ええ。先ほど復帰いたしました。しかし……』


 嘴に咥えられたまま、モンスターの方を見る。

 ボロボロと崩れていく体からは、もうさっきまでのプレッシャーは感じられない。

 俺達は、勝ったのだ。


『既に戦いは終わっておりましたか。面目次第もございません』

「気にすんな。お前らがいたから勝てたんだよ」

『は、有り難きお言葉……!』

「うし、陽花達の所に戻ってくれ」


 そう命じると、ジズは大きく旋回し、2人の前へ戻った。

 地面に降り立ち、俺を下ろすと、ジズ達3体は天に向かって吠えた。

粒子となって消えていった。その威容が粒子となって消えていく。


「ありがとな」


 別に、家に戻ってから言えばいいんだが、なんとなく今きちんと言っておくべきだと思ったのだ。

 崩れて土塊に戻っていくモンスターを眺めていると、陽花がぽつりと呟いた。


「消えないっすね、ダンジョン」

「……あ、マジだ!? じゃあ、まだ終わってないってのか?」

「このモンスターはボスじゃなかった、のでしょうか……」


 俺達の間に緊張感が漂う。

 やがて完全に崩壊したモンスターの亡骸から、もはや懐かしのあいつが這い出てきた。


「ゲッ……はっ……ぐ、ぬぅ……!」

「「ひっ」」


 おっさんが苦しそうに喘ぐ姿を認めた2人が慌てて踵を返そうとするので引き止める。


「待て待て、お前らそろそろ耐性付けてくれよ……。ほら、もう怖い所は崩れて見えなくなってるから、な? 陽花も、指の隙間からチラ見してないで、見て大丈夫だから」

「ホントっすか? 信じるっすよ?」


 恐る恐るおっさんを見た2人は、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 既におっさんの体は、下半分がボロボロと崩れている。

 さすがにもう、反撃はしてこないだろう。

 ネプテューヌは解かずにおっさんの前へ立つ。


「錦……曽良……ぐはっ……!」


 瞬間、おっさんの顔が不自然に広がったかと思うと、口から大きな物が吐き出された。

 さっき呑み込まれていた、透き通る青い髪の少女だ。

 一応脈を見てみるが、何も感じられない。

 が、呼吸はしているらしく、苦しそうに顔は歪んでいるものの規則的に胸が上下していた。


「ふん……俺の、敗北、か」

「ああ。勝ったのは俺達だ。ダンジョンごと消えな」

「それは、できんな」

「何でだよ」

「……何も知らんのか? そうか、俺が迷宮

の一部となったから、知れただけの事か……。教えておいてやろう。迷宮は、主の死でのみ崩壊する」


 こちらを見上げているくせに何故か上からな態度に苛立つ。


「何を今更な事をドヤ顔で語ってんだよ。どうせ、その傷ならあんたもう死ぬだろ。放っておけばダンジョンも消える」

「くく……ははは! 残念だが、期待には添えんな」

「意味がわからん。もう帰るぞ俺達」

「俺はこの迷宮の主ではない」


 その言葉で、立ち去ろうとしていた俺の動きが止まった。


「疑うのか? なら、試しに俺の首を撥ねろ」

「……ボスはどこだ」

「これはまた、おかしな事を聞く。目の前に転がっているだろう?」


 この場にいる人物。

 俺とおっさんと、青髪の少女。

 おっさんがあくまで自分はボスではないと言い張るのなら、答えは一択しかない。


「さあ、無抵抗なうちに首を撥ねろ。お前の膂力なら指先でも縊り殺せるだろう。頭を踏み潰してもいい、この石床を穿つ脚力があるのだからな」

「うるせえよ!!」

「くっくっ……おっと、もう、時間のようだ……ああ、生命の泉が見えるよ……ラティナ様……俺は…………」


 それだけ呟いて、おっさんは事切れ、そして塵になっていった。

 後に残されたのは、無言の俺と、眠っている少女だけだ。

 アクア・ネビュラを握り、刃を少女の首筋に立てる。

 ほんの少し押し込むだけで、俺の超パワーが首と胴を泣き別れさせるだろう。

 魚を捌くようなもんだ。三枚におろす必要のない分、より簡単かもしれない。

 どうした、やれるだろ。

 どうしたよ、錦曽良……!


 ……駄目だ。


 アクア・ネビュラを取り落とし、俺はその場に崩折れた。

 この子が可哀想だとかじゃない。たとえ相手がおっさんだったとしても、殺す自信がない。

 殺して、何事もなく日常に戻る自信がないのだ。

 たとえボスを倒さなければ、ネプテューヌの反動で俺が死ぬのだとしても。


「センパイ?」


 いつの間にか2人が寄ってきていた。

 陽花がしゃがみ込み、俺の顔を覗く。

 その目は心配そうに揺れていた。


「どうしたんすか? おっさん、倒したんすよね。何でダンジョン消えないんすか?」

「……この子が、ボスなんだとよ」

「え……」


 3人で少女を見下ろす。


「……大丈夫ですよ、曽良さん。あなたが苦しむ必要なんてありません。私が、やりますから」

「真琴、駄目だ」

「そうっすよマコ、それにマコがやるとセンパイが……」

「あっ……」

「違う。んなこたどうでもいいんだ。真琴、それから陽花。お前らは駄目だ。絶対にやらせない。この子が何であれ、お前らはやっちゃ駄目だ」

「こんな時に何を……じゃあどうするんですか」


 真琴の縋るような目に、俺は拳を握った。


「……頼みがある」


 2人に向き直り、まっすぐ目を見つめる。


「その、なんだ……。後ろ向いててくれ」


 たったそれだけで、俺が何しようとしてるのか、きちんと理解してくれたらしい。

 ゴネられたらどうしようかとも思ったけどな。

 陽花は変なところで頑固だったりするし、真琴はたぶん、いざとなれば自分がやってのけるだろう。その危うさは過去に、なかった事になってる事実として俺が知っている。

 だから、素直に言う事聞いてくれるのはありがたい。

 少女の首に手を掛ける。

 なんとなく、首を落としたり潰したりするより、こういう方法の方がいい気がした。

 力を籠め、首をへし折るーーその瞬間だった。


『駄目よ、曽良』


 声が響いた。

 すっかり聴き慣れてしまった、あの声が。

 慌てて瓦礫の方へ振り向く。

 だが、そこに人影はない。あったとしても滅茶苦茶に潰れているだろうから、どうしようもないんだけども。

 不意に俺の下から「ううん……」と呻る声が聞こえた。

 見下ろすと、少女が目を開けていた。

 俺が首に掛ける手に、そっと小さな手を重ねる。


「こんな事されたら、『生き返った』意味、なくなっちゃうでしょ」

「え……」

「……ただいま、曽良」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ