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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
105/112

5-40 絶体絶命

 俺の声が天に吸い込まれるように消えた直後、異変が起こった。

 巨大な雲……いや、巨大な『海』が天に現れる。

 いつだったか、冷蔵庫のダンジョンで見た時のような逆さまの、広大で澄んだ天球の海だ。

 その奥から、巨大な影が浮き上がってくる。

 影は3つ。俺はその正体を知っている。ジズ、リヴァイアサン、ベヒモス。頼れる俺のシモベ達だ。

 が、いつもと違う様子に俺は驚愕していた。

 ダンジョンで呼べば、大人1人を楽に掴み上げられそうな程度には巨大化して現れるが、今回はその大きさすら遠く及ばないほどにデカい。

 初めてジズやリヴァイアサンを見た時のような大きさだ。ベヒモスもまた、同じくらいデカくなっている。

 海から這い出てきた3体は咆哮を上げた。ビリビリと空気が震える。


『曽良様、ご無事でしたか』

「ああ。つーかお前らデカくね?」

『どういうわけか、異様に力が漲るのです。おそらく今、我らは最盛期の能力を取り戻しております』

「マジか! じゃあ、あれと戦えるか?」


 床や塔を破壊しながら進むモンスターを指すと、ジズは『御意』と短く呟き、他の2体と共にモンスターの元へ飛んだ。

 モンスターは上空のジズ達に気が付き、ウツボのような口から濁った液体をビームのように吐き出す。

 それを躱したジズが、鋭い爪先でウツボの顔を挟み込み、口を閉じさせた。

 さらにリヴァイアサンが回り込み、モンスターに幾重にも巻き付いて動きを止める。

 ベヒモスは重厚な音を立てながら地面へ降り立ち、分厚い前足でドラゴンのような頭を踏みつけた。

 す、すげえ! 一瞬で無力化しやがった!

 俺もこうしちゃいられない。一気にケリ付けないと。

 尖塔を蹴って飛び、握り締めたアクア・ネビュラをウツボ頭の根本に突き立てる。

 太く分厚い首は、表皮が滑って刃が通りづらい。なんとか切断しようと踏ん張って突き刺すと、モンスターはくぐもった声を上げた。

 よし、ダメージは通るな。このまま一気に……!


『オォォォォォ……!!』

「なっ……」


 ところが、そう簡単にはいかなかった。

 塞がれた口で吼えたかと思うと、モンスターは急に身震いを始めた。

 そして、1本が人間の胴ほどもある指先の触手の先端がバクリと割れ、中から何かがおちる。

 な、何だ? 出産?

 困惑しながらそちらを見ていると、生まれ落ちた物は蠢き、立ち上がった。

 現れたのは土塊でできた人型だ。目はないが、どことなく顔つきやガタイがおっさんを彷彿とさせる。服着てないのもそっくりだ。

 ねっとりした粘液に包まれた全裸の土おっさんの群れ。どんな地獄が顕現したのかと思うくらいだが、放つプレッシャーは凄まじい。

 ジズ達はモンスターを抑えるのに手一杯で、こいつらの相手は俺がしなくちゃならないっぽいが、如何せん数が多すぎる。

 しかも1体1体が明らかに強い。無双ゲームみたく、ワンパンで倒せたりはしなさそうだ。


「くっそ!」


 首からアクア・ネビュラを引き抜き、土塊どもに投擲する。

 高速で放たれた槍は、まるでボートが水を切るように左右に波を起こし、群れを一直線にぶち抜いていく。

 直撃した者だけではなく、余波を受けた土塊もボロボロと崩れるが、かなりの数が立ったままだ。

 もう一投しようとした瞬間、土塊の破片が蠢き、一かたまりになった。

 みるみるうちに塊がおっさんの姿に変わる。再生能力まであんのかよ! 厄介すぎるだろ!

 だが、直撃させれば復活できない者もいるらしく、気休め程度でも数は減った。

 行ける、と確信した俺だったが、すぐに顔を曇らせる事になった。

 土塊の腕がボコボコと変形し、三又の大きな槍になったのだ。

 まるでアクア・ネビュラの再現だ。まさかとは思うけど……!

 その危惧は当たった。

 土塊が振り被り、次々とアクア・ネビュラもどきを投げつけてくる。

 その一投一投が鋭く、速い。

 さすがに俺のような衝撃波が出せるわけじゃないけれど、当たれば大ダメージは免れなさそうだ。

 俺は眼前に迫る物をいくつか躱し、間に合わない物は横面を叩いて強引に弾く。

 くっ、重い……!

 ネプテューヌに変身してなきゃ、とっくに穴だらけにされてたぞ。


「ジズ! このままじゃジリ貧だ! 何かできないか!?」


 鉤爪で首をねじ折ろうとしているジズに叫ぶが、どうもモンスターの対処で手一杯のようだ。

 他の2体も同様に動けそうにない。

 そうしている間にも、土塊どもは手にした武器を投げつけてくる。

 そしてついに、1発が俺の腹に……!


「がっ、はっ……やべえ、もらっちまった……」


 貫通したそれを引き抜くと、すぐに鱗が傷を塞いでくれた。

 が、失った血が戻るわけじゃないらしく、痛みも激しいままだ。本当にただ傷を塞いだだけらしい。

 追撃されたら死ぬと思ったが、それ以上は投げてこなかった。

 体の一部を使ってるっぽいから、あまり消費しすぎると自滅するんだろうか。

 だとすればもう少し、回復する余裕が……!

 ……結論から言うと、その推測は大間違いだった。


『ーーーー!!』

「おいおい、マジか……!」


 土塊どもが全力でこちらへ走ってくる。

 投げなくなったのは単に、俺の足が止まったかららしい。

 絶体絶命だ。嬲り殺される以外の未来が見えない。

 陽花は逃げただろうか……。

 土塊の群れを睨みつけながら、そう考えていた時だった。

 ーーガガガァァァァンッッ!!

 目の前の地面が爆裂し、土塊が塵になっていく。

 雨のような攻撃をすり抜けた奴らは、一直線に飛んできた炎の腕によって薙ぎ払われ消滅した。


「おいおい……逃げろって言ったのに、馬鹿後輩がよ……!」

「なーに言ってんすか、センパイ。そーいうカッコいいの、似合わないっすよ」

「あなたを置いて逃げたりしたら、明日から前を向いて生きられませんから」


 俺を守るように立ちはだかった、2人の頼もしい背中に。

 不覚にもこの時、仮面の下で俺は、涙ぐんでしまっていた。

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