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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
103/112

5-38 シン・変態

 全力の攻撃さえ通用せず、悪夢のような変態に打ちのめされた陽花は、昏倒の淵からようやく回復し、そこがまだ戦場である事を理解して顔を顰めた。

 だが、寝ていられない。

 曽良がたった1人で戦っているのだ。

 弱くても、絶対に折れる事はしない曽良は、逃げたりせずに1人ででも立ち向かう事だろう。

 その予想は当たっており、曽良はボロボロの体で変態男に向かって何やら叫んでいた。

 そして曽良は、武器を手元に呼び出す。

 てっきりそれで特攻を掛けるのかと思い、陽花も横から援護しようと弓甲――ブラン・ウィンドを構える。

 だが、その一矢を放つ前に、曽良は信じられない行動に出た。

 それは、話には聞いていた。自分のユピテールと同じ、身体を極限まで強化する能力だと。

 ただし、その代償は、全ての生命力。

 使えば問答無用で生命力がゼロになり、ダンジョンのボスを倒さない限り確実に命を落とす諸刃の剣。


「使っちゃ駄目、センパイ――――――――ッッ!!」


 陽花の叫びも虚しく、曽良は胸にアクア・ネビュラを突き立てた。


◆◇◆◇


「これは……お前、ちょっと信じられないくらいに良いじゃないか」


 おっさんの称賛が気色悪い。一刻も早く黙らせてやりたい。

 増強された筋肉。腕に生えた鋭利なカッター。鱗状の頑強な鎧のような皮膚。

 そして、俺の怒りの形相を覆い隠すような流線型のマスク。

 日曜朝の変身ヒーローじゃねえぞ。これが俺の切り札、ネプテューヌだ。

 使ったからには必ず死ぬと書いて必死に戦わないと、マジであの世送りが確実な力。

 二度と使うまいと思ってたけど、まさかこんなところで発動させる事になるなんて。

 でも、そのくらいしないとこいつには太刀打ちできない。

 今の俺とこいつの能力差が何十倍か、何百倍かはわからないけれど、それを埋められるくらいには強化されてるはずだ。

 エンジンのように胸の中で暴れる鼓動が、さっさとぶん殴れと叫んでる。

 OK、やってやろうじゃねえの。

 ぐっと腰を低く落とし――地を蹴る!

 一瞬で肉薄し、おっさんの横面に大振りの右フックを叩き込んでやった。

 ガードさえ許さず、おっさんのふざけた兜にヒビが入る。


「ぐおおっ!?」

「らァァァッ!!」


 左のアッパーで追撃するも、さすがにそちらは躱され、触手が頭上から叩き付けられた。

 メキメキと音がする。素の状態でまともに食らってりゃ地面のシミにされてたかもしれない。

 が、今なら踏ん張って耐えられる。

 触手を肘のカッターを振り上げる事で斬り裂き、返す刃でおっさんの上体に深い傷を負わせる。

 同時におっさんのハンマーが下から俺の膝を打つ。途端に、ふわっと身体が浮き上がった。

 畜生、ノームの重力操作能力だ!

 踏ん張りが効かないんじゃ上手く攻撃できない。

 だったら、違う勢いを付ければいい。

 集中し、周辺の水を身体の周りに集める。それを高速で回転させる事で、空中に水流の渦を生み出した。

 渦に乗って俺も回転し、おっさんの背に生えた触手を根こそぎ斬り裂いてやる。


「ぐうっ……! これほどまでとは……!」

「ナメんじゃ、ねえッ!!」


 狙うは首、一撃で決めてやる!!

 だが、


「こちらも本気を出さねばな」

「っ!?」


 おっさんは右腕を上げてカッターの軌道上に差し出し、肘から先を斬り飛ばされた。

 その腕を振って、俺の顔に血を浴びせてくる。

 一瞬視界を塞がれ怯んでしまう。

 顔を背けたその瞬間に、おっさんは思いきり背後へ跳んだ。

 血を拭っておっさんを目で追うと、奥にあるカーテンを引き、中にいた人間を掴んで抱き上げる。

 遠目に見ていた俺は、その人物の顔を見て目を見開いた。

 ウンディーネそっくりだ。いや、ウンディーネを幼くした感じか。

 妹と言われれば思わず信じてしまうかもしれない。まさか、あれが聖女か?


「我らが聖女。殉教の刻です」

「い、や……」


 あからさまに嫌がる少女。

 俺はアクア・ネビュラを投擲して止めようとしたが、投げた槍はわずかに狙いを逸れて玉座に刺さる。

 くそっ、殺り損ねた! こうなりゃ直接ぶん殴って――!


「ぐぁむっ」

「ひっ……」

「なっ!?」


 おっさんの口が、兜ごと大きく開かれ、少女はそのまま一口で飲み込まれてしまった。

 あまりの出来事に開いた口が塞がらない。

 いやいや、聖女なんだろ? お前、神官として崇めてんじゃなかったのかよ。

 ……いや、違うな。確か俺と会った時、あいつ言ってたわ。聖女は真の殉教者だとか、ウンディーネに身を捧げさせるとか。

 でもなんか、話が若干違う気がするぞ。実際に聖女を食ったのはウンディーネじゃなく、おっさんだ。

 そんな事して何に……。

 俺の疑問の答えは、直後に出た。


「……?」


 大気が揺れる。

 いや、違う。実際におっさんを基点に、地面が揺れてるんだ!

 次第にその揺れはまともな人間が立っていられないほどのものとなり、おまけに部屋の天井までヒビが入って崩壊を始めた。

 踵を返した俺は、倒れている真琴を抱え上げ、陽花の腰を掴んで部屋を飛び出す。

 しかし、揺れは城全体に及んでいるようで、廊下も崩れ始めていた。

 仕方ねえ、ぶち破る!

 思いきり跳んで蹴りで天井を突き破り、崩れる城から脱出する。

 空中にいる間に振り返るととんでもない物が見えてまたしてもあんぐりとしてしまう。仮面で顔隠れてるけど、今めっちゃ驚いてるよ俺。

 なにせ城の中から、特撮の怪獣みてえな奴が顔を覗かせていたからだ。


「なんっ……だ、あれ……」

「でっ、けえ~~~~~~~~っす!!」


 陽花の馬鹿みたいな声も、ただ頷くしかない。

 城の中であった巨大鎧兵士なんて目じゃない、城を踏み潰してしまいそうなくらい巨大なモンスターが出現していた。


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