5-37 今日死んだって構わない
「この世界、ファナティア再生の土壌として利用する」
世界を土壌に、だと……随分大きく出やがったなこの露出狂野郎。
イカれた冗談は性癖だけにしとけよ。
――と、言いたい所だけど、声がマジだ。
このおっさん、ナリはふざけてるくせにギャグ時空の住人ってわけじゃないから、やるとなったらマジなんだよ。
「一つ聞かせろ……」
陽花達はピクリとも動かない。俺も助けに行けないレベル。
なんとか時間稼ぎして、体力を回復させないとまずいと考えた俺は、質問でおっさんの動きを止めようとした。
「ファナティアなんて再生して、一体何がしたいんだよ……? 滅んだんなら、何もないし、誰もいないんだろ、そこは……」
世界は、ただ作り直しただけじゃ全くの別物だ。
そこに知ってる人がいて、知ってる物があって、初めてちゃんと『再生した』って言えるはずなんだ。
でも、命は戻らない。
たとえウンディーネ達全員の力を使ったとしても、同じ命を戻せるはずがない。
それは、水晶宮へ行った俺がよく知っている。死んだ命は戻らない。それが絶対のルールなんだと。
なのに、このおっさんは、どうしてこんな夢見がちな事言ってんだ。
再生なんて、滅んだ時点で無理なのに。
「空っぽの入れ物だけ作り直したって、何の意味もねえじゃねえか。そのためにこんな事して、ウンディーネも……何がしたいんだ、お前」
「知らずとも良い。全ては我らが母精のため」
「ウンディーネの事か? お前が殺したくせによ」
「違うな。あれはもう、力のないモノでしかない」
ウンディーネをモノ呼ばわりされた瞬間、胸の奥からマグマのような怒りが噴き出てきた。
だが、感情に体が追い付かない。
どうしたって足に力が入らない。頭が締め付けられるように痛いし視界が狭い。
さっきから左の脇腹辺りが熱いし、上手く腕も上がらない。
お手上げだ。腕上がんねーけど。
けど、なんとか1発だけでも、こいつをぶん殴りたい。
鼻か歯をへし折ってやりたい。
地面に転がる、ウンディーネの亡骸に視線を移す。
あんなにうるさかったくせにまあ、静かになっちまってよ。
でも、お前みたいに騒がしい奴がほんの一時期でも家にいて、なんとなく楽しかったんだよ俺は。
お前がどう思ってたとか知らんし、トイレも自由に行けなくてはた迷惑な部分も多々あったけど、俺は楽しかった。
またあの日々に戻れるんなら……ほんの1秒でも戻れるってんなら……!
「今日死んだって、構わねえ」
「ふん……」
おっさんは、俺が何をするのかにさえ興味がなさそうだ。浸るように天を見上げている。
アクア・ネビュラを手元に呼び出し、切腹するように正座して構える。
ウンディーネがあんな状態で使えるのかどうかなんてわからねえ。
使った後、どうやって生を繋ぐのかもわからねえ。
そもそも勝てるかなんてもっとわからねえ。
わからねえだらけだけど、やるしかねえ。
「行くぜ、ウンディーネ」
こういうの、アニメとかだったらヒロインが後ろに寄り添ってくれたり、「頑張って」とか声掛けてくれたりするんだろうけど。
如何せんあいつは、そういう面倒なのやってくれなさそうだし。
だから俺は、俺の中だけにある薄い繋がりに向かって、言い聞かせるように叫んだ。
――ネプテューヌ!!




