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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
101/112

5-36 ファナティア再生

 なんにせよ、これで俺が戦力外通告を食らう事はなくなった。

 いやー、一時はどうなる事かと焦ったけど、こういうミラクルもあるもんだなあ、ダンジョン。

 あれ? でも、ウンディーネとの契約はどうなってるんだろうか。

 目を閉じて集中してみると、うすーく、繋がった感覚が胸の中にあるのがわかった。

 良かった、契約は切れてなかったんだな。

 とすると、距離が近づいたから力が復活したのかもしれない。

 そんな考察をしていると、先に歩いて行っている陽花が俺を呼んだ。


「おい、あんま離れんなよ。サラマンダーも気をつけろって言ってたろ」

『おう、そうだぜェ。どっかの童貞臭えガキみてェに、悪い精霊に騙されないとも限らねェからなァ』

「さ、サラマンダー! やめろ、そういうの……。すみません、曽良さん……」

「いいよいいよ、本当の事だし。どーせ俺は可愛い子に無様に騙されて利用された童貞クンだから……」

「だ、大丈夫ですよ! その……今は自身の信念に基づいて、異性との繋がりを断つ方だっていますから!」


 どこにフォローしとんねん。

 そんなこんなで、敵に出会う事もなく俺達は城内を進む。

 こうなると拍子抜けだな。もっとヤバい奴らが大挙して押し寄せてくるかと思ってたのに。

 押し寄せられても困るけどな。もう鉄ガーゴイルみたいな奴に対抗する手段がないし、さっきまでお役立ち能力使って戦ってたから、実質この、ただの軽い槍1本の戦いに戻れって言われたらかなり難しい。

 いざって時はウンディーネチルドレンを呼ぶ事もできなくはないけど、それだって奥の手みたいなもんだ。

 はあ、いつまで経っても強くなれねえもんだなあ。


『近えぞ、主の気配だァ』


 サラマンダーの警告に、俺達は気を引き締める。

 廊下の奥の大きな扉。そこに、ボスがいると考えていいだろう。

 あの変態の話によれば、ボスは聖女とかいう奴らしい。もし、おっさんみたく人間だったりしたらどうしようか。俺は、問題なく殺せるだろうか。

 ちら、と真琴を見る。もし、俺が殺せなかったとしても、真琴ならやりそうだ。なにせ真琴はこのダンジョンを消す大きな理由がある。俺は精々、ウンディーネを取り戻すくらいだ。

 だから、殺すのは任せたっていい。

 ……が、果たしてそれでいいのか? まだ18歳の女の子に、そんなもん背負わせていいのか?

 変態1人殺せない俺が言えた事じゃないけれど、いざって時は、俺がやらなきゃとも感じている。

 その『いざ』が来なきゃいいんだけどな……。


「開くぞ」


 扉に手を掛けて確認すると、2人が頷いた。

 ゆっくり、扉を開く。

 ――が、中で待っていたのは、聖女などではなかった。


「「~~~~~~っ!?」」


 瞬時に女子ズが背後を向く。

 大きな部屋の中には、デカいハンマー――ガイア・ノーツに似ている――を持ち、雄牛のような角付きのフルフェイスの兜を着け、さらには背中からうようよと触手めいた物を蠢かせる、完全体の変態が仁王立ちしていたのだ。

 あいつマジで何なんだよ!? 頑なに服を着ねえのは何の信義があるがゆえなんだ!

 つーか何だあの兜! 防具の概念があるんならまず股間を隠せ股間を! 俺に2回打たれて悶絶してるんだからさあ!


「やはり来たな、錦曽良」

「おう、来たよ。あんたも……キてんなあ……。なあ、その恰好、マジでやめといた方がいいぞ。ズボン持ってないなら、もう履いてないジャージとかやるから、それ着ろよ……」

「ここは俺の迷宮だ。速やかに出て行け。もはやお前に用はない」

「それも聞いた。ウンディーネ返せ」

「ウンディーネ様、か。ふん……」


 おっさんが、足元に転がっていた袋を、俺に向かって放り投げた。

 ドサッ、と重い音がして、俺の目の前に転がる。

 嫌な予感と共に袋を開いた俺は、思わず目を剥いて絶句した。


「ウンディーネ……」


 袋の中に入っていたのはウンディーネだった。

 元から青い肌からさらに生気が消え、まるで人形のような質感になっている。

 何だよこれ、冗談だよな?

 袋を取ると、ウンディーネは腹に大きな穴を開けられていた。位置的に、俺が入り口の前で倒れた時に痛みを感じた所だ。


「お前、ウンディーネに何しやがった……」

「器を満たしたのだ。我らが聖――」


 聞くつもりもない。

 アクア・ネビュラを握り締め、おっさんの所へ跳ぶ。

 いつもの数倍は体が軽い。まるでネプテューヌを発動しているかのようだ。

 一足でおっさんの頭上へ跳んだ俺は、顔面目掛けてアクア・ネビュラを突き下ろした。

 だが、触手の1本が俺を横から打ち据え、転がされてしまう。

 

「っの、やろぉ!」


 アクア・ネビュラを投擲、おっさんの胴体をぶち抜く未来をイメージする……も、左腕の一振りでアクア・ネビュラは弾かれてしまった。


「何を憤っている。元より、器の素質などないお前が、身の丈に合わない契約で苦しんでいたのを救ってやったのだ」

「うるっせえんだよボケ!」


 再び手の中に呼び戻したアクア・ネビュラを使い、おっさんへ向けて決死の連撃を繰り出すが、全部軽々と、素手で弾かれてしまう。

 何だこの力……! 明らかに、前にやった時より強くなってやがる!

 両腕を使い、腰を入れて渾身の突きを繰り出すが、おっさんは刃を素手で握って止めてしまった。


「くっ……そ!」


 片手で握られているだけなのにビクともしない。

 一体どうなってやがる……!


「我らが聖女は、無事器を満たされた。そして我と、そこなる2人の器が、ここに揃った。錦曽良、お前だけが、ここでは不要物だ」

「何だと!?」

「私達が、器……?」

「ちょ、何なんすか!? 何が起こってるんすか!?」


 後ろを向いたまま女子ズが狼狽する。

 さすがにこっちを向くよう怒鳴ったら、恐る恐るといった様子で戦況を確認して臨戦態勢に入った。

 すぐに真琴が大剣で斬りかかり、陽花は矢を連射するが、どちらも触手でいなされてしまう。


「くっ……」

「な、何すかこいつ!? 見た目ヤバいだけじゃないんすか! ていうか、ウンディーネ、さん……?」

「お前! ウンディーネに何をしたんだ!」

「喚くな鬱陶しい。器のお前達は、黙って見ていろ。完成まで、あと少しなのだから」

「……ッ!」


 真琴の体が燃え上がり、マーメルスに変身する。

 ジリジリと、燃え盛る大剣が攻撃を止める触手を焦がす。

 そのまま押し込んで叩き斬り、真琴は袈裟懸けにおっさんの体を斬った。

 だが、


「なっ……!」


 斬られたはずのおっさんの上半身が、映像が巻き戻るように再生する。

 おっさんの右腕が動き、ハンマーを振った。


「避けろ真琴ー!!」


 あれがガイア・ノーツなら、力は俺がよく知ってる!

 俺の忠告が届くより先に、真琴は大剣でハンマー攻撃を防御してしまった。

 途端に、大剣を地面に叩きつけるようにして真琴が倒れてしまう。

 やっぱりガイア・ノーツかよ、あれ! 重力操作の能力で、武器に強い加重を掛けたに違いない。

 追撃しようとするおっさんを、しかし稲妻を伴った矢が阻んだ。陽花が変身したユピテールだ。今度は、俺じゃなくおっさんへの怒りか何かで発動したんだろう。

 嵐のような連射だが、高速で動く触手によって全て阻まれてしまっている。

 やがて打ち負けた陽花は、触手で弾かれて壁に叩き付けられた。

 攻防の最中、真琴も腹を蹴り上げられて天井に叩き付けられ、落下し、マーメルスが解除されてしまう。


「てめえ……!」

「これで良い。さて、お前を始末しよう。我らが聖女と契約の糸が繋がっているままでは、儀式に支障をきたす」

「何なんだよお前ら、何がしたいんだよ……!」

「ファナティアの再生。それが我が望み」


 ファナティア。確かノームが語っていた、あいつらが作ったという世界の事だ。

 それを再生する? じゃあ、ファナティアはまた滅んだりしてるのか。滅んだり作り直されたり、まったく忙しい世界だ。

 でも、どうやって? 地球に来ちまった以上、元ファナティアへ帰る手段でもない限り、どう足掻いたって再生なんて叶わないはずだ。

 どんな夢見てるんだこいつは。


「お前の言うファナティア、もし再生できるんだとしてもな、ここは地球だぜ。確か、ダンジョンは壁とかいうのを超えてきたんだろ。じゃあ、ファナティアに帰る手段探しが先じゃねえのか?」

「その必要はない」


 ぴしゃりと言ってのけ、おっさんは刃を掴む手を振って、俺を放り投げた。

 石の床を転がされ、いよいよあばらの痛みが堪えきれないものになる。

 これヤバいな。完全に折れたんじゃないの。


「必要、ぐっ……ないって、どういう事だよ……?」

「土台となる世界は、既にあるではないか」

「はあ……? ……お、お前、まさか……!」

「左様」


 おっさんは、大仰に両腕を広げ、宣言した。


「この世界、ファナティア再生の土壌として利用する」


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