1-10 いやあ、ドラマってほんとーに良いものですね
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気がつくと、俺はコンビニの中にいた。
コンビニの狭い通路に立ち尽くす他のエクスプローラーらしき人達も皆、困惑したように辺りを見回している。
スーツを着た男が呆然とする集団を邪魔そうに避け、レジへ向かった。
近所でスポーツ大会があったのでもなければ、コンビニ内はおそらく、あまりに異質な光景になっている。
「攻略された、のか……?」
誰かがそんな呟きを漏らした。
それを機に、やや剣呑としたざわめきが広がる。
あーこれは、まずい気がするぞ。
「おい、それじゃもう稼げないのか」
「ウソ! ちょっと、誰!? 空気読まないの!」
「ぐああ、もうちょい稼がせてくれよ! くそっ!」
「許さんぞ、攻略組……!」
人の命が助かってこんなテンションになる事ってある?
想像以上に怒り心頭なエクスプローラーの皆さんに俺は若干引きつつ、そろーっと店を出ようとした。
と、そこで、陽花がいない事に気づく。
まさか、ダンジョンを脱出できなかったのか? 今も異次元のどこかに取り残されていたり……。
「んあ? センパイ、何ぼーっとしてるんすか?」
あらゆる心配を杞憂にしてくれる事に定評のある我らが陽花ちゃんは、普通にお菓子やらジュースやらを両手いっぱいに持ってレジに並んでいた。
「何やってんの」
「攻略で疲れちゃったんでエネルギー補給っす!」
馬鹿ー!
ほら、今の言葉を聞いた採取目的の方々が、君を見てひそひそ言ってるじゃんか!
知らない人のフリしとこ……。
「センパイもなんか買うっすか? 特別にボクが奢るっすよ」
「誰でしょうかあなた。私とは面識がありませんよね。さようなら」
「あはは、何言ってんすかセンパイ。さっきセンパイと一緒にボスのチキン倒した、陽花っすよー」
小芝居まで挟んだのに全然止まんねえ〜。
頼むから空気を読んでくれ。
それか、誰かこの子の口を封じてくれ!
「あ、あのう……」
並んでいる陽花に、恐る恐ると言ったようにおばさんが声をかけた。
すみません、このお馬鹿がご迷惑を……!
と、俺が保護者ヅラをする前に、おばさんは陽花の肩を掴んだ。
「あなたが、このダンジョンの攻略を?」
「そうっすよ」
あっけらかんと答える陽花に、おばさんの目が見開かれていく。
そうですよね、分かります、ご家庭の事情とか色々あるでしょうし、ちょうどいい副業を潰された怒りはごもっともなんですがまずは我々の話を、
「あっ……ああっ……! ケンジ……!」
おばさんは陽花の肩を離し、レジへ駆け寄った。
「あっ、割り込みダメっすよ!」
「え、母さん? なんで来てんの……」
「ケンジ! あなた、1年も……!」
おばさんはケンジと呼ばれた若い店員の手を取り、号泣し始める。
ケンジ君は当然、困惑気味だ。
バイト先に来た母親が突然泣き始めたんだからそりゃそうだろうな。
さすがに鈍い俺でも分かる。ダンジョンの出現で巻き込まれたケンジ君を、母親はずっと探していたんだろう。
おばさんの手はボロボロで、着ているジャージも擦り切れている。
どんな苦労があったのか想像に難くない。
「は、え? 俺、行方不明だったの!?」
「そうよ! 馬鹿!」
他の客らしき人達も、その言葉を聞いて慌てて日付を確認したり、どこかへ連絡しようとしている。
彼らにとっては本当に1秒前と感覚が連続しているんだろう。
以前に助けた子供もそうだったけれど、気づかないうち、一瞬で浦島太郎になるのはゾッとするな。
とにもかくにもハッピーエンドだ。親子の感動の再会に心の中で拍手しながら俺は、
「逃げるぞ」
陽花に耳打ちし、腕を引っ張った。
「ええ!? ちょ、ダメっすよ! 万引きになっちゃうっす!」
「違うところで買ってあげるから全部棚に戻しなさい!」
「ええー」
陽花と手分けして商品を棚に戻し、未だ混乱の最中にあるコンビニから足早に立ち去った。
◆◇◆◇
「なんで逃げるんすか。ボクら悪い事してないのに」
むすっと膨れる陽花をアイスで宥めながら、俺はコンビニのダンジョンの仕掛けについて考えていた。
あそこが難易度の割に1年も攻略されなかった大きな理由のひとつは間違いなく金稼ぎが目当てのエクスプローラーによる、攻略の遅延だろう。
そしてそれ以上に、真のボスを出現させるための仕掛け。謎の文字や物語を知っている事が前提のそれに、攻略目的のエクスプローラーも詰まっていたんだろう。
一体誰が考えたのかは分からないけど、俺だってウンディーネの助けがないと解けなかった。
他にも俺のような境遇の人はいるかもしれないとはいえ、そんな人が都合よく現れるわけでもないだろうし。
深い事を考えるつもりはさらさらないが、もしかしてダンジョン攻略って、普通は結構難しいんじゃないのか?
とすれば、少なくとも俺はウンディーネの助力が得られるこの僥倖を、活かさなければ損だ。
「ヘイ、ウンディーネ。俺の寿命って今どのくらい?」
『…………』
だんまりですわ。今日びのスマホでももっと素直だってのに。
どうやら俺が『アクア・ネビュラ』でコカトリスの尻を破壊したのにおかんむりらしい。
だって仕方ないだろ。首狙うとかグロくて嫌だし。
「ヘイ、ウンディーネ~」
『……約2ヶ月』
ぼそっとウンディーネの声が響く。
ツンデレさんめ。
それにしてもプラス1ヶ月か。コカトリスも柴ベロスと同じくらいの強さって事なのかね。
食われて中から攻撃したり、相方が倒したり、どちらも強さの判断材料が特殊すぎるけどな。
驚くべきは陽花のポテンシャルだ。映画みたいなアクションができるどころか、こいつバットを縦に潰してたよな。
「陽花、握手しないか」
「いいっすよ!」
すんなり手を差し出してきたので、握ってみた。
ひんやりした柔らかく小さい手。あんな芸当ができるんだから、もっとゴリラみたいにゴツゴツしてるのかと思ったけど、普通に女の子の手だ。
ふにふにと触っていると、陽花がくすぐったそうな声を出した。
「思い切り握ってみてくれ」
「んー? センパイもしかしてエッチな目的っすか?」
「何をどう解釈したらそうなるんだよ。いいから、握ってみ」
何故かニタニタとしながら陽花はぎゅっと手を握ってきた。
わずかに圧迫感があるくらいで、骨がひしゃげそうな感じはしない。
大人になってから女の子と手を繋いだ事なんてないけれど、まあ、平均程度の握力なんじゃないだろうか。
「遠慮してないよな?」
「してないっすよー」
ふんぎぎぎ、と唸り声まであげ始めたので、別の意味で怖くなり、離してもらった。
圧迫された跡は多少付いたが、やはり骨も肉も異常なし。
陽花が身体能力をどうこうする魔法でも使ったんじゃなければ、考えられるのは『ステータス』による補正だが……。
陽花のステータスって全部初期値じゃなかったっけ?
全然分からん……どういうからくりなんだ。
こいつは護身術(というにはあまりにも殺意が高いけど)を習っているという事だし、脳のリミッターを外す技とかあるんじゃないのか?
意見がぶつかったら即折れなんて世紀末のサバイバル術を教えるような先生に師事してるらしいし。
アイスの棒をベロベロ舐めて余韻を味わってる陽花を見る。汚いしアホの子っぽい。
「あちゃ、外れたっす」
「陽花、これからステータスの更新に行かないか?」
時間的に、まだ更新用の端末は使えるはずだ。
もう一本と駄々をこねる陽花を後で食事に連れて行くからと説得し、端末のある市役所へ向かった。




