表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

ガマニア帝国 旧騎士団長の行方


 まだ日が昇り切っておらず霜が降りている明け方、馬車の荷台からモゾモゾとした音が聞こえカイネが起きたようであることをアルカは察した。

 その後もしばらくの間はなかなか顔を見せなかったカイネだが、数刻経つと微睡が解けきっていないのかふらふらとした足取りでようやっと姿を現した。


「良く眠れたか、団長殿」


 静かに腕を組んで座っていたアルカは声を掛けた。


「おはようございます。お蔭様で良く眠れました」


「それは何よりである」


 うむ、と表情は固いがどこか満足気にアルカは頷く。

 護衛時における雇い主の体調管理も騎士としての務めである。ブランクがあるといえど、その癖は抜けきっていないようだ。

 

「生憎とこの周辺を調べてみたのだが魔物がいなくてな、代わりに果実や木の実を集めておいた。ここに毒性を持つ物はないから食べると良い」


 アルカは安全である証拠にと置いていた果実の内の一つを手に取って毒見の為に齧り付いた。

 

「そんなことしなくても」


 そして「ほら大丈夫だろう」と自信あり気にアピールしてくるアルカに対して、カイネは口元に手を当ててクスリと笑うが生真面目な彼はどこか楽観的な様子の彼女に注意を促す。


「団長殿、その考えは改めた方が良い。私の事を信頼してくれるのは結構ではあるが、元は敵対していた者同士、さらには出会ってから一日と経っていないのだ。仮にも私が既に他の者に雇われていたとしたら命はないぞ。昨夜のことから察するに団長殿はガマニアの姫君であらされるのであろう?」


 最終的に自分の命を守るのは自分なのだとアルカは伝えたかったのである。

 命を狙われていると言うのであれば尚更警戒すべきだと。

 しかし、カイネとしてもあのラディルが信頼を寄せている騎士だということ以上に、聞いていた人物像以上に、アルカという人物を実際に目の当たりにしたことで感じたところがあってのことだった。


「んー……、そうですね。もう少しアルカに曲がったところが見受けられたのなら、私も少しくらいは警戒していたのかもしれませんね」


 何故、そこまで言われてもなお出会って間もない彼を信じようとするのか。その問いに対して正確な答えを今のカイネは持ち合わせていない。


「ラディルもそうですが、あなた方の姿が私の目にはとても誠実で真っ直ぐなの様に映りましたから。その剣に殺されたのであれば私としてもどこか諦めの一つでもつくのではないかと」


「……団長殿は少し心が病んでいるのではないだろうか」


「言葉の綾です、察してください」


 真顔で返してくるアルカにカイネは少しだけムスッとした表情を作った。

 心配したつもりで掛けた内容の言葉だったが、機嫌をそこねてしまったかもしれないとアルカは別の話題を提供することにした。


「ところで団長殿。ラディルを率いれているということは彼の部隊も傘下に入っているとみていいのだろうか」


 ラディルの部隊と言ったが元はアルカ直属の総勢三千人を超す部隊だ。

 奴隷に落とされてからというものの行方を知る機会が無くガマニア帝国の軍勢に比べると一軍隊としては少ない人数ではあるが、粒ぞろいの精鋭だったことは確かな記憶である。

 その者たちがカイネの元に集っているのであればアルカとしても足が運びやすいといえよう。

 人見知り――というわけではないが既に世間では亡くなっているとされている今、事情を知る者が多ければ多い程有難いというものである。


「はい、勿論です。私の分も合わせると一万はいるでしょうか」


 要するにカイネの直属となっている軍はおおよそ六千から七千といったところか。

 しかしここでカイネの返す内容にアルカは疑問を抱く。

 むしろラディルの兵を合わせても一万しかいないのかと。

 まるで一軍隊しか連れていないとでも言うような彼女の口ぶりにアルカは過去を確認するかのように口を開いた。


「ん? ガマニア帝国といえば数で圧し数で守する密集方陣ファランクスを戦術に用いていたと記憶しているが……。故にローランドとの雌雄を決することが出来ずにいたのだ。一軍隊は確かにそのくらいの数であったと記憶しているが、それが何十という軍であったはずであろう」


 アルカが言うように旧ローランドが擁していた五万強の戦力に対して、ガマニア帝国の兵士騎士はその数占めて十万を超えていた。

 騎士団長であるカイネの元から離れ一体その軍勢はどこにいったというのか。そこまで考えたところでふと、一人の男の名を思い出した。


「現ガマニア騎士団長は貴殿であると最初に会った時に聞いたが、それならば元ガマニア騎士団長である"ガガトロイ"――。彼は今どうしているのだ」


 総勢十万を束ねることを可能とした将、ガガトロイという男の存在のことだ。

 ガマニアが地に堕ちなかったのは純粋に圧倒的な兵力を所持していたことも要因の一つだが、それをまるで手先の様に自在に指揮し、動かすことを可能とした彼が居たからに他ならない。

 彼という存在を退けて"戦う力のない"カイネが現ガマニア帝国の騎士団長を務めていることに何故、今まで疑問を抱かなかったのか。

 単に三年という歳月の中で時代が変わっただけではないことに勘付いたアルカはその疑問を躊躇なく投げかけるのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ