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三年の歳月


 これまでアルカに投資してきた分に色でも付けられたであろうベイトはほくほく顔でアルカとカイネを送り出した。

 

「今回のアルカ殿の買い物は少し高くつきましたね。お蔭で私の貯金は底を突き破ろうとしています」


 ベイトの領地から外に出たカイネは「んー」と、空に向かって背を伸ばしながら言った。

 少しと彼女は言うがそんな表現で済まされる額ではなかったはずである。


「騎士たるものいかなる時も常に凛としておくべきだと思うのだが、いかがか団長殿」


 久しぶりに外の世界に出たアルカは気の緩んでいるカイネに対して指摘をした。

 かくいう彼も久々の"自由"に少しばかり心が躍っているのはいうまでもない。


「団長は辞めてください。上から口調のついでに私の事はカイネで構わないですよ」


「雇い主を敬称なしに呼ぶわけにはいかないだろう。対して私に殿は必要ない」


「口調については触れないんですね……。ではお言葉に甘えて、まずはアルカの仕立てでも見繕いに行きましょう」


 外に出たのはいいが、白銀の鎧を身に纏う女性の隣には髭の手入れもせずに髪も無造作に伸び、傷だらけになった筋骨隆々な男が立っているのだ。

 まずはその身なりから整えなければならないだろうとカイネは提案した。


「アルカはどういう装備が好みですか。この街で買えるものなど質が知れているかとは思いますが今後の参考までに」


 そしてどういう装備を整えて欲しいのかとアルカに希望を聞く。


「今は質の低い剣が一本あれば十分だと思うが」


 剣が無くともこの三年間で武器を持つ奴隷達を相手にし続け培った武術である程度はなんとかなるだろう。


「それだけだと私の拠点に着くまでずっと上半身裸になってしまうわけですが」


「別に私は構わないが、すぐに着くのか? 」


「それはちょっと凛と、というより堂々とし過ぎでは……? 場所はそうですね、ここから馬車で2日程といったところです」


 2日間の移動ともなれば多くの人の目に留まることだろう。

 確かに騎士団長の隣に見てくれの悪い男が立っていては面目が立たなくなるのも無理はない。

 しかしながら、アルカとしても自身の購入に大金を叩いたカイネの懐をこれ以上痛めたくないという思いがあっての発言である。


「では、アルカにはこの剣を渡しておきます。それから服と胸当ての一つくらいは買いにいきましょうか。さすがに今のその姿を多くの人に見られては色々とまずいです」


 しかしながら、金のことよりも今の体裁のことを気にするカイネは買いに行くぞとアルカの腕を引いた。


「待て団長殿。その剣は貴殿の剣ではないか。受け取れん」


 それよりも自身の腰に差した剣を渡そうとするカイネをアルカは引き止めた。


「とても良い剣とのことらしいのですが私には無用の代物です。アルカには分かっているのでしょう? だから私には団長という肩書も無用であると言っているのですよ」


「そうか、やはり貴殿は――」



 ――カイネは騎士ではない。


 一目見た時から傷一つない彼女を見た時から感じてはいたことである。 

 何の理由があって騎士団長という命を与えられたのかは謎であるが、彼女に付いていけばいずれはわかることだろう。


「だが貴殿が団長である限り、剣は騎士の象徴である。これは返すとしよう」


 しかしアルカはその剣を受け取らない選択をした。


「アルカの騎士道精神には感服ですね。このような騎士を手放すような真似をしたローランド陛下には罰が当たっても仕方なかったのかもしれません」


 まぁ、お蔭で私がアルカを手にすることができたのですがと余計なひと言をカイネは足しつつも、「では行きましょうか」と再びアルカの手を傷一つない手で引いて歩いた。



 一通りの買い物を済ませた二人は馬車に乗り込み、拠点のあるガマニア帝国を目指した。

 先までいた街は旧王都ローランド領と呼ばれるようになっているらしく、記憶にある王都の横断幕は全て取っ払われガマニア帝国の物へと移り変わっており、アルカは自身が敗戦したことをまざまざと感じた。


「本当にその様な剣1本だけで良かったのですか?」


 徐々にローランド領が遠ざかっていくのを背中で感じながら窓の外に目をやっていたアルカにカイネは声を掛けた。


「あぁ、構わない」


 鞘を通す為のベルトもないアルカはなんの変哲もない長剣を股の間に立てていた。

 そんな股の間にある剣は、武器屋の中でも隅に置かれて埃が被っているような安い剣だった。


「腕はなまっているかもしれないが私も騎士の端くれ、剣に使われるような遅れを取るつもりはない」


「いえ、そういうことではなくもっと使いやすい剣とかあったんじゃないかと。何度も言う様ですが貴方への出資は出し惜しみしませんので」


「良い武器が本当に優れているとは、私は思わない。大事なのは使い手の技量に合っているかである。その点、しばらく剣を振っていなかった私にはふさわしい剣と言えよう」


「そ、そうですか……」


 どこか満足気に股に挟んでいる長剣を眺めるアルカに対して、カイネの理解は追い付かなかった。


 時は夕暮れ、辺りも次第に静まり還り道行く道が暗闇に呑まれる頃。

 今日はどうやら野営をすることになりそうだ。



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